Osaka Metroの「自社で活用するだけでなく他社からも点検業務を受託し、事業を拡大するため、点検人材を確保したい」という狙いと、ムラモトドローンテラスの「マイクロドローンを活用した狭隘部点検の専門的な技術を学べるスクールを設立したい」という考えが一致し、2024年7月に開校したのが「NSI(Narrow Space Inspection)ドローンスクール」だ。
ムラモトドローンテラスは登録講習機関として国家資格「無人航空機操縦者技能証明」が取得できるドローンスクールを運営する。さらに、現役講師がオペレーターを担当してマイクロドローンを利用した狭隘部点検にも取り組んでいる。NSIドローンスクールではこれらの実績を踏まえて、受講生がマイクロドローンを使用した狭隘部点検の技術を確実に身につけられるカリキュラムになっているのが特徴だ。
カリキュラムは入門編となるClass-Eから、現場でOJT実習を行うClass-Sまで6段階に分かれており、ピラミッド型の体系的な構成。各クラスには検定試験が設けられており、1つずつパスして次のクラスを受講する。それぞれのクラスを解説していこう。
スロットルの制御がカギのFPV操縦技術を習得
Class-E:UAS運用基礎課程
ドローン未経験者向けに、基本的な操縦技術や航空法をはじめとした法律の知識を学ぶクラス。講習時間は11時間で、受講料金は99,000円(税込)。
狭隘部点検を目指す受講者は経験者が多いことから、二等以上の無人航空機操縦者技能証明(目視内限定変更)の保有者は免除となる。また、所定の要件を満たした民間団体が発行する技能認証の保有者は、受講免除となる。
Class-D:スロットル方式制御基礎課程
マイクロドローンの本格的な訓練はこのクラスから始まる。スロットル制御によるマイクロドローン操縦を学ぶ。
ドローンは各ローターの回転数を変化させることで高度の高低を変化させており、この操作を「スロットル」と呼ぶ。一般的な空撮機はプロポ(送信機)側にスロットルの中立復帰機構(スプリング)が備えられているため、ホバリングする際に特別な操作は必要ない。
だが、マイクロドローンのプロポにはスプリングが仕組まれていないため、スロットルの出力を調整しながらホバリングする技術を身につけることが求められるのだ。
レースで使用されるFPVドローンはスロットルの出力調整機能がない機体が多く、FPVパイロットであれば容易に取り組めそうなカリキュラムかと思いきや、そうでもないという。
ムラモトドローンテラス 藤永館長(以下、藤永氏):FPV経験者のほうが、かえってこのクラスでつまずくことが多いです。このクラスでは機体を目視して操縦します。FPVでは操縦者視点の前と機体の前方が一致するので、映像で見える通りに操縦しますが、目視飛行では機体に相対すると操作方向が逆転するなど、見た通りに操縦できないことがあるため、混乱しやすくなります。しかし、点検でも使用するFPV用モニターが万が一故障した際のバックアップとして、目視操縦を習得する必要があることからカリキュラムに加えました
講習時間は24時間で、受講料金は258,720円(税込)だ。
Class-C:FPV操縦基礎課程
Class-Dとは一転し、機体から送信される映像をFPVゴーグルやモニターで見ながら操縦する技術の習得が目的。Class-Dでは目視で行う水平飛行や旋回、スラロームといった基本操作を、Class-Cでは映像を見ながらできるようにする。初心者は機体が目視できず恐怖や不安を感じるようだが、FPV経験者は比較的早くクリアできるという。講習時間は25時間。受講料金は327,800円(税込)となる。
Class-Cを修了すると、基礎的な操縦技能を身につけられた証明として、「操縦基礎課程修了証」=NSI-Lv.1の技能認証が付与される。
地下鉄の天井裏を訓練に使い技術力アップに努める
Class-B以降は操縦や点検手法について、より実践的な技術を習得していく。
Class-B:応用・劣悪環境対応/UAS工学
Class-Cまでで取り組む基本操作を風がある状況(環境)で行う。点検現場を想定し、風が吹く環境下での操縦力を身につけるためだ。また、風の乱流や天井への機体の吸引現象など、狭隘部特有の飛行特性を体感する。
このクラスでは機体のメンテナンスやカスタマイズの方法も学び、Osaka Metroのオペレーターと同様に、自分好みの機体設定に調整できる技術を取得する。
講習時間は19時間。そのうち8時間を有風下での操縦訓練に割く。受講料金は330,550円(税込)。
Class-A:実務対応技量習得
ムラモトドローンテラスには模擬天井コースが設けられている。このクラスでは実際の点検業務を意識し、模擬天井コースを使い、対象物へのアプローチ方法や、狭隘部における飛行ルートの立て方を学ぶ。
藤永氏:飛んだ場所を把握しておくのは、狭隘部の飛行において極めて重要です。このクラスをクリアできれば、点検に必要な技能が一通り揃います。
講習時間は19時間(うち9時間は実地想定訓練として、Osaka Metroのオペレーターが講師を務める)。受講料金は332,200円(税込)。
Class-S:現場での実務実習(OJT)
Osaka Metroのオペレーターが講師を務め、実際の駅施設でOJTを実施。点検成果物を提出することを目的に、一連の点検業務を行う。模擬天井コースでの訓練とは異なり、回収困難な環境も含む、実際の駅施設内で飛行させるため、実務上の判断力が求められる。
Class-Aで培った技術に加え、現場特有の環境的要因に即応した飛行経路の最適化技術や、ドローンの速度の調整を通じて撮影効率を最大化する手法等、Osaka Metroが長年の現場経験で蓄積したノウハウも身につけられ、より高度で実務的な技術を習得できる。
講習時間は12時間、受講料金は475,200円(税込)となっている。

