前回までの記事では、協業の経緯やスクールのカリキュラム構築においてどのようなやり取りがあったかを紹介した。また、駅の天井裏点検用にOsaka Metroとムラモトドローンテラスが協同して製作したマイクロドローン「VR-X120」についても取り上げた。
NSIドローンスクールのカリキュラムは6階級に分かれており、最終段階で受講するのが「Class-S」と呼ばれるOJT(現場での実務実習)である。合計12時間(教育時間)にわたり、Osaka Metroの駅の天井裏でマイクロドローンを飛行させて点検業務を行い、実務に必要な技術と知識を身に付ける。Class-Sを修了すれば、技能認定証「NSI-Master」が発行され、ムラモトドローンテラスが行う狭隘点検業務にもアサインされるのだ。
最終回となる今回は、OJTの現場に密着。本物の駅構内で、どのような手順で、どのように点検が行われているのかチェックした。

天井裏の複雑な空間をマイクロドローンが飛行
OJTは地下鉄営業が終わったあとに行われた。向かったのはOsaka Metroなんば駅。御堂筋線、千日前線、四つ橋線が交差するジャンクションだ。各線の最終電車へと急ぐ人々を見送ると駅構内から人気がなくなり、清掃員がかける掃除機の音が響くだけになった。これから始発が発車するまでの約3時間で、マイクロドローン点検を行っていく。
Class-SのOJTでは、Osaka Metroの駅施設を使用することで、より高度で実務的な技術を学ぶことができる。その1つが、現場特有の環境的要因(電波感度・障害物・風など)に即応した飛行経路の最適化技術である。マイクロドローンは狭隘部を飛行できるように、できるだけ小型化しており、最低限のバッテリーしか搭載しておらず、バッテリーの持続時間は1本あたり最大5分程度である。そのため、点検する箇所に応じたルート選定が重要となるが、実際にマイクロドローンを飛ばすと、現場によって電波感度・風による影響の違い、事前調査では予期しない障害物等が生じることが多々ある。
Class-Sでは、本物の駅構内の複数の場所で、OJTを実施することで、受講生が自らの飛行技術に合わせて、場所ごとの最適なルートを策定できるよう、Osaka Metroの講師がサポートする。終電から始発までの限られた時間で、点検を完了させるためには、このような技術を身に付ける必要がある。
また、Class-Sでは上記の内容に加えて、現場で点検するにあたり必要となる重要な要素を体感することができる。それは、実際の駅施設を使用することにより生まれる現場特有の緊張感である。Class-Aまで使用していた模擬天井とは異なり、実際の駅施設には地下鉄運行のための重要な設備が多く敷設されており、決して設備を損傷させてはならない。Osaka Metroの社員にサポートされているとはいえ、駅の重要施設を損傷させることなく、マイクロドローンを操縦する緊張感は練習では体感しがたい。Class-Sを受講することで、スクール卒業後、マイクロドローン点検業務を受注した際に体感することになる現場特有の緊張感を事前に味わうことができる。
今回のOJTで点検を行う箇所は四つ橋線の南改札付近。現場に到着すると早速受講生と講師(Osaka Metroドローン班)はバッグからマイクロドローンやFPV用ゴーグルを取り出し、飛行の準備に取り掛かった。
マイクロドローンのオペレーターは、機体から送られてくる映像を確認するためFPVゴーグルを装着。モニターで確認するよりもゴーグルのほうが、映像の奥行きだけでなく、ゴーグルの映像以外を遮断することでより操縦に集中することができるなどのメリットがあるという。準備が整ったらマイクロドローンを離陸させ、プロポ(送信機)やゴーグルの電波強度にも問題がないか、スティックの入力が正しく送信されているかといった飛行前点検を行う。このあたりの作業は屋外で飛行させるドローンと変わらない。開いた点検口から、ドローンが進入していった。

ここで改めて駅の構造について解説したい。地下駅はコンクリートでできた構造物であり、その中に天井仕上げ材が懸架されている。我々が天井だと思っているのがこの天井仕上げだが、その裏側には、コンクリート構造物との間に空間が生じている。この空間内には、100Vや200Vの電源ケーブル、光ファイバーケーブル、インターホンや防犯カメラ用の配線などが張り巡らされている。また、大きさの異なる配管や、天井仕上げ材を吊るす吊りボルトなどが無数にあり、複雑な環境だ。
天井裏の空間に照明類は設置されていない。しかしマイクロドローンの機体周囲に張り巡らされたライトにより明るく照らされており、カメラが送信してくる映像は明るく、クリアだ。マイクロドローンは障害物を回避しつつ、進入した点検口を起点に端から端を往復しながら、スピーディにコンクリート構造物をチェックしていく。

