前回のコラム(2026年2月掲載「深センでは『ランチ』を運び、香港では『市民』を見張る。──2026年春節、ドローンの空の現在地」)では、深センや香港における最新のドローン活用事情についてご紹介しました。
実は今年こそ、去年身内の不幸で行けなかった中国旅行(張家界)に再びチャレンジしてみたいと計画しています。その下準備も兼ねて、以前のコラムで紹介した、4G通信を使ったOcuSyncのバックアップ(拡張映像伝送)の運用をさらに追求してみることにしました。
以前のコラムでは、以下のように設定から手持ちでの検証、そして実際のフライト検証をお届けしてきました。
あの時に使った通信用LTEドングルは「DJI Mini 4 Pro」用として購入したものですが、最新の「DJI Mini 5 Pro」でもブラケットを含めてそのまま使えるという話ですので、次回の張家界でのフライトで実運用しようと密かに企んでいます。

ただ、ここで一つ大きな問題がありました。以前は通信ドングルの中に中国電信の「物理SIM」を入れて設定したのですが、この物理SIMの契約は、私のように中国に住んでいない外国人には非常にハードルが高いのです。現地のキャリアショップに足を運び、パスポートを提示して実名認証を行い…と、言葉の壁も含めてかなりの手間がかかります。
そこで今回は、これを物理SIMではなく「eSIM」にすることで、中国電信の店舗を訪問したり契約したりする手間を省き、オンラインの設定だけで完結させてしまおうという試みをしてみました。
華強北のDJI直営店へ! 頼れる最強スタッフ陣
そうは言っても、いきなり自力で設定してトラブルになるのも不安だったため、今回は深センの電脳街・華強北(ファーチャンベイ)にあるDJI直営店に赴き、現場で設定を行いました。

「設定を手伝ってほしい」とお願いすると、2人の素晴らしいスタッフが対応してくれました。1人は英語が非常に堪能で、コミュニケーションの壁を完全に取り払ってくれた女性スタッフ。もう1人は技術的な知識が豊富で、システムの深い部分をしっかりとサポートしてくれた男性スタッフです。

DJIストアの店内で手厚いサポートを受けながら通信が開通していく体験は、まさに感動モノでした。
ちなみに、eSIMの設定自体はオンラインで完結しますが、認証のために「中国の携帯電話番号(SMS受信)」が必要になります。ただ、これさえクリアできれば(例えば中国に知人がいる方などであれば)、外国人にとっての導入ハードルは以前と比べて格段に低くなっています。
契約は「RC 2」と「スマホ」の2段階! 紛らわしい"2つの99元"の罠
実際の設定プロセスですが、ここは読者の皆さんが最もつまずきやすい(そして混乱しやすい)ポイントなので詳しく解説します。
実は、契約の流れは大きく2段階に分かれており、途中で使用するデバイスが変わります。さらに、費用も「DJIのシステム利用料」と「通信会社のデータ通信料」の2本立てになっています。
ステップ1:RC 2上で「DJIシステム利用料」の手続き
まず、DJI RC 2(プロポ)の画面上で設定を進めると、「DJI 增强图传续费包(拡張映像伝送 継続パッケージ)」という画面が現れます。これが、DJIのサーバー等を経由してバックアップ通信を行うためのシステム利用料で、価格は「99元(約2,000円強)/年」です。

※ちなみに、通信モジュールを新規購入した最初の1年間はこのシステム利用料(99元)が免除(デバイス代に内包)されています。しかし、2年目以降の更新時にはこの費用が発生するため、忘れないように注意が必要です。
ステップ2:スマホのDJI Flyアプリで「データプラン」の購入
DJI側の設定が終わったら、次は実際にeSIMで通信するための「キャリア(中国電信)のデータ通信料」を支払います。ここが最大の要注意ポイントなのですが、この操作はRC2の画面ではなく、手元のスマートフォンに入れた「DJI Fly」アプリから行います。スマホのアプリからプラン購入画面を開くと、データ容量に応じた3つのプランが表示されます。
- 100GB / 365日:99元
- 50GB / 365日:79元
- 30GB / 365日:59元(約1,200円)

ここで「99元」と表示されているため、ステップ1の「システム利用料(99元)」と混同して、「さっき払ったのに、また99元払うの!?」と非常に混乱してしまいがちです。
しかし、こちらはあくまで通信キャリアに支払うデータ通信料の選択肢です。この4G回線は単なるドローンの制御用ではなく、OcuSyncの接続が不安定になったり切断されたりした際に、ドローンからのカメラ映像を手元のRC 2に送ってくるためのものです。
映像データを伝送するとなるとそれなりのデータ容量を消費する可能性もありますが、通常はOcuSyncで画像データを伝送しており、この4G回線が活躍するのはあくまで「万が一の時」だけです。そのため、最初からそこまで膨大なデータ容量は必要ないと考えています。
また、データ容量は後から追加購入することも可能です。そのため、まずは一番安い「59元(30GB)」の少なめのパッケージから始めて様子を見るのが賢い選択でしょう。1年間有効でこの価格なら、万が一の保険としては破格の安さです。
さらに進化するハードウェア。物理SIM廃止の「完全eSIM」デュアルモデルも登場
今回私がMini 4 Pro(およびMini 5 Pro)用として検証したドングル(699元の「新一代增强图传模块」)は、物理SIMも使えますが、今回実証したようにeSIMとしてオンライン契約できるのが最大の強みです。
しかし、DJIの通信革命はこれだけにとどまりません。さらに上位機種である「DJI Mavic 4 Pro」向けには、799元の最新型「DJI 增强图传模块 3」が展開されています。

驚くべきことに、この最新モジュール3では「物理SIMカードスロットが完全に廃止」されており、100% eSIM専用のデバイスへと進化しています。さらに内部に2つの通信ユニットを持ち、2つのeSIM回線を同時に掴みっぱなしにする「デュアルeSIM(双卡双通)」仕様になっています。これにより、遅延やカクつきを極限まで減らすというとんでもないハイスペック仕様です。
あえて現段階では5Gを採用せず、4G LTEを2回線束ねる(デュアル化する)ことで上空での通信の弱点を克服しようとするアプローチには、メーカーの執念すら感じます。ドローンの通信インフラは、私たちが想像する以上のスピードで進化していますね。
まとめ:さらなる進化「5G化」への期待と、デュアル通信がもたらす安心感
優秀なスタッフのおかげで無事に設定が完了し、コントローラーの画面にはOcuSyncと4G回線の両方でしっかりと機体と繋がっている証拠が表示されました。

物理SIMの入手という最大の障壁が「eSIM」によってオンライン化され、プロポとスマホの画面から直接買えてしまうこの手軽さ。これぞまさに、私たちが夢見ていた「未来感」あふれるドローン通信の姿です。
ただ、今後の展望として一つだけ期待したいことがあります。それは「5Gへの対応」です。今回確認したように、最新のMavic 4 Pro向けのモジュールですら、通信方式は依然として4G LTEに留まっています。上空での基地局のハンドオーバーやモジュールの発熱など、何らかの技術的な制限があるのかもしれません。しかし、ドローンのような高速移動体の操縦や、高画質映像の低遅延伝送を考えれば、やはり今後は高速・広帯域を誇る「5G化」を推し進めてほしいところです。
とはいえ、現状の4G LTEでもバックアップとしては十分に強力です。Mini 5 Proへの流用を含め、このデュアル通信システムを引っ提げての張家界フライトが今から楽しみでなりません。日本国内でも、いつかこれくらい手軽にバックアップ回線が契約できる日が来ることを願うとともに、ドローン通信インフラのさらなる進化に期待したいと思います。