前回(3月号・Vol.62)では、DJI旗艦店のスタッフの力を借りながら、eSIMによるオンライン完結の4Gバックアップ設定に成功した顛末をお届けしました。今回はいよいよその続き―実際に深センへ赴き、OcuSync+4Gのデュアル通信でのフライトを検証してきました。
結論から言えば、最終的には成功しました。ただし、その道中に「あれ、なぜか動かない」という場面があり、さらに成功した後にも新たな課題が見えてきました。今回はその一部始終を、包み隠さずお届けします。
海上世界の空へ―しかし4Gに「×」が灯る
深センの南端、ショッピングやレストランが立ち並ぶウォーターフロントエリア「海上世界」。珠江デルタの水辺を見渡せるこの場所を、今回のフライトポイントに選びました。
機体の電源を入れ、モーター確認。GPSも問題なし。さあ、今日こそeSIMの実力を確かめるぞ―と意気込んで画面を見ると、コントローラー右上のステータスバーに妙な表示がありました。
「RC(OcuSync):正常/4G:×」
…4Gが、繋がっていません。

フライト自体は通常通り行えます。OcuSyncは快調で、映像も安定。しかし考えてみてください―今日の目的は「4Gバックアップつきのデュアルフライトをテストすること」です。その4Gが繋がっていないのであれば、それはもう検証でも何でもない。ただ飛んだだけ、です。
機体を着陸させ、しばらく設定画面を見直してみましたが、原因がわからない。「おかしい」と首をかしげながら、近くのDJI旗艦店へ向かうことにしました。
バカバカバカ!―1年前の自分への叱責
顔なじみのスタッフに状況を説明すると、笑顔でこう言われました。
「コントローラー(送信機)側も、インターネットに繋がないといけないですよ」
ハッとしました。というより―やってしまった、と。


実はこの「送信機をネット接続する」という手順、約1年前に4Gバックアップを初めて試したときにも経験済みだったのです。あのとき確かに「これが必要なんだ」と理解した。なのに今回、eSIMの設定にばかり気を取られて、すっかり抜け落ちていました。
1年前にやったのに、なんで忘れているんだ。バカバカバカ!
心の中でそう叫びながら、手順を確認します。やることは単純です。iPhoneのテザリングをオンにして、送信機(RC 2)のWi-Fi設定からそのiPhoneに接続する―それだけ。ものの1分で完了します。
ただ、この「送信機側もネット接続が必要」という点は、意外と見落とされやすい重要ポイントです。機体のeSIM設定に集中するあまり、送信機側の接続を忘れてしまう方は私だけではないはず。飛ばす前のチェックリストに、ぜひ加えておいてください。
なお余談ですが、旗艦店内にはDJIブランドの電動マウンテンバイクが展示されていました。そのお値段、結構なものでした。「ドローンメーカーが自転車まで…」と、DJIの守備範囲の広さに改めて驚かされた一幕でした。

旗艦店の屋上で―デュアル通信「確立」、そして新たな発見
テザリング接続を確認したのち、スタッフのご厚意でDJI旗艦店の屋上からテストフライトを行いました。
機体を飛ばし、コントローラー画面の右上を見る―そこに「RC(OcuSync)」と「4G」のアンテナアイコンが並んで点灯していました。じんわりと、嬉しかったです。

