8月19日、日本水上ドローン協会の第3回勉強会「水上ドローンに対する各業界からの期待と現状」に参加した。会場は筑波大学東京キャンパス文京校舎。3時間にわたり、メーカー、行政、利用者など、それぞれ異なる立場から水上ドローンの現在地と可能性が語られた。
「ドローン」という言葉から、多くの人はまず空を飛ぶ無人航空機を思い浮かべる。しかし、ここ数年、私が強く感じているのは、次に大きく動くフィールドの一つが「海」であるということだ。
無人水上艇は一般にUSV(Uncrewed Surface Vessel)と呼ばれ、自律航行を強く意識したものはASV(Autonomous Surface Vehicle)とも呼ばれる。今回の勉強会は、この水上ドローンが研究開発の対象から、実際の産業や行政、防衛の現場で使う「道具」へ変わり始めていることを実感させる内容だった。
ヤンマーと海上保安庁に見る「実装段階」への移行
なかでも興味深かったのが、ヤンマーと海上保安庁の事例である。
ヤンマーは決して最近になって無人艇へ参入した会社ではない。公開情報を見ると、内閣府のSIP「次世代海洋資源調査技術」に参画し、2016年度にはJAMSTECに洋上中継器としてRobotics Boat(ASV)の実証機を納入している。艇体は約4.4m、航行時間48時間以上で、DGPS、IMU、レーダー、AIS、赤外線・HDカメラ、複数の衛星・無線通信手段まで備えていた。AUVやROVと音響通信し、その情報を母船へ中継するという、いわば「海上の移動通信ノード」である。
ヤンマー自身も、海上通信は陸上より脆弱であり、無人運航では通信の冗長化や耐環境性が重要だと整理している。これは現在のUSV開発にも、そのまま通じる論点である。さらに同社は自動着桟など、自動操船技術を有人艇にも展開している。無人艇を単独製品として見るのではなく、船体、推進、操船、通信、センシングを統合する海洋ロボティクスとして捉えている点が興味深い。
一方、海上保安庁の事例として特に興味深かったのが、危険物探知用無人艇「あるばとろす」である。
海上保安庁は2023年度から「あるばとろす」の開発を進め、2026年度から本格運用に向けた検証を開始している。担当するのは、油や危険・有害物質の流出、海上火災などに対応する機動防除隊である。
これまで海上で有毒ガスなどが発生する事故が起きた場合、海上保安官が化学防護服や空気呼吸器を装備し、現場に接近してガス検知器による確認を行う必要があった。当然ながら、これは隊員自身を危険区域へ送り込むことを意味する。
「あるばとろす」は、こうした人が危険区域へ入って行っていた作業を、無人艇に置き換えることを目的としている。艇体は全長3.8m、幅1.9m、総トン数0.3トン、速力5ノット以上。遠隔操縦によって危険海域へ進入し、搭載した探知装置によって危険・有害物質を確認する。2026年度には横浜海上防災基地周辺を中心に、陸上輸送から発航までの迅速性、危険物探知装置の精度、遠隔操縦システムなどについて検証が進められている。
2026年6月に行われた訓練では、機動防除隊員が陸上からリモコンで艇を操縦し、搭載センサーが検出した硫化水素や一酸化炭素などの数値を陸上モニターへリアルタイム表示する様子も公開された。従来、人が防護装備を着用して行っていた「現場へ近づき、測る」という作業そのものを水上ロボットへ移そうとしているのである。
船名の「あるばとろす」は、機動防除隊のシンボルでもあるアホウドリの英名「albatross」に由来する。
この事例が興味深いのは、水上ドローンの価値を非常に分かりやすく示している点だ。
水上ドローンというと、自動航行や無人輸送といった「船を無人で動かす技術」に目が向きがちである。しかし、本当の価値はそこだけではない。人間が危険な場所へ行かなければならなかった業務そのものを、無人システムへ置き換えることにある。
