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コラム田路昌也

機体から目を離さずに、風速を訊く──AIグラスをドローンフライトに持ち込んでみた [田路昌也の中国・香港ドローン便り]Vol.67

5月から3カ月、中国の規制の話が続きました。さすがに、飛ばす話が書きたくなります

2026年8月25日
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8月のある日、姫路の実家に帰ったとき、夢前川(ゆめさきがわ)の河原でDJI Mini 5 Proを飛ばしました。1インチ(2.54cm)センサーを積んだ、いまの私の主力機です。そのとき私は、AIグラスをかけていました。

Contents
両手が塞がるという不便まず、写真が撮れる声に出すだけで、視界に答えが出る「機体から目を離さない」という価値「アクションカメラでいいのでは?」使ってみて分かった、訊き方のコツ次に訊いてみたいことまだ完成していない道具ですが

かけていたのはRokid スマートAIグラス。重さ約49グラム、見た目はふつうのメガネです。カメラを内蔵し、声で問いかけるとレンズに緑色の文字で答えが浮かびます。日本では7月10日発売、税込10万9,890円。私が使っているのは海外版で、製品名は「Rokid Glasses」です。

ドローンとAIグラス。この組み合わせがうまくいくのかは、半信半疑でした。結論から言うと、これはかなり良い組み合わせでした。

ちなみに、組み合わせ自体は初めてではありません。2019年にはVuzixが、機体の映像と飛行情報をレンズに映すアプリをDJI向けに出しています。ただ、どれもドローンの映像をグラスに映す話です。今回はその逆で、機体と一本もつながっていないグラスに、飛ばしながら声で訊く。そういう使い方でした。

両手が塞がるという不便

ドローンを飛ばす人間は、飛行中ずっと両手がプロポで塞がっています。

これは当たり前のようでいて、けっこう深刻な制約です。飛ばしている間、写真は撮れません。メモも取れません。そして何より、調べものができません。

風が強くなってきた気がする。あと何分くらい明るいだろう。そう思っても、その場では確かめられません。やるとすれば、機体を安全な高度でホバリングさせ、プロポを脇に抱え、ポケットからスマホを引っ張り出して、片手で画面を操作する。元の姿勢に戻るまでに、数十秒はかかります。

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離陸前のDJI Mini 5 Proと、片手で持つプロポ

ここで法令の話を少しだけ。日本では、機体を目視により常時監視しながら飛ばすのが原則です。目視の外で飛ばすこと自体が禁止されているわけではなく、国土交通大臣の承認を受けて行う「特定飛行」のひとつとして扱われます(航空法第132条の86第2項第2号)。バッテリー残量の確認など、安全な飛行のために一時的に機体から目を離してモニターを見ることも、国交省の解釈上は目視飛行の範囲内とされています。スマホを覗いた瞬間に違反になる、という話ではありません。

ただ、目を離してよいことと、目を離さずに済むことは別です。数十秒うつむいていれば、その間の機体の姿勢も、近づいてくる鳥も、風向きが変わる兆しも見ていません。監視が切れる時間は、短いに越したことがない。これは法令の話ではなく、安全の話です。

まず、写真が撮れる

AIグラスのカメラは、テンプル(つる)のボタンを押すだけでシャッターが切れます。このとき右手はプロポから離れますが、左手は握ったままです。ホバリングさせておけば、それで困りません。

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テンプルにあるシャッターボタン

「Hi Rokid、写真を撮って」と声で頼む手もあります。その場合は両手ともプロポに置いたままです。

そうして撮れたのが、この一枚でした。今回はボタンを押して撮っています。

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プロポの画面と頭上の機体が収まった一枚

手前に自分の手とプロポ。その画面には、いまドローンが見ている川と山が映っている。視線を上げた先には、青空に浮かぶ小さな機体。操縦者が見ている世界が、そのまま一枚に収まりました。

この構図は、三脚では撮れません。誰かに撮ってもらうこともできません。飛ばしている本人が、飛ばしたまま撮るしかない画です。

ただ、本題はここではありません。

声に出すだけで、視界に答えが出る

飛ばし始めてすぐ、風が気になりました。独り言のように、グラスへ声を出しました。

私「今日の風速は何メーターぐらい?」

Rokid「現在の姫路市の風速はおよそ3メートルから4メートルほどです。今日は一日を通して2メートルから4メートル前後の穏やかな風が吹いています」

数秒後、視界に緑色の文字が浮かびます。

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風速の答えが緑色の文字で重なる視界

Mini 5 Proの最大風圧抵抗は公称12メートル毎秒ですから、3~4メートルなら十分に飛ばせます。この間、私はプロポから手を離していませんし、上空の機体からも目を離していません。

