8月のある日、姫路の実家に帰ったとき、夢前川(ゆめさきがわ)の河原でDJI Mini 5 Proを飛ばしました。1インチ(2.54cm)センサーを積んだ、いまの私の主力機です。そのとき私は、AIグラスをかけていました。
かけていたのはRokid スマートAIグラス。重さ約49グラム、見た目はふつうのメガネです。カメラを内蔵し、声で問いかけるとレンズに緑色の文字で答えが浮かびます。日本では7月10日発売、税込10万9,890円。私が使っているのは海外版で、製品名は「Rokid Glasses」です。
ドローンとAIグラス。この組み合わせがうまくいくのかは、半信半疑でした。結論から言うと、これはかなり良い組み合わせでした。
ちなみに、組み合わせ自体は初めてではありません。2019年にはVuzixが、機体の映像と飛行情報をレンズに映すアプリをDJI向けに出しています。ただ、どれもドローンの映像をグラスに映す話です。今回はその逆で、機体と一本もつながっていないグラスに、飛ばしながら声で訊く。そういう使い方でした。
両手が塞がるという不便
ドローンを飛ばす人間は、飛行中ずっと両手がプロポで塞がっています。
これは当たり前のようでいて、けっこう深刻な制約です。飛ばしている間、写真は撮れません。メモも取れません。そして何より、調べものができません。
風が強くなってきた気がする。あと何分くらい明るいだろう。そう思っても、その場では確かめられません。やるとすれば、機体を安全な高度でホバリングさせ、プロポを脇に抱え、ポケットからスマホを引っ張り出して、片手で画面を操作する。元の姿勢に戻るまでに、数十秒はかかります。

ここで法令の話を少しだけ。日本では、機体を目視により常時監視しながら飛ばすのが原則です。目視の外で飛ばすこと自体が禁止されているわけではなく、国土交通大臣の承認を受けて行う「特定飛行」のひとつとして扱われます(航空法第132条の86第2項第2号)。バッテリー残量の確認など、安全な飛行のために一時的に機体から目を離してモニターを見ることも、国交省の解釈上は目視飛行の範囲内とされています。スマホを覗いた瞬間に違反になる、という話ではありません。
ただ、目を離してよいことと、目を離さずに済むことは別です。数十秒うつむいていれば、その間の機体の姿勢も、近づいてくる鳥も、風向きが変わる兆しも見ていません。監視が切れる時間は、短いに越したことがない。これは法令の話ではなく、安全の話です。
まず、写真が撮れる
AIグラスのカメラは、テンプル(つる)のボタンを押すだけでシャッターが切れます。このとき右手はプロポから離れますが、左手は握ったままです。ホバリングさせておけば、それで困りません。

「Hi Rokid、写真を撮って」と声で頼む手もあります。その場合は両手ともプロポに置いたままです。
そうして撮れたのが、この一枚でした。今回はボタンを押して撮っています。

手前に自分の手とプロポ。その画面には、いまドローンが見ている川と山が映っている。視線を上げた先には、青空に浮かぶ小さな機体。操縦者が見ている世界が、そのまま一枚に収まりました。
この構図は、三脚では撮れません。誰かに撮ってもらうこともできません。飛ばしている本人が、飛ばしたまま撮るしかない画です。
ただ、本題はここではありません。
声に出すだけで、視界に答えが出る
飛ばし始めてすぐ、風が気になりました。独り言のように、グラスへ声を出しました。
私「今日の風速は何メーターぐらい?」
Rokid「現在の姫路市の風速はおよそ3メートルから4メートルほどです。今日は一日を通して2メートルから4メートル前後の穏やかな風が吹いています」
数秒後、視界に緑色の文字が浮かびます。

Mini 5 Proの最大風圧抵抗は公称12メートル毎秒ですから、3~4メートルなら十分に飛ばせます。この間、私はプロポから手を離していませんし、上空の機体からも目を離していません。
続けて訊きました。
私「日没は何時頃かな?」
Rokid「今日の姫路市の日没時間は19時ちょうど頃です」
時刻は17時1分。思わずつぶやきました。
私「じゃあ、あと2時間ぐらい」
Rokid「そうですね、ちょうどあと2時間ほどで日が暮れます」