これは空のドローンが、災害現場、火山、橋梁、送電線など「人が行くと危険な場所」で普及してきたのと同じ構造である。
海には、危険物事故だけでなく、荒天時の状況確認、港湾・護岸点検、海洋汚染調査、捜索救難、海底インフラ監視など、人を送り込むこと自体がリスクになる業務が数多く存在する。「あるばとろす」は、水上ドローンが単なる自動操船技術ではなく、海上業務そのものを変えるロボットになり得ることを示す、非常に分かりやすい国内事例だと思う。
「海の次世代モビリティ」から「海洋ドローン」へ
国の施策を見ても、この流れは明確になっている。
国土交通省は、ASV、AUV、ROVを「海の次世代モビリティ」と位置付けて実証を進めてきたが、2026年度からは事業名称そのものが「海洋ドローンの利活用に関する地域モデル創出のための実証事業」となった。沿岸・離島地域の担い手不足、老朽インフラの管理、海洋環境の把握などに対して、海洋ドローンによるデータ収集・分析と海中作業の自動化を進めるという考え方である。
また、内閣府の「海洋開発等重点戦略」でも、日本が世界第6位の広大な管轄海域を有することを前提に、海洋のポテンシャルを国力につなげる方針が掲げられている。日本にとって海洋無人システムは、単なる新しいロボット製品ではない。人手不足への対応、海洋インフラ維持、資源・環境調査、離島対応、海洋安全保障までを横断する基盤技術になり得る。
防衛でも同じ動きがある。防衛省の2026年度予算では「無人アセット防衛能力」に約2,773億円が計上され、その中でも1,001億円を投じて、UAV、USV、UUVなどを組み合わせる「SHIELD(Synchronized, Hybrid, Integrated and Enhanced Littoral Defense)」と呼ばれる多層的沿岸防衛体制を構築するとしている。さらに、それら複数の無人アセットを一元的に管制するシステムの導入も追求すると明記された。空だけではなく、水上・水中まで含めた無人システムの統合運用が、日本の防衛政策の具体的な予算項目になったのである。
ホルムズ海峡が示した「海のドローン戦」
そして2026年、水上ドローンの意味を一段変えたのが、米国・イスラエルとイランの戦争、そしてホルムズ海峡をめぐる一連の事態だと私は考えている。
9月時点でもホルムズ海峡の船舶通航は大きく落ち込み、Reutersによれば9月10日の通航はわずか7隻と、戦前の日平均125隻を大幅に下回った。世界のエネルギー輸送を左右するチョークポイントで、海上交通の自由そのものが安全保障課題になっている。
ここで注目したいのは、無人艇が「攻撃する兵器」だけとして登場しているわけではないことだ。
6月には米海軍の無人水上艇Saronic Corsairが、ホルムズ海峡近海で墜落したAH-64 Apacheの乗員を救助した。米中央軍によれば、Corsairは米海軍第5艦隊のTask Force 59によって運用され、墜落から約2時間後に現場へ到着したという。軍用USVによる海上救難という新しい用途が実戦環境で示されたことになる。
英国海軍も、12m級の無人水上艇Ariadneを、機雷原に人員を入れず機雷を探知・処分するシステムとして、ホルムズ海峡での任務を念頭に実戦配備に向けた試験を進めている。監視、警戒、機雷対処、救難、通信中継、さらには有人艦艇の前方で危険を引き受ける役割まで、USVの用途が一気に現実のものになってきた。
ウクライナ戦争は、無人機が戦争を変えることを世界に示した。しかし日本にとっては、私はホルムズ海峡で起きていることの方が、より直接的な示唆を持つ部分が多いと感じている。
日本は海に囲まれた島国であり、港湾、離島、シーレーン、海底ケーブル、エネルギー輸送など、国家機能の多くが海とつながっているからだ。海峡や沿岸部で多数の無人システムを分散配置し、有人アセットと組み合わせる考え方は、日本の地理条件と極めて相性がいい。