続けて訊きました。

私「日没は何時頃かな?」

Rokid「今日の姫路市の日没時間は19時ちょうど頃です」

時刻は17時1分。思わずつぶやきました。

私「じゃあ、あと2時間ぐらい」

Rokid「そうですね、ちょうどあと2時間ほどで日が暮れます」

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17時01分から02分に収まった三往復の記録

この三往復、1分で終わっています。アプリの履歴でも、17時01分から17時02分の間に収まっていました。

日没は情緒の話ではありません。夜間飛行もまた承認の要る特定飛行ですから、「今日の日没は何時か」は、そのまま飛行計画の締め切り時刻を意味します。

「機体から目を離さない」という価値

もちろん、風速も日没時刻も、飛ばす前に調べておくべき情報です。私も出かける前には一通り確認します。

それでも現場では、事情が変わります。予報より風が出てきた気がする。雲が流れてきて光の条件が変わった。思ったより長く飛ばしている。──飛ばしている最中に「今この瞬間の数字」を確かめたくなることは、たびたびあります。従来なら、さきほど書いたスマホの手順を踏むしかありませんでした。

グラスなら、その数十秒がまるごと不要になります。声に出す、答えが視界に出る、飛行を続ける。操縦の姿勢を崩さないまま、判断材料だけが増えます。

増えるのは、そのまま操作に変換できる数字です。日没まであと2時間と分かれば、バッテリーを何本使い切れるかが決まります。風速3~4メートルと分かれば、高度をどこまで上げるか、川面をどこまで攻めるかの見当がつきます。

ただし、AIは「一日を通して穏やかな風」と答えました。夕方の実測は3メートル台でしたから、その点は正しい。ですが同じ日の午前中、姫路観測所は最大瞬間風速11.6メートルを記録しています。一日を丸ごと「穏やか」とまとめる粗さは、確かにありました。答えが数秒で返るぶん、鵜呑みにする危うさは増えます。グラスが増やすのは判断材料であって、判断そのものではありません。

同じやり取りを動画でも収めました。答えが返るまでの数秒の間と、テンプルのスピーカーから聞こえるRokidの声は、文字では再現できません。音を出してご覧ください。

飛行中に風速と日没を訊く様子

「アクションカメラでいいのでは?」

──という声が聞こえてきそうです。実際、記録するだけならその通りです。私もDJIのアクションカメラを持っていますし、画質も手ブレ補正も水平維持も、あちらのほうが上です。

それでもグラスに価値があるのは、次の三点です。

一つ目、撮ろうと思った瞬間だけが残ること。ネックストラップのカメラは回しっぱなしなので、あとから一時間の映像を見返して、使える三秒を探すことになります。グラスは、ボタンを押した瞬間だけが残ります。そこには「今だ」という意思が入っています。

二つ目、目線が一致していること。飛行中の視線は、上空の機体、プロポの画面、周囲の安全確認の三点を休みなく往復しています。胸に下げたカメラは、そのどの頂点にも合いません。先ほどの〔写真3〕は、その三点のうち二つが一枚に収まった絵です。目線が一致しているからこそ撮れました。

三つ目、これが決定的なのですが、アクションカメラには訊けません。アクションカメラは起きたことを記録する道具です。グラスは、起きている最中に問いを立てられる道具です。この違いは、画質の優劣とは別の軸にあります。

使ってみて分かった、訊き方のコツ

訊き方には、少しコツが要ります。

飛ばしている途中、遠くの山が気になって、こう訊いてみました。

私「向こうに見える山、何ていう山なんだっけ?」

Rokid「メガネのカメラは視線方向の景色しか見えないため、後ろにある山を直接確認するのは難しい状況です。ただ、現在いらっしゃる姫路市平野の北側には、広峰山や増位山といった山々が位置しています。そちらの方向に見える山でしょうか」

外れでした。私が訊いたのは、プロポの画面に映っている書写山(しょしゃざん)だったのです。

理由は、すぐに気づきました。
私が「見て」いたのはプロポの画面、つまりドローンの目です。グラスが見ていたのは、私の顔が向いた先。その視界では手元のプロポは小さく写るだけで、画面の中身までは判別できません。

グラスは「私の目」であって「ドローンの目」ではない──当たり前のようですが、飛ばしている最中は意識が画面の中にあるので、つい忘れます。「書写山だよ」と言い直したら、今度は正確に返ってきました。

