無人機・ドローンの展示は2022年2月から続くロシアによるウクライナ侵攻と、2026年2月末に起きた米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響を見ることができ、空飛ぶクルマへ目を注ぐと一歩ずつ歩んでいる中にミリタリー化の流れも見えた。
ミリタリー化は「経営戦略」のため?
ファーンボロの地で1948年から続く伝統あるショーは、7月30日の主催者発表によると14万1580人の来場者があり、航空機は353機、エンジンは904基の商談が成立した。そして、今回のショーを特徴づけたのは、ミリタリー関係の展示が増えたことだ。ファーンボロの前週に開かれるはずだった軍事関係の展示会が、イラン攻撃のあおりを受けて中止になったためと見られているが、確かに前回よりも迎撃型小型ドローンや、有人戦闘機に随伴する無人戦闘機CCA (Collaborative Combat Aircraft)の展示が目に付いた。
こうしたトピックに目を奪われはするものの、空飛ぶクルマも米アーチャー・アビエーションやジョビー、ブラジルのイブ・エア・モビリティが恒例となった実機大の模型を展示した。その中で、まず企業の動きとして注目されたのが、アーチャーが米国の新興防衛企業アンドゥリルと共同開発で軍民両用のハイブリッド電動航空機Haloを発表したことだ。

Halo自体は空飛ぶクルマではなく物流ドローン。発表は、日本での最近の注目ワードならデュアルユースを示しているが、別の視点を挙げた海外の報道もあった。いわく、空飛ぶクルマが商業的に目指すビジョンは、実現に時間がかかると分かった。その一方、ウクライナ侵攻やイラン攻撃のように、戦場での輸送用無人機の需要は高まっている。企業として存続していくためにアーチャーはHaloも手掛けるというのだ。まず経営戦略ありき、ということだろう。
地元で登場、バーティカル・エアロスペース
だからといって、空飛ぶクルマが来場者の興味を引かなかったわけではない。各社の展示はむしろ社会実装への練り上げを示していた。その一つが、英国ブリストルに拠点を置くスタートアップ企業バーティカル・エアロスペースのVX4によるデモンストレーション飛行だった。

VX4は操縦士1人が乗るだけで客席は見受けられなかったが、主翼に連ねた8基のプロペラを立てて離陸し上空で水平に移すと、主翼前の4基のプロペラを使い騒音もなく進んでいった。ゆっくりと旋回し、そして速度を落とした後は、やはり静かに着陸した。デモ飛行はごく短時間であったが、一連の飛行のスムーズさに技術的な進み具合を感じた。
バーティカル・エアロスペースは英国政府と、英国初の量産拠点の建設へ向けて1,000万ポンド(約21億5,000万円)の追加助成を協議しているともショー期間中に伝えられた。デモ飛行の後、駐機場へ戻ったVX4を大勢の見物客が取り囲んだのも、空飛ぶクルマの実装への関心の表れだった。

