ただ、短距離離陸垂直着陸型(STOVL)はF-35にあってJ-35にない。STOVLの開発は難しく、これを米中の技術格差と見るか、はたまた、無人機があるから不要と中国は割り切ったのか。後者ならば、台頭著しい無人機は、戦闘機でさえも有人機を駆逐し始め、さらには不吉な想像も呼び起こす。
「竹のカーテン」のあちらとこちら
中国はJ-20に続く、第5世代のステルス戦闘機J-35を2024年の中国・珠海の航空ショーで公式にデビューさせた。その姿はF-35に大きく似ており、幾分ほっそりした機首のみを見れば、第5世代戦闘機のトップバッターとなった米国のF-22に似てなくもない。ステルス機は外形にレーダ電波の反射を抑制する役目を持たせ、その理屈は洋の東西を問わないだけに、似てくるのはむしろ当たり前と言える。
もちろん、内部構造や部材の生産方法、武器の搭載・射出方法はおろか、最も関心を浴びるステルス性能などは、「竹のカーテン」のあちらとこちらも秘中の秘のため、中国独自の技術はどこまでか。どの程度が欧米の“コピー”か。大型模型は2026年2月のシンガポール航空ショーで観察する機会は得たものの、いかようにもデフォルメはできるゆえ即断は禁物だ。
とはいえ、確実に異なるのは、F-35は空軍向けのA型、STOVLができ小型空母や強襲揚揚陸艦に搭載されるB型、CATOBARと呼ばれる発艦用のカタパルトを備えた空母向けのC型があるものの、J-35にはF-35Bに相当するSTOVL型はない。エンジンもF-35が1基なのに対してJ-35は2基を装備している。

ジェット機のSTOVLはエンジン1基のみ
J-35がF-35Bに相当するSTOVL型を持たない理由を航空史に求めれば、開発の難しさがまず浮かぶ。初期は離陸さえも垂直に行う運用だったSTOVLはジェットエンジンが普及した1960年代から欧米と旧ソ連を中心に盛んに実験機がつくられた。しかし、実際に配備されたジェット戦闘機(攻撃機)は英国によるハリアーと旧ソ連のYak-38であり、長期間の運用と輸出にも成功したのはハリアーのみだった。これだけでもSTOVL機は難産と分かるだろう。
おまけにジェットSTOVL機のエンジン数は1基が望ましい。ハリアーを見れば、推力は一般のジェット機の機体後部ではなく胴体両脇の計4カ所のノズルで出すかなり特殊な形をしている。F-35Bは他の戦闘機と同じようにお尻に排気口があるものの、離着陸には胴体前部に設けた下方へ空気を噴き出す大きなファンを動かしている。仮にハリアーがエンジンを2基にしようものなら、左右片側にのみ排気口を設けたエンジンをつくらざるを得ず、製造ラインは煩雑になったことは疑いようもない。2基で推力を2倍にしても性能まで2倍に上がったかどうか…。

ならば、英国で先例のあるライトニング戦闘機のように上下にエンジンを並べてはとなるが、実現したらしたで、洗練されたとはいえないデザインが多い英国機の中でも特に「歴史に残る」機体となったのは明らかだ。仮にF-35Bもエンジンを左右に並べようとしても、前部のファンは1基か2基か、2基あるエンジンのどちらともうまく同調させるようにどう設計するか。技術者たちは大いに頭を悩ませたに違いない。それゆえに、STOVL機のエンジンは1基がおのずと望ましくなり、大出力のエンジンを開発した国のみが成功させることができる。
中国は歯噛みをしたか、ニヤリとしたか
F-35と同程度の推力を持つエンジンは中国にあるか。エンジン開発の動向は、J-20や旅客機のC919について聞く限り、欧米と肩を並べる、あるいは凌駕するまでにはなっていないとみられている。
F-35の搭載するF135エンジンは約128kN(キロニュートン)の推力を発生し、F-35A型での最大離陸重量は約31t(トン)。対する、J-35が装備する中国産エンジンWS-13の推力は1基で約86kN(キロニュートン)(再燃焼装置使用時)、機体の最大離陸重量は約25t(トン)と言われている。重さに違いはあるものの、言わばJ-35をF-35とほぼ同じクラスの機体に仕立て上げるにはエンジンを2基備えざるを得なかった。J-35でのSTOVL型は今の中国ではなしえないのだろう。