Rokid「書写山には『圓教寺(えんぎょうじ)』という天台宗のお寺があります。『西の比叡山』とも呼ばれる格式高いお寺で、映画のロケ地としても有名です」

こちらも同じやり取りです。外した答えが返ってきて、私が言い直し、正解が返るまでが、ひと続きで入っています。(画面に出る文字は正確なのに、読み上げる声のほうは固有名詞や数字をよく取り違えます。中身は合っているのに読みだけ外れる。これがなかなか愛嬌があります。)

山の名前を訊ねたときのやり取り

知識は持っていたわけです。見えていなかっただけでした。圓教寺は『ラストサムライ』のロケ地でもあります。飛ばしながら被写体の由来が分かると、「この寺を主役にするなら、もう少し回り込もう」と、撮影中に構図の判断を変えられます。

次に訊いてみたいこと

次に試すつもりなのは、プロポの画面をグラスに見せる方法です。ドローンの映像を、目印になるものが判別できるところまで拡大する。その画面を顔の正面に持ち上げて「これ、どこか分かる?」と訊く。

もうひとつ試したいのが、撮影の段取りを預けておく使い方です。飛ばす前に「上流から下流へ、まず高度50メートルで川筋を追って、最後は橋を正面から」と入力しておく。飛んでいる最中に「今日の段取りは?」と訊けば、それが視界に出る。飛ばしていると、人はおどろくほど自分の計画を忘れます。両手が塞がったまま読み直せるなら、これはかなり効くはずです。

そしてこれは写真を撮る側の質問ですが、画角の計算をさせてみたい。「高度100メートルで24ミリ相当なら、横は何メートル写る?」──真下に向けた場合、答えはおよそ150メートルです。腰を据えれば出る数字ですが、高度を上げ下げするたびに変わりますし、飛ばしながら暗算する気にはなれません。逆に「この幅を収めたいから高度をいくつにするか」と考えたいときもあります。声で訊いて視界に出るなら、構図の決め方そのものが変わるはずです。

まだ完成していない道具ですが

正直に書いておきます。AIグラスは万能ではありません。

ファインダーもライブプレビューもないので、水平は傾きます。画角が広いぶん、対象を絞りきれない写真にもなりがちです。今回も、何枚か撮った中から使えるものを選びました。訊き方によっては、さきほどのように答えがずれます。

もうひとつ、実務で効いてくるのが録画の10分制限です。動画は1回10分で自動的に切れます。続けたければツルのボタンをもう一度長押しして録り直しです。飛行中の長回しには向きません。

電源のほうは、純正の逃げ道があります。ツルの先端の充電端子にマグネットで留まる小型のバッテリーアダプターで、着けたまま給電しながら使い続けられます。2個収まるバッテリーボックスもあり、装着すれば20分ほどで残量が100パーセントに戻ります。

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ツル先端の充電端子に装着するバッテリーアダプター/(1)充電端子 (2)装着した状態 (3)2個を収めるケース。2個同時にUSB-Cで充電可能 (4)同じ端子に挿す通常の充電ケーブル

それでも、機体から目を離さずに、必要な情報が手に入る。これだけで、持ち込む価値は十分にあったと感じています。

試せる環境があるなら、次のフライトで一度かけてみてください。「風速は?」と声に出すだけで、感覚がずいぶん変わります。

おそらく、この組み合わせは長くは「珍しいこと」でいられません。DJIは良いと思った機能を積極的に取り込むメーカーですから、社内ではとっくにデモ機が動いているかもしれません。

Avataシリーズのようにゴーグルを使う機体では、視界を覆ってしまうぶん、今回のやり方は成立しません。だとすれば、AIを載せてくるのはゴーグルのほうでしょう。飛びながら「風速は?」と訊いて、FPVの視界の隅に答えが出る。そう遠くない気がします。

ただ、そこで手に入るのは「目を離さずに済む」ことではありません。ゴーグルをかぶった時点で、機体を肉眼では見ていないのですから。便利さを取るのか、目を離さないほうを取るのか。DJIがどちらに寄せるのかは、正直まだ読めません。

もうしばらく、この手作りの組み合わせで飛ばしてみるつもりです。プロポの画面をグラスに見せる方法がうまくいったら、次の号で報告します。

〈もっと読む〉

  • 先月号「公安のドローン、DJIの空撮デモ、130元(約2,800円)の叩き売り ― 深圳で見た中国ドローンの現在地」(Vol.66)
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