「航空ショーになぜ車」「出資しているので」
他メーカーも、多くの出展社と空飛ぶクルマの差別化を図っていた。一般に航空機のパーツや装備品をつくる出展各社は、複数ある大ホールに各々ブースを並べる。このあたりは東京ビッグサイトや日本の各地方の物産展と変わらない。これとは別に、上り調子だったりその国を代表したり、あるいは世界的に名の通った大企業は、独自に展示場を設けるのが通例だ。例えば、ファーンボロ航空ショーではホスト企業のBAEシステムズが、パリ航空ショーではダッソーなどが好例だろう。
アーチャー、ジョビー、イブ・エア・モビリティもBAEシステムズほどではないものの、ホールとは別の展示場を設けていた。独自の棟なら壁面上部に大看板を掲げることもでき、アピール力も増し目立つ。そして、ジョビーの展示場の隣に並んでいたのは、自動車大手トヨタのSUV(スポーツ用多目的車)。決してUAV(無人機)やUSV(無人水上艇)ではない。
「航空ショーになぜ車が」。答えはひどく簡単。当たり前。「トヨタが出資しているから」。むしろ、交通手段のシームレス化やトヨタの経営戦略をわかりやすく示してもいたが、こうなると、「空飛ぶ」よりも「クルマ」を意識せざるを得ない。展示機、いや展示車両のドアも開いている。気持ちおのずと内装へ向いていく。
ディーラーを念頭に置いてみると
予め断っておくが、広い会場を有人無人、軍民問わず駆け足で巡り、何がニュースか探すには、どうしても「取材3分記事5分、昼は早食い」になる。丹念な観察は能わない。来場者も入れ代わり立ち代わり、空飛ぶクルマの座席に腰かけて使い勝手を確かめる。このあたりは、ディーラーで車を見るのと何ら変わらない。
邪魔にならず間隙を縫ってジョビーの車内の写真を撮る。座り心地も確かめれば、クッションは適度に硬く座面も背もたれもできる限り薄くつくっている。軽量化のためだろう。これはどのメーカーも同じだ。
ジョビーは推進用のプロペラが頭上高くにあるため、さほど降着装置を高くする必要はない。そう思うものの、不時着時の衝撃緩和も兼ねているのか。床面は地上高があり、乗り降りにやや不便と感じた。それを補うためか。左右のドアはいずれも、機体強度に影響を与えないぎりぎりまで開口部を設けているのが目についた。

トランクは容量があったイブ100
アーチャーもミッドナイトの実物大模型を展示し、イブ・エア・モビリティのイブ100も貨物室、いや「クルマ」を見ているのだから、ここはトランクだ。トランクを開けてスーツケースが何個入るか見せていた。トランクは思いのほか広く、将来的に駆動系の出力が上がれば、乗客数も現在の4人からワゴン車のように増やすことができるのではと思えた。

イブ100の座席は前後に2人ずつあり、床面からの支柱はいずれも簡素なつくりだった。天井と頭の間に空間的な余裕はどのくらいあるか。残念ながら、こぶし何個分と測るまでの時間はなかったが、座席にはリクライニング機能も後部座席の乗降を助ける前部座席のスライド機構もないのは見ることができた。しかし、丁寧なつくりは他社も変わらない。
丁寧なつくりにバブル期の日本で流行った「ハイソカー」なる言葉を思い出したが、カップホルダーやサングラス入れ、灰皿などのインテリアアクセサリーは今時の車と比べたら素っ気ない。とはいえ、カップホルダーを乗客分備えれば、たとえ素材に軽量プラスチックを使っても重量増加が心配される。このあたりは航空機、車を問わず、快適性と軽量化を如何に両立させるか、各メーカーとも設計上のトレードオフに葛藤があるのではと想像した。
並列したテーマへ観察は続く
ファーンボロ航空ショーの期間中は、出展しなかった企業もニュースリリースを出すことが多い。日本でもスカイドライブが量産機SD-05の製造に備えて、インドのKinecoやスペインのAirtificial Aerospace & Defense, S.A.U.、そして静岡県浜松市に本社を置くアイティーオーと複合材、金属加工パートナーとしての契約締結を発表している。いずれも製品加工へ高い技術を持つとされるだけに、SD-05の量産への進展を表していた。
余談だが、灰皿やカップホルダーなどは空飛ぶクルマでも装備されるのか。ハイソカーを経て、車内アクセサリーが充実し続ける車の今を思えば、素朴でも疑問は脳内リフレインする。帰国後にスカイドライブに聞いてみたところ、「カスタマーユニークとして、需要があれば、搭載について考えたい」と言うことだった。
デモ飛行したVX4は試験機然としていたが、地上展示をした各メーカーの車体を前にすれば、空飛ぶクルマの社会実装への流れは途絶えていないと知ることができた。そのうえで、果たしてミリタリー化はどれほど拡大するのか。その時、空飛ぶクルマはどれほどユーザーを魅了しているか。並列するテーマへ観察が欠かせないのは間違いない。