日本の法律は「無人艇禁止」ではない
では、日本国内で無人水上艇を自由に走らせられるのか。ここは空のドローンと大きく感覚が違う。
現在、日本には航空法における無人航空機制度のような、一つの「水上ドローン法」があるわけではない。基本的には船舶として、船舶安全法、小型船舶登録法、船舶職員及び小型船舶操縦者法、海上衝突予防法、港則法、海上交通安全法など、既存の海事法体系を用途・船型・航行海域に応じて適用していく構造になっている。国土交通省の「海の次世代モビリティ」の資料でも、ASVについてこれら複数の法令・ガイドラインを確認する必要があることが整理されている。
重要なのは、無人運航そのものが制度上想定されていないわけではないことだ。
国土交通省は2019年に「遠隔操縦小型船舶に関する安全ガイドライン」を公表した。総トン数20トン未満の遠隔操縦小型船舶を「特殊船」として国が検査し、必要な安全対策を定めた運航マニュアルについて国土交通大臣の承認を受け、そのマニュアルに従って運航する場合には、無線操縦による無人運航を可能としている。通信断に備えた機能も要求され、原則として遠隔操縦位置から3海里以内という航行条件も示されているが、周辺状況を把握し遠隔操縦者へ伝達する機能があれば一定範囲で緩和できる。
さらに国際的には、2026年5月、IMOで自動運航船の安全な設計・運用・管理を体系化したMASS Codeが策定された。当面は非義務的コードとして運用され、2032年の義務化に向けた議論が予定されている。つまり、法制度は「無人船は例外」という時代から、「無人・自動運航をどのような安全要求で社会実装するか」という段階へ移りつつある。
実は日本には、かなり強い産業基盤がある
そして私が水上ドローンを日本の有望分野だと考える最大の理由の一つが、既存のマリン産業の厚みである。
代表例が船外機だ。ヤマハ発動機の2026年ファクトブックによれば、2025年の世界の船外機需要は約89.2万台。このうちヤマハの出荷は27.1万台、世界需要の約30.3%に相当する。同社の船外機は90%以上が海外向けで、約180の国と地域で販売されている。中・大型4ストローク船外機は静岡県袋井市、中・小型は熊本県八代市に主要生産拠点がある。
しかも日本にはヤマハだけでなく、スズキ、ホンダ、トーハツといった船外機メーカーが存在する。例えばスズキも中・大型船外機を静岡県湖西工場で生産し、174以上の国・地域に展開している。つまり無人水上艇の心臓部となる推進系について、日本はすでに世界市場で戦っている産業基盤を持っているのである。
水上バイク、すなわちPWCでも、日本企業の存在感は大きい。ヤマハのWaveRunner、カワサキのJET SKIは世界的に確立されたブランドであり、とりわけ「JET SKI」はカワサキの登録商標が一般名詞のように使われるほど知られている。ヤマハの2025年の水上オートバイ出荷は4.3万台で、その63.5%が米国向けだった。
つまり日本企業は、艇体を作るだけではなく、過酷な水環境で使われるエンジン、ウォータージェット、操舵・スロットル、電装、耐食・防水、量産品質、そして海外販売・サービス網まで長年蓄積している。
ここは、空のドローン産業と比較すると非常に重要な違いである。
無人水上艇の場合、ベースとなる船体や推進機をすべて海外から調達しなくても、国内に選択肢がある。主要な機械系を国内で設計・製造し、そこに自律航行、センサー、通信、AI、遠隔管制を追加する構成が取りやすい。これは経済安全保障やデュアルユースの観点でも大きな強みになる。
もちろん、USV全体でサプライチェーンリスクが小さいと断言するのは適切ではない。GNSS受信機、半導体、通信モジュール、EO/IRカメラ、LiDAR、衛星通信など、電子系では海外依存が残る。しかし、船体・エンジン・推進・操船という「動くための基盤」を国内産業が持っていることは大きい。
