7月、アイ・ロボティクスとドローン・ジャパンは、Blue UAS Laboratory Kawachi(BULK)の設立を発表した。
このニュースリリースが示す産業構造の変化を記したい。
このニュースリリースが示す産業構造の変化
このニュースはBlue UAS対応を支援する研究所の設立に見える。しかし、このニュースの本当の意味はそこではない。このニュースは、ドローン産業が大きく次の時代へ進んだことを示している。
これまでメーカーは、
- より長く飛ぶ
- より速く飛ぶ
- より高精細なカメラ
を競ってきた。
しかし米国が今求めているのは、
- 「どこの部品で作られているのか」
- 「ソフトウェアは信用できるのか」
- 「運用まで含めて安全なのか」
ということである。
つまり、性能ではなく、Trust(信頼)が競争力になったのである。
Blue UASとは何か-「安心して調達できるドローン」を見える化した制度
「Blue UAS」という言葉を聞くと、多くの人は「米軍向けのドローン認証制度」と考えるかもしれない。もちろん、それは間違いではない。
しかし、本質は少し違う。
Blue UASは、「軍用ドローンを認証する制度」ではなく、『このドローンは、防衛や政府機関が安心して調達・運用できるか』を評価する仕組みである。
例えば、防衛省や自治体が車を購入するとき、単に「よく走る車」であれば良いわけではない。
- どこのメーカーが製造したのか
- どこの部品を使っているのか
- ソフトウェアは安全なのか
- 故障した際の対応はどうなっているのか
- 長期間にわたり部品供給は続くのか
こうした「信頼性」が確認できなければ、公的機関は安心して採用することができない。ドローンでも事情は同じである。
特に近年は、ドローンが取得する映像や位置情報が国家安全保障や重要インフラに関わるケースが増えている。そのため米国では、「飛ぶ性能」だけでなく、「誰が作り、どのような部品を使い、どのようにデータを扱うのか」まで含めて評価する必要が生じた。
こうした背景から整備されたのがBlue UASである。
Blue UASは、当初、米国国防総省のDIU(Defense Innovation Unit)が中心となって整備し、現在はDCMA(Defense Contract Management Agency:国防契約管理局)へ運営が移管される方向で制度の再編が進められている。目的は、NDAA(National Defense Authorization Act:米国国防権限法)などで求められるサプライチェーンやセキュリティ要件を満たす、信頼できるドローンやコンポーネントを識別し、政府調達につなげることである。
Blue UASで重視されるのは、飛行性能だけではない。
例えば、
- サイバーセキュリティ対策
- 暗号化や認証の実装
- ソフトウェアやハードウェアの部品表(SBOM・HBOM)
- 部品の製造国や供給元
- サプライチェーンの透明性
- 安全なソフトウェア更新
- データ保護や通信の安全性
など、多岐にわたる観点から評価される。
つまりBlue UASとは、「飛ぶことを証明する制度」ではなく、「信頼できることを証明する制度」なのである。
Green UASとは何か-「信頼できる民生ドローン」を育てる制度
では、そのBlue UASに対してGreen UASとは何なのだろうか。
一言で表現すると、Green UASは、商用・公共用途における「信頼できるドローン」の基準を整備するための制度である。
Blue UASが主に防衛・政府用途を念頭に置いていたのに対し、Green UASは、電力会社、建設会社、自治体、警察、消防、インフラ事業者など、より広い民間・公共市場を対象として設計されている。
ここで重要なのは、Green UASは「Blue UASの簡易版」ではないという点である。
送電線点検、ダム監視、港湾警備、災害対応などの現場では、軍事用途ではなくても、高い信頼性が求められる。
例えば、
- 「取得した映像は安全に保管されるのか」
- 「クラウドへ送信されるデータは適切に保護されているのか」
- 「通信が第三者に乗っ取られる危険はないのか」
- 「部品はどこの国で製造されているのか」
- 「ソフトウェアに脆弱性はないのか」
こうした課題は、防衛用途だけではなく、民間の重要インフラでも同じように存在する。
Green UASは、こうした課題に応えるため、製品・デバイスセキュリティとサプライチェーンリスク管理を中心に評価する仕組みとしてAUVSI(Association for Uncrewed Vehicle Systems International)により整備された。Green UAS Certifiedではさらに、企業全体のサイバーセキュリティ体制や運用管理まで含めて評価対象となる。