マイクロドローンの操縦は2人1組で行っている。1人は操縦に専念し、もう1人が映像を確認しながら、異常箇所がないかをチェックしているのだ。講師を務めるOsaka Metroの担当者は補助者の役割を以下のように説明する。
Osaka Metroドローン班:「いまの箇所、右側に漏水があるように見えたので、もう一度飛ばしてみて」というように、オペレーターに情報を共有しながら飛行させます。また、飛行に関する注意喚起もしますね。「ボルトの出っ張りに注意して」「ドローンのモーターが唸ってるから荒れる恐れあるで」など、声をかけます。
屋外でドローンを飛行させる場合、2人以上でチームを組み運用する体制を求められるが、マイクロドローンによる点検業務においても同様で、補助者による的確な助言が大切だ。
天井仕上げ裏の異常箇所を発見する
異常箇所として、コンクリートの「浮き」と呼ばれる状態が挙げられる。コンクリートの中の鉄筋は様々な要因によりサビが生じる。このサビがコンクリートを押し出すことで、「浮き」が発生する。やがて浮きは剥離して天井仕上げ材に落下。これが大きなものになると天井仕上げ材を突き破ってしまう。その下にもし人がいたら…。こういったケースを避けるためにも点検が重要だ。このほかにも漏水などにも注意して点検飛行している。
OJTの際には講師が2名つく。受講生はこれまでのレッスンの成果を活かしてマイクロドローンを操縦し点検業務を行うだけでなく、補助者として、映像の確認の仕方、操縦者への指示の出し方といったことも、現場での実作業を通じて学ぶ。実際に使用されている駅での業務は、講習コースとは違い、その時々で状況が異なるケースが多く、OJTを通じて多くの学びを得ることができるだろう。

障害物の裏側の空間を確認するためマイクロドローンを活用
筆者も脚立に登らせてもらい、天井裏を確認したところ、障害物により、目視で点検対象を確認できない場所が多い。マイクロドローンを使うメリットを講師であるOsaka Metroドローン班のオペレーターは以下のように解説する。
Osaka Metroドローン班:目視に加えて、例えば長い棒の先にカメラを付けて天井裏に差し込み、点検するといった方法もあるでしょう。しかし、そういった場合、障害物の裏側の空間を見ることができません。だからといって確認しなかったら今後のエラーにつながるおそれもあります。その点、マイクロドローンを使えば障害物の裏側に回り込んで点検することが可能になります。
この業務で注意することの1つが、マイクロドローンを天井仕上げ材に落下させないことだ。マイクロドローンを残置させたまま、点検箇所を離れるわけにはいかない。だからこそ補助者による声かけが大切になる。なお、オペレーターの高い操縦技術、補助者による適切な助言により、これまで一度も天井裏に残置させたまま、営業時間を迎えたことはない。
点検を行うにあたって、あらかじめ飛行計画を立て、それに合わせて適切な数量のバッテリーを準備するため、点検現場で充電作業は行わない。また、取得した映像も簡単なチェックにとどめ、詳細な確認は日中に行う。夜間は飛行に集中して、少しでも多くのデータを収集するのだ。
駅のOJTこそ点検実務を身につけられる最短ルート

今回はなんば駅におけるOJTの様子を取材した。Osaka Metroのドローン班は4人で、夜勤での点検ができる日数も限られている。また、自社の施設点検に加え、外部からの点検業務の受注拡大も視野に入れており、今後はよりたくさんのマイクロドローンオペレーターが必要となる見込みである。




Osaka Metroドローン班のオペレーターはマイクロドローンによる点検の重要性を以下のように力説する。
Osaka Metroドローン班:これまでは駅改良工事などで、広範囲に天井仕上げを撤去する際に、天井裏を点検する機会が多かったですが、マイクロドローンで点検飛行できるようになり、従来の点検よりも高い頻度で、細部まで点検できるようになったことで、お客さまに安全・安心に駅施設をご利用していただける環境を作れていると感じています。
OJTを経験した受講生であれば、Osaka Metroも安心して一緒に仕事ができる。また、Osaka Metroではマイクロドローンによる点検業務の受注も行っているため、受講生は卒業後に一緒に点検を行っていくことも想定されている。
マイクロドローンの操縦基礎から、Osaka Metroの実際の駅を舞台にしたOJTまで、実務で確実に役に立つカリキュラムを構成するNSIドローンスクール。ここで学ぶことが、ドローンビジネスの点検分野に参入する最短ルートである。ぜひ受講を検討してみてはどうだろうか。
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