必要なのは、それらをロボットとして再統合する技術である。
さらに、日本メーカーの強みは国内市場だけを見なくてよい点にある。既に船外機やPWCは世界中で販売され、販売店や整備網も存在する。水上ドローンを「日本専用の特殊機」として作るのではなく、既存マリンプラットフォームに自律制御や遠隔監視を組み込み、海外市場へ展開する発想が持てる。
日本がゼロから世界市場を作らなければならない分野ではないのである。
防衛だけではない。民生市場の方が裾野は広い
水上ドローンというと、最近はどうしても防衛用途が目立つ。しかし、社会実装の裾野はむしろ民生の方が広い。
港湾やダムの測深、護岸・橋梁・洋上風力設備の点検、海洋環境・水質調査、赤潮やブルーカーボンのモニタリング、漁場調査、養殖場管理、海底ケーブルやパイプライン周辺の監視、災害時の被害確認、危険物漏洩海域の調査、警備、捜索救難、離島物流など、「人が船で行っている仕事」の相当部分には無人化・省人化の余地がある。
国土交通省自身も、海洋ドローンを担い手不足の補完、生産性向上、新市場創出の基盤技術と位置付けている。
ここで重要なのは、単に船を無人にすればよいわけではないという点だ。
価値が出るのは、「何の作業を、どのセンサーで、どの程度自動化し、取得したデータをどう業務につなぐか」まで設計できたときである。
これは空のドローンが、機体販売だけの市場から、測量、点検、物流、警備といった業務ソリューションへ移ってきた流れとよく似ている。水上ドローンも、最終的には艇そのものより「ミッションを自動化するシステム」が市場になるだろう。
水上艇には、水上艇ならではの制御の難しさがある
筆者が経営するドローン・ジャパンでは、約3年前から無人水上艇の制御に関する開発支援を行ってきた。その中で実感するのは、航空ドローンの技術をそのまま横展開すれば成立するほど単純ではないということだ。
水面では風、波、潮流が常に外乱として加わる。艇には慣性があり、停止させようとしてもすぐには止まらない。低速になると舵やウォータージェットの効き方が変わり、速度制御と旋回制御が強く干渉する。
GPS上では正しい航路に見えても、実艇では蛇行したり、ウェイポイントで大きく膨らんだりする。通信が途絶した場合に停止するのか、待機するのか、帰還するのかも、海況や航路によって正解が違う。さらに有人船との衝突回避では、「止まれば安全」とは限らない。
逆に言えば、ここには技術としての参入障壁がある。
船体特性を理解し、スロットル、舵、ウォータージェット、GNSS、IMU、レーダーやカメラ、通信、地上管制を一つのシステムとして調整していくノウハウは、実海域で試験を重ねなければ得られない。
空のドローンは、この十数年で大きな産業になった。次の10年を考えたとき、日本が強みを持てる「海のドローン」はもっと注目されてよい。
防衛、海洋安全保障、インフラ、漁業、環境、物流。用途は既に見えている。そして何より、日本には世界で戦えるマリンメーカーと、その産業基盤がある。
水上ドローンを検討している企業にとって、いまはまだ「完成された市場」に参入する段階ではない。だからこそ、艇体、制御、通信、センサー、運用をどう組み合わせるかを早い段階から試す意味がある。
ドローン・ジャパンでは、水上ボート、水上バイクを含め、無人水上艇の自律制御・機体統合について実機で経験を積んできた。水上艇ならではの難しさを理解したうえで、成立させるための制御やシステム構成についても知見を蓄積している。
無人水上艇を使った事業や製品を構想している企業があれば、ぜひ相談いただきたい。
空から海へ。
日本にとって水上ドローンは、単なる「次のドローン」ではなく、既存の強いマリン産業とロボティクスを結び直し、新しい国内市場と輸出産業を同時に作れる可能性を持った領域なのである。