言い換えれば、Green UASは、「安全に飛ぶドローン」ではなく、「安心して社会で利用できるドローン」を目指した制度なのである。
そして2025年、このGreen UASは、Blue UASへつながる正式な評価ルートとして位置付けられた。
これは単なる制度変更ではない。
米国が、防衛市場だけでなく、民間市場全体の信頼性を底上げし、その成熟した技術や企業を政府・防衛分野へと発展させるという、新しい産業戦略を打ち出したことを意味している。
なぜ Green UASが必要だったのか
Blue UASの仕組みを理解すると、次に浮かぶ疑問がある。
「それなら、Blue UASだけで十分ではないのか」
実際、Blue UASは政府や防衛用途で利用するドローンの信頼性を高めるという点では、大きな役割を果たしてきた。しかし、米国は運用を進める中で、一つの大きな課題に直面する。
「Blue UASだけでは、健全なドローン産業を育てることができない。」という現実である。
ドローンは、航空機であると同時に、IT機器でもある。カメラ、AIコンピュータ、通信モジュール、半導体、GNSS、クラウド、OS、画像解析ソフトウェアなど、その多くは民間市場で開発され、改良されている。現在のドローン技術の進歩は、防衛市場だけではなく、建設、測量、農業、物流、インフラ点検、災害対応といった民生市場の需要によって支えられている。
つまり、防衛市場は民間技術を利用しており、防衛だけで独立したドローン産業を形成することは現実的ではないのである。
一方で、重要インフラや公共分野で利用されるドローンには、軍事用途ほどではないとしても、高い信頼性が求められる。
そこで米国は、「防衛市場だけを守る制度」ではなく、「民間市場全体の信頼性を高める制度」が必要だと考えた。
その答えがGreen UASである。
Green UASは、商用・公共用途で利用されるドローンに対し、製品セキュリティ、サプライチェーン管理、ソフトウェア更新、データ保護、企業のセキュリティ体制などを評価する仕組みとして整備された。これは、防衛用途だけでなく、社会インフラ全体のデジタル化を支えるための基盤づくりでもある。
つまりGreen UASは、「防衛市場の縮小版」ではない。
社会全体で安心して利用できるドローンを普及させるための制度なのである。
Green UASからBlue UASへのステップ-民生と防衛を分断しない、新しい産業政策
こうした考え方に立てば、このステップは自然な流れである。
民間市場で十分な信頼性を備えた製品や企業が育てば、それらを防衛・政府分野でも活用できるようにすればよい。
この発想から、Green UASはBlue UASへと連続する仕組みとして位置付けられるようになった。Green UAS Certifiedを取得した製品は、一定の条件を満たすことでBlue UAS Cleared Listへの評価プロセスにつながるルートが整備されている。
これは認証制度の効率化というだけではない。
産業政策として見れば、「民生市場で培われた技術・品質・企業体制を、安全保障分野へ展開する」というエコシステムの構築を意味している。
この背景には、近年の安全保障環境の変化もある。ウクライナでの戦争をはじめとする現代の紛争では、市販ドローンや民生技術が軍事用途へ転用される例が数多く見られた。一方で、防衛向けに開発された技術が災害対応やインフラ点検などの民生分野へ応用されるケースも増えている。
こうした状況の中で、民生と防衛を完全に切り離して考えることは難しくなっている。
だからこそ米国は、「民生」「公共」「重要インフラ」「防衛」という市場を個別に管理するのではなく、それぞれを連続した市場として捉え、同じ信頼性の考え方で結び付けようとしているのである。
この考え方は、日本企業にとっても重要な意味を持つ。
Blue UASは、防衛メーカーだけのための制度ではない。Green UASも、公共分野だけの制度ではない。
その本質は、社会全体で信頼される製品・企業・サプライチェーンを育て、その成果を民生から公共、さらには防衛へと展開していくことにある。
日本でも、ドローンはインフラ点検、物流、防災、警備など、社会基盤を支える存在へと発展しつつある。今後は、飛行性能や価格だけでなく、「安心して導入できること」「継続的に運用できること」「セキュリティと供給体制を含めて信頼できること」が競争力となるだろう。
その意味で、Green UASからBlue UASへとつながる仕組みは、単なる認証制度ではない。
「信頼」を軸に民生と防衛をつなぐ、新しい産業政策そのものなのである。
日本の型式認証とは何が違うのか