Vol.38でこのシステムを初めて知ってから、物理SIMの壁に悩み、eSIM化を試み、設定を完了させ―その長い道のりの先に、やっと「両方繋がっている」という画面を見ることができた。ただ―ここで話が「大成功!」で終わらないのが、正直なレポートというものです。
フライト中の映像をよく見ると、4G回線のアンテナアイコンが時々赤くなり、ときには切断状態にまで落ちている瞬間があることに気づきます。原因として考えられるのは、テザリングに使用したiPhone側の接続が不安定だったことです。送信機(RC 2)はiPhoneのテザリング経由でインターネットに繋がっていますが、そのiPhone自体の電波状況が揺れると、4G回線のステータスもそれに引きずられてしまいます。現場では「あ、バックアップが切れた」と一瞬ヒヤッとする感覚がありました。
もちろん、メインのOcuSyncが生きている限りフライト自体に問題はありません。このシステムの役割分担はあくまで「OcuSyncがメイン、4Gはバックアップ」ですから、バックアップが不安定であっても即座に危険な状況になるわけではない。それは頭ではわかっています。
でも、「保険のつもりで入ったのに、その保険が実は穴だらけだった」という状況は、精神的に決して気持ちの良いものではありません。山間部やビルの陰でOcuSyncが不安定になる場面―まさに張家界のような環境―でこそこのシステムを使いたいわけで、そのときにバックアップ側まで不安定では本末転倒です。いや、むしろそういった環境ではこの4G通信は不安定になることを覚悟しておくべきだとさえ思いました。
テザリングに使うスマートフォンの電波状況には、十分注意を払う必要がある。
そして極端な話、OcuSyncが不安定になるような環境では、4Gバックアップもまた万全ではないかもしれない―そのことを頭に入れた上で、このシステムと付き合っていく必要がありそうです。
補足:UOM登録と「中国番号問題」のスマートな突破口
ここで、中国でドローンを合法的に飛ばすために避けて通れない話題を一つ。中国民用航空局のシステム「UOM」への実名登録です。2024年のVol.40でも手順を詳しく紹介しましたが、外国人パイロットには今も「中国本土の電話番号(+86番号)が必要」という壁が残っています。
ただ、振り返ると、この「壁」はここ1~2年で着実に低くなってきています。まず大きかったのが、前号(Vol.62)でお伝えしたeSIM対応です。以前は中国電信の物理SIMを現地ショップでパスポート提示のうえ契約するしかなかった4G回線が、オンラインで完結するeSIMで用意できるようになった。これだけで、私たちのような外国人パイロットにとっての導入ハードルは劇的に下がりました。
そして今回、もう一段ハードルを下げてくれる選択肢を見つけました。UOM登録のSMS認証に必要な「中国本土の電話番号」を、比較的手軽に取得できるプリペイドSIMです。中国電信香港が提供する「大湾区儲值卡(一機兩號)」がそれです。

このSIMの特徴は、1枚で香港番号と中国本土番号の両方が持てること。WeChat公式アカウントからパスポートと顔認証で申請するだけで、数時間から翌営業日には「+86」番号が開通します。物理的にキャリアショップへ行く必要がなく、UOMのSMS認証にも使える―以前と比べると、格段にハードルを下げることができそうです。
*下記サイトから購入可能、また香港ではコンビニでも購入可能です。
https://www.ctexcel.com.hk/SIMCard?cardtype=0&ordertype=0
ただし、一点だけ注意が必要です。この中国番号を維持するには1日1HKD(約20円)の費用がかかります。ぼんやりつけっぱなしにしていると、月600円ほどの出費になり、あっという間にプリペイドの残高が無くなってしまうという事態に。
あくまで「渡航の直前に有効化」という運用がコスト面では賢明です。ただ頻繁に中国に行く人は月額支払契約を検討したほうが良いかもしれません。なお私自身は、以前から中国移動香港のSIMで中国本土番号をすでに確保していたため、今回は大湾区儲值卡の香港番号のみの取得にとどめています。香港番号しかなくても、データ通信は香港、マカオ、中国の三箇所で可能です。
必要な通信手段を目的別に使い分けておくことで、いざというときの選択肢が増えるというのが、今の私のスタンスです。
おわりに
今回の検証を振り返ると、「コントローラー側もネット接続が必要」という1年前に学んだはずの基本を忘れるという失態を演じつつも、デュアル通信の実用性は確認できました。
そして成功の喜びと同時に、「テザリングの電波品質がそのままバックアップ回線の安定性に直結する」という新たな課題も見えてきました。完璧なシステムはまだない。でも、着実に一歩ずつ前に進んでいる―そんな手応えを感じた深セン遠征でした。
張家界の峰々の間をこのデュアルシステムで飛ぶ日を、今から楽しみにしています。