尾崎研究室が開発中の2台の移動ロボットが、JR宇都宮駅から次世代型路面電車システム「宇都宮ライトレール」に乗り込んで移動。駅の東口から45分かけて、市民向け行事が行われていた芳賀町「かしの森公園」まで、駅弁と温かいコーヒーを配送した。
- Advertisement -
2台のロボットでお弁当を配送
今回の実証実験の目的は、新しい物流システムの技術開発と検証だった。使われたロボットは宇都宮大学と同大学発の移動ロボットスタートアップのREACT株式会社(旧社名アイ・イート)が開発した2台。ロボット1は828×605×948mm。重さは80kg。台車型のロボットは735×528×1071mm、重さは72kg。
一つは研究室主体で開発されている研究用モデルで、もう一つはより実用性を重視した社会普及型の台車型ロボットとなっている。黄色と黒のカラーリングは、LRTに合わせた。
いずれも前2輪駆動で、最大移動速度は1.4m/秒、自動走行時は1.0m/秒。障害物認識による停止、緊急停止ボタン、自動走行、人追従(人のあとを追いかけること)といった基本機能を装備している。これらは茨城県つくば市で行われている自律走行ロボットのコンテスト「つくばチャレンジ」での仕様条件に準拠したものだという。
- Advertisement -
台車型のロボットのほうは「陽馬(ひるめ)」という名前で、REACTから製品化され、販売もされている。研究開発用の台車としてだけでなく、主に倉庫のなかなどで搬送用に使われている。
走行時にはロボット1台につき2名のオペレーターがついて安全管理を行う。一人はオペレーターで、運行状況を監視して、つねに操作用コントローラーを持って操縦へ移行できるようにする。もう一人は安全確認員として、収支の歩行者に対して実証実験を行なっていることを周囲に呼びかけ、安全を確保し、必要であれば緊急停止ボタンを押す。
実験の流れ
ロボットは事前に作成した環境マップ情報をもとに、自分がセンシングした情報をもとに、リアルタイムに自己位置を推定しながら、周囲の壁や柱、ベンチなどを目印にして自動走行していく。
加えて、宇都宮大学尾崎研究室の独自技術であるWi-Fiを元にした位置情報も合わせて活用して、マップを切り替えながら走行する仕組みだという。
ロボットは宇都宮駅構内にある「松廻家」のお弁当を積載。宇都宮駅東口の連絡通路を出発したあとに、「ROBOMECH 2024」会場でもあったコンベンション・センター「ライトキューブ宇都宮」に入り、事前に係員が開けて待っていたエレベーターを使って、LRT乗り場のある1Fに移動する。
- Advertisement -
1Fに降りたら、ロボットはそのまま屋外に出る。通路とプラットフォームを進み、実験のため貸切のLRTの到着を待って、乗車した。
宇都宮LRTは駅から東側に伸び、芳賀・高根沢工業団地までの14.6kmを結んでいる路線だ。車内には車椅子スペースと、大きな荷物をおけるフリースペースがある。乗り込んだロボットは、このスペースを活用して停車。そのまま、45分ほど移動する。
LRT終点の一つ手前の駅である「かしの森公園前」で下車。LRTが停車して下車したあと、ロボットはプラットフォームを移動する。
横断歩道手前で停車し、青信号を認識したあとに横断歩道を渡って、公園のなかで待っていた芳賀町長の大関一雄氏に、お弁当とコーヒーを届けた。
公共交通機関でロボットの移動範囲を広げる
活用された2台のロボットと今回のプロジェクトリーダーをつとめた尾崎研究室 大学院生の川内涼輔氏によるとは、開発準備期間が1カ月と短かったことと、狭所での移動、LRTが走行していない24時以降での検証などが大変だったという。今後の課題がわかったため、今後も開発を続けていくとしている。
今回の実験の一番の特徴は公共交通機関であるLRTへの乗車・降車だ。公共交通機関を使うことでロボット単独では不可能な移動範囲の拡大が可能になる。また将来的には、人の利用者数が少ない時間帯に新たな搬送手段として使う可能性があるという。
宇都宮芳賀ライトレール線(愛称:ライトライン)は2023年8月26日に運行を始めたばかりで、開業時には「国内に75年ぶりにできた新たな路面電車」として注目された。
今回は6月1日に始まったばかりの貸切運行の仕組みを使って、実験が行われた。
LRTは台車部分の構造を工夫し、床が300mm程度と低く設計されているおり、高齢者や車いすでも利用しやすく、当然、車輪型の移動ロボットも乗り込みやすい車両となっている。また従来の路面電車よりも振動も抑えられている。
なおLRTへの乗車手順は、人間がドア開閉状況を判断するか、ロボットが判断するかの二種類。プラットフォームを走って乗車マーク手前で止まるところまでは同じだが、人が判断する場合は人が指示を与え、ロボットが判断する場合はLiDARを使ってドアが開いたことを認識すると、自分でそのまま乗り込む。この点は実験でもうまくいったという。
降車時も基本的に同じで、降車時には位置情報に加えて、音声認識による降車駅判定の実験も行われた。「次はかしの森公園前」というアナウンスをロボットが聞いて下車すべき場所を判断するのだという。しかし今回はサーバーとの通信がうまくいかず、音声認識による下車判断はなしとなり、今後の課題の一つとするとしている。
宇都宮大学教授の尾崎功一氏は実証実験終了後、次のようにコメントしている。
尾崎氏:ほっとしている。部分的に実験はしていたが、通しで行ったのは今回が初めてだった。条件も変わったので、うまくいくかどうかドキドキしていた。ロボットが少し迷ってしまって時間がかかってしまったシーンもあったが、ほとんど自律で動けたのでよかった。なるべくこういった実験を繰り返してロボットの安定性を高めていきたい
尾崎氏は、ロボットの点数をあえてつけると「60点」だとし、今後について次のようにコメントしている。
尾崎氏:基本的なところはうまくいった。安定性を高めていきたい。ロボットの活用は社会インフラにつなげたほうが効果的。他のところでも実験が広がっていけばいいと思っている。
今回の実験は学会がバックにあったから色々なところと繋がって、チャンスを頂けた。学会を通じて他のところにも広がっていけばと思っている」と語りました
また、芝浦工大の吉見卓氏は次のようにコメントしている。
吉見氏:実世界では何がおこるかわからない。そういう意味では無事に終わって安心した。学会としての後押しも少しはできたのではないか。ロボットが使えるようになるまでには課題がたくさんある。実験をたくさん行って少しずつできるようにしていくことが重要。学会としても今後も協力していきたい。