ここまでGreen UASとBlue UASについて説明してきたが、日本のドローン関係者であれば、次のような疑問を持つかもしれない。
「これは、日本の型式認証と何が違うのか」
日本では、2022年12月の改正航空法施行により、無人航空機の型式認証および機体認証制度が開始された。日本の型式認証は、メーカー等が設計・製造する量産機を対象として、その設計と製造過程が安全基準および均一性基準に適合しているかを確認する制度である。型式認証を受けた型式については、個別機体に対する機体認証の検査の全部または一部を省略できる。
日本の型式認証には第一種と第二種がある。
第一種型式認証は、立入管理措置を講じることなく第三者上空を飛行するカテゴリーIII飛行、いわゆるレベル4飛行などを目的とする機体が対象となる。第二種型式認証は、立入管理措置を講じた上で行うカテゴリーIIの特定飛行を目的とする機体が対象となる。
つまり、日本の型式認証が中心的に確認するのは、
- 機体の強度
- 機体の構造
- 飛行性能
- 制御の安全性
- 故障時の安全性
- 設計と製造の均一性
- 整備および継続的な安全管理
といった、航空安全上の適合性である。
一方、Blue UASやGreen UASが中心的に見ているのは、必ずしも飛行性能や耐空性だけではない。
Blue UASとGreen UASでは、製品・デバイスセキュリティとサプライチェーンリスク管理が主要な評価軸となる。具体的には、暗号技術、保存データの保護、プライバシー、サイバー事象からの回復、安全な自律性、安全な更新、遠隔インターフェース、SBOM、HBOM、部品の出所や製造国などが確認される。
さらにGreen UAS Certifiedでは、製品単体だけでなく、企業のセキュリティ文書、リスク評価、人員管理、アクセス制御、構成管理、インシデント対応、事業継続、教育、監査といった組織的なサイバー・ハイジーンまで評価対象になる。加えて、GCS、遠隔操縦装置、モバイルアプリケーション、クラウドやインフラとの接続、C2メッセージの真正性など、遠隔運用システム全体の信頼性も対象となる。
この違いを単純化すると、次のように整理できる。
| 項目 | 日本の型式認証 | Blue UAS/Green UAS |
|---|---|---|
| 主な目的 | 航空法上、安全に飛行できる機体であることの確認 | 政府・公共・重要インフラ等が信頼して調達・使用できる製品であることの確認 |
| 制度の中心 | Safety、耐空性、設計・製造の均一性 | Security、サプライチェーン、データ保護、調達適格性 |
| 主な対象 | 完成した型式としての無人航空機 | 完成機、コンポーネント、ソフトウェア、企業体制 |
| 評価対象 | 強度、構造、性能、故障時安全性、製造過程 | 暗号、通信、SBOM、HBOM、製造国、供給元、脆弱性、企業セキュリティ |
| 運用との関係 | 飛行カテゴリーと許可・承認に関係 | 政府・公共・防衛・重要インフラの調達判断に関係 |
| 部品単体の位置付け | 原則として完成機の設計適合性の一部として評価 | 部品やソフトウェア自体がFramework対象となり得る |
| 認証主体 | 国土交通省、登録検査機関 | 米国政府機関、DCMA、AUVSI、第三者評価機関等 |
| 法的性格 | 日本の航空法に基づく法定制度 | 米国政府調達・市場アクセスに関係する評価・認証枠組み |
日本の型式認証とBlue UAS/Green UASは、どちらが上位で、どちらが下位という関係ではない。
評価している目的が異なるからである。
日本の型式認証は、主として航空安全、すなわちSafetyを中心に設計されている。機体が故障した際にどのような挙動をするのか、制御系が喪失した場合に第三者へどのような危害を与える可能性があるのか、設計と製造の品質が一貫しているか、といった点を確認する。
これに対し、Blue UAS/Green UASでは、意図的な攻撃や不正アクセス、データ流出、不透明なサプライチェーン、悪意あるファームウェア、供給停止リスクなど、SecurityとSupply Chain Riskを強く意識している。
例えば、あるドローンが高い飛行安定性を持ち、日本の型式認証上の安全要求を満たしていたとしても、次のような状態では米国政府や重要インフラ事業者から信頼されない可能性がある。
- 主要部品の製造元が追跡できない
- ファームウェアの構成が不明である
- SBOMが存在しない
- 通信が暗号化されていない
- 更新ファイルの署名検証がない
- GCSから外部クラウドへの通信経路が説明できない
- 保存データの送信先が分からない