ここで話が終われば、中国は歯噛みしつつもSTOVL型はあきらめざるを得なかった。戦闘機の総合開発力はまだ米国に及ばないとなる。しかし、「STOVL機なんかは時代遅れ。不要さ」と中国をニヤリとさせたのが無人機かもしれない。
F-35の開発が始まった20世紀の終わりごろ。今ほど無人機の台頭はなかった。それが瞬く間に存在感を示し、ロシアによるウクライナ侵攻や2026年2月に起きた米国とイスラエルによるイラン攻撃で立場をより強固にしている。ならば、F-35Bが担う役割は無人機にさせればよい。中国はそう考えたのかもしれない。いや、2024年に就役した076型強襲揚陸艦を見れば、そう断定したと言えるかもしれない。
カタパルトをなぜ付けた
「四川」級と呼ばれる076型は、強襲揚陸艦としては他国に見ない艦載機射出用のカタパルトを備えている。このカタパルトは米国のジェラルド・フォード級空母が備える電磁式と同じであることが注目されるのと同時に、射出するのは無人機と推測されている。
強襲揚陸艦の役目と言えば、文字通り上陸作戦へ投入され多数の兵士を舟艇やヘリコプターで海岸へ投射することだ。同時に発艦させたハリアーや今はF-35Bが上空から援護する。STOVLならカタパルトや着艦用の拘束ワイヤーなど大掛かりな装備はいらず、その分、将兵や武器弾薬を搭載できる。そして、STOVL型を開発できなければ無人機に代わりをさせればよい。
無人機に多くの兵器を搭載させるには、カタパルトから発射させた方が爆弾やミサイルを多く懸架できる。中国海軍内部でそう結論付けられたとしてもおかしくない。それゆえにカタパルトを備えた四川級は、STOVL機の「不要宣言」をしているといってもよく、それは一つの不安へつながっていく。
証明する機会は防がねばならない
F-35を追うように登場したJ-35。増殖やまない無人機と他国の強襲揚陸艦と姿を異にする四川級。並べて想像を広げれば中国は新しい海軍力を得た。それを試し、発揮させようとするのはどこか。台湾侵攻が思い浮かぶ。

ロシアによるウクライナ侵攻と2025年12月の米国によるベネズエラ軍事作戦、そして、2026年2月に米国とイスラエルが起こしたイラン攻撃。これらを傍目に中国は台湾侵攻へどのように戦略を練っているのか。ウクライナ侵攻のみであれば米国や欧州による非難を恐れたかもしれない。反対に、トランプ大統領の“嗜好”から力による現状打破を是と見るのか。
イランへの攻撃で米軍は弾薬とミサイルを消費した。それはいつ回復するのか。中国は台湾に手をかけることで生じる米国との諍いを否とし、少なくとも近未来までは台湾との関係は現状のままとするのか。上陸作戦で有人のSTOVL戦闘機・攻撃機に頼らない四川級のような強襲揚陸艦が効果を上げると確信できれば、中国は台湾侵攻への準備を加速させるかもしれない。
実用化へ長い年月のかかったSTOVL機を、それより短い年月で成長した無人機が過去のものとするなら、戦闘機・攻撃機であっても一部は無人機に駆逐されようとしているのかもしれない。Vol.07で記したように、無人機は第4世代から4.5世代の有人戦闘機を長く現役にとどまらせるかもしれないが、機種によっては追い払う。ただし、それを証明する機会は中国による台湾侵攻であるなら、起こさせないようにしなければならない。