この三往復、1分で終わっています。アプリの履歴でも、17時01分から17時02分の間に収まっていました。
日没は情緒の話ではありません。夜間飛行もまた承認の要る特定飛行ですから、「今日の日没は何時か」は、そのまま飛行計画の締め切り時刻を意味します。
「機体から目を離さない」という価値
もちろん、風速も日没時刻も、飛ばす前に調べておくべき情報です。私も出かける前には一通り確認します。
それでも現場では、事情が変わります。予報より風が出てきた気がする。雲が流れてきて光の条件が変わった。思ったより長く飛ばしている。──飛ばしている最中に「今この瞬間の数字」を確かめたくなることは、たびたびあります。従来なら、さきほど書いたスマホの手順を踏むしかありませんでした。
グラスなら、その数十秒がまるごと不要になります。声に出す、答えが視界に出る、飛行を続ける。操縦の姿勢を崩さないまま、判断材料だけが増えます。
増えるのは、そのまま操作に変換できる数字です。日没まであと2時間と分かれば、バッテリーを何本使い切れるかが決まります。風速3~4メートルと分かれば、高度をどこまで上げるか、川面をどこまで攻めるかの見当がつきます。
ただし、AIは「一日を通して穏やかな風」と答えました。夕方の実測は3メートル台でしたから、その点は正しい。ですが同じ日の午前中、姫路観測所は最大瞬間風速11.6メートルを記録しています。一日を丸ごと「穏やか」とまとめる粗さは、確かにありました。答えが数秒で返るぶん、鵜呑みにする危うさは増えます。グラスが増やすのは判断材料であって、判断そのものではありません。
同じやり取りを動画でも収めました。答えが返るまでの数秒の間と、テンプルのスピーカーから聞こえるRokidの声は、文字では再現できません。音を出してご覧ください。
「アクションカメラでいいのでは?」
──という声が聞こえてきそうです。実際、記録するだけならその通りです。私もDJIのアクションカメラを持っていますし、画質も手ブレ補正も水平維持も、あちらのほうが上です。
それでもグラスに価値があるのは、次の三点です。
一つ目、撮ろうと思った瞬間だけが残ること。ネックストラップのカメラは回しっぱなしなので、あとから一時間の映像を見返して、使える三秒を探すことになります。グラスは、ボタンを押した瞬間だけが残ります。そこには「今だ」という意思が入っています。
二つ目、目線が一致していること。飛行中の視線は、上空の機体、プロポの画面、周囲の安全確認の三点を休みなく往復しています。胸に下げたカメラは、そのどの頂点にも合いません。先ほどの〔写真3〕は、その三点のうち二つが一枚に収まった絵です。目線が一致しているからこそ撮れました。
三つ目、これが決定的なのですが、アクションカメラには訊けません。アクションカメラは起きたことを記録する道具です。グラスは、起きている最中に問いを立てられる道具です。この違いは、画質の優劣とは別の軸にあります。
使ってみて分かった、訊き方のコツ
訊き方には、少しコツが要ります。
飛ばしている途中、遠くの山が気になって、こう訊いてみました。
私「向こうに見える山、何ていう山なんだっけ?」
Rokid「メガネのカメラは視線方向の景色しか見えないため、後ろにある山を直接確認するのは難しい状況です。ただ、現在いらっしゃる姫路市平野の北側には、広峰山や増位山といった山々が位置しています。そちらの方向に見える山でしょうか」
外れでした。私が訊いたのは、プロポの画面に映っている書写山(しょしゃざん)だったのです。
理由は、すぐに気づきました。
私が「見て」いたのはプロポの画面、つまりドローンの目です。グラスが見ていたのは、私の顔が向いた先。その視界では手元のプロポは小さく写るだけで、画面の中身までは判別できません。
グラスは「私の目」であって「ドローンの目」ではない──当たり前のようですが、飛ばしている最中は意識が画面の中にあるので、つい忘れます。「書写山だよ」と言い直したら、今度は正確に返ってきました。