- サイバーインシデント発生時の対応手順がある
反対に、Blue UASやGreen UASのサイバーセキュリティおよびサプライチェーン要件を満たしていても、日本国内でカテゴリーIII飛行を行うための強度・構造・性能・耐故障性が証明されていなければ、日本の第一種型式認証を取得したことにはならない。
したがって、両制度は競合するものではなく、補完関係にある。
日本の型式認証が「安全に飛べること」を証明し、Blue UAS/Green UASが「信頼して導入できること」を示す。
この二つを組み合わせて初めて、公共・重要インフラ・防衛・遠隔運用など、高度な信頼性が求められる市場で利用可能なドローンシステムになる。
型式認証は完成機中心、Blue/Green UASは部品にも市場を開く。
日本企業にとって特に重要なのが、評価対象の単位の違いである。
日本の型式認証は、基本的に量産する完成機の型式を対象としている。フライトコントローラや通信機、カメラ、ジンバル、オンボードコンピュータなどの部品は、完成機の設計を構成する要素として評価される。
一方、Blue UAS Frameworkでは、相互運用可能なコンポーネントやソフトウェアも対象となる。このため、完成機を製造していない企業であっても、フライトコントローラ、データリンク、GNSS、カメラ、GCS、ドローンドック、AIコンピュータなどを通じて、米国政府調達エコシステムへ参入できる可能性がある。BULKも、完成機メーカーだけでなく、こうした部品・ソフトウェア・アプリケーションメーカーを対象としている。
これは、日本のドローン産業にとって重要な意味を持つ。
日本では、完成機市場だけを見ると、量産規模、価格、販売網の面で海外大手メーカーとの差が大きい。しかし、日本企業が強みを持つのは、センサー、モーター、電源、通信、光学、画像処理、精密加工、材料、制御部品などの要素技術である。
Blue UAS FrameworkやGreen UASを理解することは、日本企業が完成機メーカーとしてだけでなく、信頼できるコンポーネントサプライヤーとしてグローバル市場へ入る道を開くことにつながる。
今後、日本でも両者を統合して考える必要がある。日本でも型式認証だけでは十分ではない用途が増えていくと考えられる。
例えば、
- 発電所や送電線の点検
- 上下水道やダムの監視
- 港湾、空港、鉄道の警備
- 災害時の情報収集
- 警察、消防、防衛用途
- ドローンポートを用いた遠隔運用
- 複数機を統合する運航管理
- クラウド接続型の自律飛行
などでは、機体の飛行安全だけでなく、通信、GCS、クラウド、データ、運用者、保守担当者、サプライチェーンまで含めた信頼性が必要となる。
日本の型式認証は、その基礎となる重要な制度である。しかし、型式認証を取得したことだけで、システム全体のサイバーセキュリティや調達上の信頼性まで保証されるわけではない。
型式認証制度が直面するもう一つの課題
型式認証制度そのものは、安全性を客観的に証明し、社会実装を進める上で欠かせないものである。
一方で、制度開始から約3年が経過した現在、型式認証を取得した機体はまだ限られており、多くのメーカーにとって認証取得へのハードルは依然として高い状況にある。
その背景には、開発コストだけではなく、ドローンという製品が持つ特性がある。
ドローンは、自動車や一般航空機と比較して技術進化のスピードが非常に速い。
フライトコントローラ、通信機器、GNSS、AIプロセッサ、カメラ、ソフトウェアなどは、毎年のように性能が向上し、新しいデバイスが登場する。
さらに、AIやクラウドサービスとの連携も急速に進化しており、システム全体は継続的なアップデートを前提としている。
このような製品では、設計変更が発生すること自体が珍しいことではない。
しかし、型式認証では、安全性に影響する設計変更が行われた場合、その内容によっては認証内容の変更申請や追加審査が必要となる。
もちろん、安全性を確保するためには不可欠な仕組みである。
一方で、開発サイクルの短いドローンでは、この手続きが開発期間やコストに大きな影響を与える場合もある。
つまり、「安全性を確保する制度」と「技術革新を促進する制度」をどのように両立させるかが、今後の大きな課題となっている。
これから求められるのは「認証しやすい設計」
この課題は、制度だけで解決できるものではない。メーカー側にも、設計思想の転換が求められている。
例えば、機体全体を一体として開発するのではなく、
- 飛行制御系
- ペイロード
- 通信系
- AI処理
- GCS
- クラウド
といった機能をモジュール化し、それぞれの責任範囲を明確にする。
さらに、インターフェースを標準化することで、一部の機能を更新してもシステム全体への影響を最小限に抑えることができる。
