GPSも通信もカメラも使わない追尾
ドローンは大きな音をたてながら飛行する。住民には騒音として嫌われ、研究者からは自機のセンサーを邪魔する「エゴノイズ」として扱われてきた。だがその音は、プロペラの枚数と回転数で決まる規則正しい構造を持っている。ならばそれを情報として使えないか―米デューク大学の研究チームが2026年8月に公開した論文は、この問いに実機で答えを出した。

チームが開発した技術「SonicFly」は、先行するドローン(リーダー)を後続機(フォロワー)が音だけを頼りに追いかけるシステムである。フォロワーに載るのは、7.5cm間隔で4つのMEMSマイクを並べた小さな基板と、推論用の小型コンピューターだけだ。リーダーの位置をGPSで共有することも、機体間で無線通信することも、カメラやLiDARで相手を捉えることもしない。ただ聞くだけである。
屋外実験では、目標間隔3.5mに対して平均1.34mの誤差で追従を維持し、リーダーを中心とする幅3.5mの帯の中にいた時間は全体の78%に達した。直線、C字、S字、L字に加え、「DUKE」の文字をなぞる軌道まで、20種類以上の飛行パターンで追尾に成功している。実験は夜間、霧、強い日差し、曇天と条件を変えて行われ、気温は8℃から32℃、湿度は19%から93%、風速は最大で時速約37kmまで幅があった。
ドローンの音を検知する研究自体は以前からある。しかし従来は、マイクを地上に固定するか、聞き手側のドローンのモーターを止めた状態で行うのが普通だった。今回の難しさは、聞き手自身が飛びながら聞く点にある。フォロワーのプロペラとモーターが発する音はリーダーの音と同じ周波数帯に重なり、しかも聞き手が動くたびに音場そのものが変わる。論文の計測では、フォロワーが静止しているときに比べ、飛行中は信号対雑音比が大きく低下し、風が加わるとさらに悪化した。
チームはまず、この難問を切り分けた。屋外の草地に12台の地上マイクユニットを10m間隔で並べ、上空を飛ぶリーダーの位置を音だけで推定する実験を行い、方位誤差6.86°、距離誤差1.26mで軌跡を再現できることを確かめた。飛行音に位置情報が含まれることを示したうえで、次に「飛びながら聞く」問題に取り組んだのである。
カメラやLiDARより「見えていた」
その解法は、ハードとソフトの両面にまたがる。第1に、プロペラの枚数を変えた。リーダーは2枚羽、フォロワーは3枚羽にすることで、ブレードが空気を切る周波数とその倍音がずれ、自機の音と相手の音を周波数上で部分的に分離できる。第2に、使う周波数帯を絞った。1kHzから2kHzの帯域だけを学習させたモデルが、0kHzから6kHzの全帯域を使ったモデルより良い成績を出したという。低い音は遠くまで届くが方向の手がかりに乏しく、高い音は方向はわかるが減衰しやすく不安定になる。情報を増やせば良いわけではないという結果である。第3に、4つのマイク間の位相差と音量差を畳み込みニューラルネットに与え、推定の信頼度が低いときはカルマンフィルタが値を捨てる仕組みを入れた。
注目すべきは既存センサーとの比較だ。夕暮れや霞のかかった条件で同じデータを使い、相手を捕捉できていた時間の割合を測ると、音響が76.57%、カメラ(RealSense D455)が52.48%、LiDAR(Livox Mid-360)が61.13%だった。音響ペイロードの重さは10g、消費電力は1Wで、LiDARの265g・6.5Wとは桁が違う。もちろん理想条件での精度は視覚やLiDARに及ばず、現時点では1対1の追従にとどまり、複数機の精密な編隊制御には至っていない。チーム自身も「置き換えではなく補完」と明言している。それでも、暗闇や視線が通らない場面で機能する軽量な補助感覚としての価値は明らかだろう。
この研究の射程は、ドローンの追尾にとどまらない。論文は冒頭で、水面の波紋で交信する水生昆虫や、周囲の泳ぎが生む水流を感じ取る魚を引いている。生物は行動の副産物を情報源として使いこなしているのに、ロボットはそれを雑音として抑え込んできた。振動、後流、熱、気流。動けば必ず生じるこれらの物理的痕跡は、設計次第で情報になりうる。
この技術が生きるのは、既存センサーが頼れない場面だ。論文内でも触れられているが、GPSはビルの谷間やトンネル、密林の樹冠下で不安定になり、妨害や偽装信号にも弱い。カメラは夜間や霧で視界を失い、機体間の無線は電波の混雑や遮断に左右される。しかし通信もGPSも途絶えた状態でも、僚機の音だけで隊列を保てるなら、災害現場の捜索、夜間の送電線や橋梁の点検、山林での物資輸送といった用途で、運用の幅は大きく広がる。10g・1Wという軽さは、小型機の飛行時間をほとんど削らない点でも実用的だ。研究チームは複数機での協調や、より良く聞こえる位置へ自ら動く制御を次の課題に挙げている。騒音でしかなかった飛行音が、ドローン同士をつなぐ共通言語になる日は、そう遠くないのかもしれない。