OJTを終えてClass-Sを修了すると、技能認定証「NSI-Master」が発行される。これを取得することで、ムラモトドローンテラスやOsaka Metroの実際の狭隘部点検現場で、マイクロドローンを飛行させる業務に従事できるようになるのだ。
受講生の都合に合わせて柔軟にスケジュールを調整
110時間かけてみっちりとマイクロドローンの操縦や点検の技術を身につけられるNSIドローンスクール。受講スケジュールは受講生の都合に合わせて調整してくれるので、安心して相談してほしい。ムラモトドローンテラスのスクールマネージャーを務める岩崎大輝氏は以下のように呼びかける。
岩崎氏:カリキュラムは内容ごとに1~3時間程度の教育時間を設けていますが、経験者の方ですでに身につけている技術があるのなら、重複してレクチャーはしません。苦手だったり、初めて経験したりする技術の取得に時間をかけられるように、柔軟に調整しています。操縦した感覚を忘れないように、週1ぐらいのペースで通っていただければと思います。
カリキュラムはOsaka Metroとムラモトドローンテラスで協同して作成している。重要視したのは「バッテリー残量を意識した飛行を心がける姿勢」だ。
Osaka Metro 森康二氏:バッテリーが足りず帰ってこられないという事態は避けなければなりません。人が容易に入れないところを見に行くということは、機体の回収も難しいということ。機体を残置して駅の営業時間を迎えるわけにはいかないのです。
「1個のバッテリーで飛行できる限られた時間の中で対象範囲をスクリーニング撮影したうえで、落下せずに帰ってこられるように、自分の飛行技術や飛行環境などに応じた飛行可能時間の把握を意識できるようなカリキュラムを作成しました。
藤永氏:「残り何ボルトで戻ってきなさい」という明確な指標はありません。気温で電圧の減り方は変わりますし、スムーズに操縦できるかによっても減り方は違います。非常に感覚的ですが、自分なりの正解を見つけてもらえるように、Class-Aで指導しています。
3か所の訓練コースで腐らない技術を身につける

ムラモトドローンテラスの2階に設けられている訓練コースも見学した。3箇所に分かれており、床に設置されたコースには2m×3mほどのスペースに、ダクトや点検通路を模した狭隘空間が設けられている。形状変更が可能な段ボール製のトンネル構造が連続し、限られた視界のなかで機体をコントロールする訓練が可能。透明シートで囲われた部分もあり、内部の飛行を外から確認できるようになっている。
視点を上に上げると、模擬天井コースがあり、吊り金具や金属棒が複雑に張り巡らされた構造。天井裏の配線やフレームを模した障害物が設けられていて、実際の点検作業を想定した出入りやルート設計の訓練が行える。


最後の訓練コースがムラモトドローンテラス2階の天井裏の構造そのもの。天井の化粧板を懸架する金属棒やケーブルラックが天井裏に張り巡らされ、訓練機体を用いて本番さながらの操縦や点検が可能。照明の反射や死角もリアルに見られるので、OJTに向けた仕上げの訓練には最適だ。




藤永氏と森貴大氏は、マイクロドローンによる点検の展望と、NSIドローンスクールで学ぶ意義を、以下のように見通す。
藤永氏:狭隘部の点検技術は、時代に左右されにくい確かなスキルです。ドローンの操縦は急速に自動化が進み、かつて必要だった操縦技術の多くが不要になりつつありますが、狭隘部の点検に関しては、依然として高度な操縦技術が求められています。
受講料金は正直高額で投資になりますが、Class-Sまで修了すれば仕事ができるオペレーターになってすぐに回収できます。弊社の仕事もお願いしたいですしね。
森貴大氏:スクールでは、現場でマイクロドローンを用いた点検を実施するにあたって、必要となる高度な技術を学ぶことができます。スクール卒業生には弊社施設の点検を委託することも視野に入れています。公共インフラの安全を支えているという達成感を感じていただきたいと考えています。
なお、受講料金は「人材開発支援助成金」やそのほかの各種補助金や助成金の対象になることがあるので、各省庁や自治体に問い合わせしてほしい。
国家資格を持っていても、すぐに仕事につながらないのが、ドローンビジネスの厳しいところ。なかには「こんなはずでは」という国家資格取得者もいるかもしれない。しかし、「ドローンでビジネスを展開したい」という希望を叶えたいのなら、NSIドローンスクールで、今後も本当に役立つ技術を身につけてみてはどうだろうか。
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大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部 工務部 保線課
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