これはソフトウェア開発でいう「疎結合(Loose Coupling)」や「マイクロサービス」の考え方に近く、近年のロボティクスやPhysical AIのシステム設計でも重視されている。
Blue UAS Frameworkが完成機だけでなく、フライトコントローラ、通信機器、カメラ、ソフトウェアなどのコンポーネントも評価対象としているのは、こうしたモジュール化の考え方とも親和性が高い。
「認証する」から「認証しやすいアーキテクチャ」へ
今後、日本企業に求められるのは、認証取得を前提に開発を進めるだけではない。設計変更や機能追加を想定しながら、安全性と柔軟性を両立できるアーキテクチャを構築することである。
日本の型式認証制度は、安全性を担保するための重要な基盤である。
一方で、技術革新の速いドローン産業では、「認証を取得すること」だけではなく、変化に対応しながら継続的に信頼性を維持できる設計が競争力となる。
この点で、Blue UASやGreen UASが重視する「Trust by Design」の考え方は、日本の型式認証制度とも対立するものではない。むしろ、認証取得後も継続的に製品を進化させるための設計思想として、日本企業が積極的に取り入れる価値がある。
日本企業はどう取り組むべきか-「性能競争」から「信頼性競争」への発想転換
ここまで見てきたように、Blue UASとGreen UASは、単なる米国独自の認証制度ではない。その本質は、「社会が安心して利用できるドローンをどのように育てるか」という産業全体の設計思想にある。
では、この変化に対して、日本企業はどのように取り組むべきなのだろうか。
最初に理解すべきことは、日本企業が米国メーカーと同じ土俵で完成機の性能競争を繰り広げる必要はないということである。
日本には世界トップクラスのセンサー、カメラ、通信機器、電子部品、電源、モーター、材料、精密加工、AIソフトウェアなど、多くの優れた要素技術が存在する。
Blue UAS FrameworkやGreen UASが評価対象としているのは、完成機だけではない。フライトコントローラ、通信機器、カメラ、コンピューティングモジュール、ソフトウェア、GCS(Ground Control Station)、ドローンドックなど、多様なコンポーネントやシステムも対象となる。
つまり、日本企業には、「世界一のドローンメーカー」を目指すだけではない、新たな市場への入り口が開かれているのである。
「良い製品を作る」だけでは選ばれない時代へ
これまで、多くの企業は「性能が高ければ採用される」と考えてきた。
しかし、これからは性能だけでは十分ではない。
例えば、海外の調達担当者や公共機関が知りたいのは、次のような情報である。
- この製品は、どこで設計・製造されているのか。
- 使用している部品やソフトウェアの構成は把握されているか。
- 脆弱性が見つかった際、迅速にアップデートできる体制があるか。
- データはどこへ保存され、誰がアクセスできるのか。
- 部品供給は継続されるのか。
- サイバー攻撃を受けた場合の対応手順は整備されているか。
これらは、製品の性能ではなく、「企業として信頼できるか」を判断するための項目である。
今後は、優れた技術を持つ企業ほど、自社の品質管理、サイバーセキュリティ、ソフトウェア開発プロセス、サプライチェーン管理を「見える化」し、客観的に説明できることが重要になる。
「完成機メーカー」だけが主役ではない
もう一つ重要なのは、産業構造そのものが変わりつつあることである。
従来のドローン産業では、完成機メーカーが中心となり、その周囲に部品メーカーやソフトウェアベンダーが存在する構造だった。
しかし、AI、自律飛行、クラウド、遠隔運航、ドローンドックなどが普及する現在では、価値は完成機だけでは生まれない。
様々なシステム中の機能が、それぞれが独立した価値を持ち、それらを組み合わせることで一つのシステムが構成される。
この変化は、日本企業にとって大きなチャンスである。
日本が得意とする要素技術は、この新しいエコシステムの中で重要な役割を果たす可能性が高い。
「認証取得」を目的にしない
Blue UASやGreen UASを目指すと聞くと、「認証を取得すること」が目的になりがちである。
しかし、本来の目的はそこではない。
認証は、「信頼できる製品・企業であること」を第三者に示すための手段である。
本当に目指すべきなのは、
- セキュリティを考慮した設計
- サプライチェーンの透明性
- 継続的な品質改善
- ソフトウェアのライフサイクル管理
- 運用まで含めたリスクマネジメント
を企業文化として定着させることである。
