国土交通省は今年の6月にAUV(自律型無人潜水機)の安全運用ガイドラインを策定・公表したことを発表した。これにより、水中での自律移動型ヴィークルの活用が進んでいくことが予想される。
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海洋無人機の定義
海洋無人機(Unmanned Maritime Vehicle/UMV)は上記に示すとおり、水中を潜航できる「無人潜水機(Unmanned Underwater Vehicle/ UUV)」と水面上を航行する「無人水上機(Unmanned Surface Vehicle/USV)」にまず大別される。
水中を潜航可能な「無人潜水機」は①母船に曳航される曳航型(Tow Fish)、②母船もしくは基地局から操作する「遠隔操作型」、③遠隔操作を必要としない「自律型」に分けられる。遠隔操作型は一般的に「ROV(Remotely Operated Vehicle)」と呼ばれている。現在、一般的に「水中ドローン」と呼ばれているものはこのROV型であるものが大半だ。
無人水上機(USV)についてもUUVと同様に遠隔型ROSVと自律型ASVに分けられる。ASVは水面上を航行し、AUVと母船もしくは陸上基地局との通信の中継局として用いられることが一般的である。そのため、AUVを追尾しながら航行することが求められる。この無人水上機に関しては、遠隔操作も可能であるが、自律型も多く開発されている。
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今回のガイドラインは、この定義の中のAUVを示すもので、いわゆる世の中に出回っているROVのガイドラインを示すものではないけれど、このガイドラインにも書かれているが、ROVでも参考にすべき点は多い。
AUVの安全運用ガイドラインの概要
今回のガイドラインは、洋上風力発電・石油ガス開発でのAUV運用時のリスク低減策となる安全要件等をとりまとめたものとなっており、そういった意味においては、一番ハードでハードルが高い局面での安全運用になっている。
■AUVの機能・設備要件
- 自律的かつ適切に緊急浮上が可能となる緊急対応システムのAUVへの搭載
緊急対応システムは、AUVの電源を喪失した場合など、AUVが緊急事態であることを判断し、緊急浮上などの対応に移行するためのシステムであり、AUV喪失のリスクを低減するために重要である。 - 母船や基地局と適切にコマンドを送受信できる通信システムの構築など
水中および水面上において、基地局からのコマンド(ミッション指示、中断など)を受信でき、潜航中は、AUVは下記のような重要なパラメータを音響通信などによって基地局に送信できること。
- AUVのの物理的状態(3次元位置・姿勢・速度・高度など)
- ミッションの状態(クリアしたウェイポイントの数など)
- 電源残量、電圧、電流
- 内部機器の動作状況(絶縁低下、温度異常、浸水等の有無を含む)
その他、自律制御システム、航行システム、電源システム、操縦制御システム、観測システムや構造・安定性・投入/揚収システム・衝突防止システム・船上機器といった項目の記載がある。
■AUVの各運用フェーズ(事前点検、投入、潜航、揚収)に沿ったリスク回避手法
- 潜航計画の確認による作業中止基準や工程の共有
潜航計画は、AUVを潜航させる海域やその目的・計測項目に合わせて準備する必要がある。また、母船の運航計画も含める必要がある。計画立案にあたっては、調査側の主要メンバ(調査責任者、AUV運用責任者)と船側の主要メンバ(船長、機関長、航海士、甲板長等)で、事前にミーティングを行い、目的や調査方法、AUVの特性、母船の特性、その海域での特徴的な条件等を共有し、潜航毎の人員配置を含めた作業手順書を作成する。
- 調査・観測計画
- 作業中止基準
- 緊急時の対応方法
- 工具・予備品
- 母船
そして、その各手順を陸上点検(事前確認事項)、船上点検(離岸前)、船上点検(潜航前確認事項)、投入時、潜航中、非常事態とフェーズを分けて記載してあるのも非常に参考になる。
- 非常事態の判断基準及び周辺状況に応じた緊急浮上の方法の検討など
■適用法令の解説・対応
- 母船を伴う作業や輸出規制に関する国内法規に規定された申請手続など
以下が、国内での関連法令の一覧となっている。
明らかにかなりの法令が関連しているが、こうした形できちんとまずは一覧にしていくことで、重複する部分などを見渡して、横串で簡素化していく動きの一助になるだろう。また、輸出規制に関する国内関係規則が記載してあるのも、AUVを開発し、それを海外展開していく際によい指針となっている。
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■洋上風力発電・石油ガス開発のメンテナンス等でのAUV運用時のリスクのまとめ
- メンテナンス・検査・修理業務でのAUV運用時に発生する可能性のあるリスクをBow-tie図に整理
まず以下のような頻度と被害度を記したリスクマトリクスを作成して、その分析に基づいて、各事象に立脚したBow-tie図(想定される事故を中心に原因と結果を左右に配置してハザードを分析する蝶ネクタイのような図)が丁寧に作られている。
こういった非常に具体的で、丁寧に作られたガイドラインによって、洋上風力発電設備のメンテナンス等において商用利用が進むAUVの効率的かつ安全な活用(保険の契約締結時にもAUVの安全性担保のため活用)につながり、また、洋上風力発電や海底油田・ガス開発等の海洋開発の促進に貢献するものとなっている。
そして、これはAUVガイドラインであるが、その他のエリアの各種ドローン(自律移動体)(空中ドローン"所謂ドローン"や自律ローバーや自律ボート)にも応用が利く内容になっており、こういった目線で、具体的で丁寧なガイドラインを作成していくことで、各エリアや業種分野において、実用化が進んでいくことになるだろう。
水中ドローン関係者はもちろんだが、それ以外のドローン関係者も一読してほしい。