Rokid「書写山には『圓教寺(えんぎょうじ)』という天台宗のお寺があります。『西の比叡山』とも呼ばれる格式高いお寺で、映画のロケ地としても有名です」
こちらも同じやり取りです。外した答えが返ってきて、私が言い直し、正解が返るまでが、ひと続きで入っています。(画面に出る文字は正確なのに、読み上げる声のほうは固有名詞や数字をよく取り違えます。中身は合っているのに読みだけ外れる。これがなかなか愛嬌があります。)
知識は持っていたわけです。見えていなかっただけでした。圓教寺は『ラストサムライ』のロケ地でもあります。飛ばしながら被写体の由来が分かると、「この寺を主役にするなら、もう少し回り込もう」と、撮影中に構図の判断を変えられます。
次に訊いてみたいこと
次に試すつもりなのは、プロポの画面をグラスに見せる方法です。ドローンの映像を、目印になるものが判別できるところまで拡大する。その画面を顔の正面に持ち上げて「これ、どこか分かる?」と訊く。
もうひとつ試したいのが、撮影の段取りを預けておく使い方です。飛ばす前に「上流から下流へ、まず高度50メートルで川筋を追って、最後は橋を正面から」と入力しておく。飛んでいる最中に「今日の段取りは?」と訊けば、それが視界に出る。飛ばしていると、人はおどろくほど自分の計画を忘れます。両手が塞がったまま読み直せるなら、これはかなり効くはずです。
そしてこれは写真を撮る側の質問ですが、画角の計算をさせてみたい。「高度100メートルで24ミリ相当なら、横は何メートル写る?」──真下に向けた場合、答えはおよそ150メートルです。腰を据えれば出る数字ですが、高度を上げ下げするたびに変わりますし、飛ばしながら暗算する気にはなれません。逆に「この幅を収めたいから高度をいくつにするか」と考えたいときもあります。声で訊いて視界に出るなら、構図の決め方そのものが変わるはずです。
まだ完成していない道具ですが
正直に書いておきます。AIグラスは万能ではありません。
ファインダーもライブプレビューもないので、水平は傾きます。画角が広いぶん、対象を絞りきれない写真にもなりがちです。今回も、何枚か撮った中から使えるものを選びました。訊き方によっては、さきほどのように答えがずれます。
もうひとつ、実務で効いてくるのが録画の10分制限です。動画は1回10分で自動的に切れます。続けたければツルのボタンをもう一度長押しして録り直しです。飛行中の長回しには向きません。
電源のほうは、純正の逃げ道があります。ツルの先端の充電端子にマグネットで留まる小型のバッテリーアダプターで、着けたまま給電しながら使い続けられます。2個収まるバッテリーボックスもあり、装着すれば20分ほどで残量が100パーセントに戻ります。

それでも、機体から目を離さずに、必要な情報が手に入る。これだけで、持ち込む価値は十分にあったと感じています。
試せる環境があるなら、次のフライトで一度かけてみてください。「風速は?」と声に出すだけで、感覚がずいぶん変わります。
おそらく、この組み合わせは長くは「珍しいこと」でいられません。DJIは良いと思った機能を積極的に取り込むメーカーですから、社内ではとっくにデモ機が動いているかもしれません。
Avataシリーズのようにゴーグルを使う機体では、視界を覆ってしまうぶん、今回のやり方は成立しません。だとすれば、AIを載せてくるのはゴーグルのほうでしょう。飛びながら「風速は?」と訊いて、FPVの視界の隅に答えが出る。そう遠くない気がします。
ただ、そこで手に入るのは「目を離さずに済む」ことではありません。ゴーグルをかぶった時点で、機体を肉眼では見ていないのですから。便利さを取るのか、目を離さないほうを取るのか。DJIがどちらに寄せるのかは、正直まだ読めません。
もうしばらく、この手作りの組み合わせで飛ばしてみるつもりです。プロポの画面をグラスに見せる方法がうまくいったら、次の号で報告します。
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