その結果として、Green UASやBlue UASへの対応が可能になり、国内外の公共・重要インフラ・防衛市場への道が開ける。
「信頼」を設計する企業が次の市場をリードする
日本ではこれまで、「高性能」「高品質」「高精度」がものづくりの強みとされてきた。
これらは今後も重要である。
しかし、それだけでは十分ではない。
これからのドローン産業では、「信頼性(Trust)」そのものを設計できる企業が選ばれる時代になる。
それは、単にサイバーセキュリティ対策を強化するという意味ではない。
機体、部品、ソフトウェア、通信、クラウド、運用、保守、そしてサプライチェーンまで含めたシステム全体を、「安心して導入・運用できる」状態として設計することである。これは、一社だけで完結するものではない。
完成機メーカー、部品メーカー、ソフトウェアベンダー、通信事業者、システムインテグレーター、運航事業者が連携し、それぞれの役割を果たすことで初めて実現できる。
BULKが果たす役割-日本企業を「世界で信頼される企業」へ導く実証・評価拠点
ここまで見てきたように、Blue UASやGreen UASは単なる認証制度ではない。その本質は、「信頼できる製品」と「信頼できる企業」を市場へ送り出すためのエコシステムである。
一方で、多くの日本企業にとっては、こうした制度へ対応した経験はまだ少ない。様々な課題を、企業が単独で理解し、検証し、改善していくことは容易ではない。
そこで設立されたのが、Blue UAS Laboratory Kawachi(BULK)である。BULKは、日本企業がGreen UASやBlue UASを見据えた技術検証、評価、設計支援を行う実証拠点として設立された。
しかし、BULKの役割は「認証取得の支援」にとどまらない。
その目的は、日本企業が世界市場で求められる「信頼性」を設計・実装できるよう支援することにある。
例えば、BULKでは次のような取り組みが期待される。
- Green UAS・Blue UASを見据えた機体・コンポーネントの評価
- サイバーセキュリティおよびサプライチェーンの課題抽出
- GCS、通信、クラウドを含めたシステム全体のアーキテクチャレビュー
- 部品・ソフトウェア・データフローの可視化
- SBOM・HBOMなどの文書整備支援
- 実証飛行を通じた技術検証と改善
- 米国制度や評価プロセスに関する情報提供
つまり、完成機だけではなく、センサー、カメラ、AIコンピュータ、通信機器、GCS、ソフトウェア、クラウドサービスなど、日本企業が強みを持つ多様な技術領域を対象に、「世界で通用する信頼性」を実証する場となるのである。
「認証取得」ではなく「Trust by Design」の実装へ
これまで日本では、「製品を完成させ、その後に認証へ対応する」という考え方が一般的であった。
しかし、Blue UASやGreen UASが示しているのは、その逆の発想である。
すなわち、企画・設計の段階から、セキュリティ、サプライチェーン、運用、保守までを見据えてシステムを構築する「Trust by Design」という考え方である。
この考え方では、完成機メーカーだけでなく、部品メーカー、ソフトウェア企業、通信事業者、システムインテグレーター、運航事業者など、多様なプレーヤーが早い段階から連携し、それぞれの役割を果たすことが求められる。
BULKは、その連携を支える「実証と統合のハブ」としての役割も担う。
Physical AI時代を見据えた新しい実証フィールド
さらに、BULKが目指す姿は、Blue UASやGreen UASへの対応だけではない。
ドローンは今後、単独で飛行する機械ではなく、AI、通信、クラウド、ロボット、各種センサーと連携しながら社会インフラを支える「Physical AI」の構成要素へと進化していく。そのとき評価すべき対象も、機体単体からシステム全体へと広がる。
BULKは、こうした新しいシステムの評価・検証にも取り組むことで、日本企業が次世代のロボティクス市場へ挑戦するための基盤となることを目指している。
BULKが目指すもの
BULKの設立は、一つの研究施設が誕生したという話ではない。それは、日本企業が「性能」だけでなく、「信頼性」を競争力として世界へ挑戦するための新しいスタートである。
Green UASからBlue UASへ、そしてその先にあるPhysical AIの時代へ。
BULKは、その変化を支える「技術実証・評価・統合」の拠点として、日本のドローン産業、さらにはロボティクス産業全体の競争力向上に貢献していくことが期待されるのである。
このBULKに関してその内容を説明するセミナーが無料で9月30日に実施される。興味ある方は、以下のサイトから申し込みいただければ幸いである。