2026年も早いもので2月に入りました。今年の春節(旧正月)は2月17日。
香港の街は今、正月飾りの赤色に染まりつつあります。
いつもなら、このコラムではドローンを持って旅に出て、空から撮影した絶景を紹介するところなのですが……実はこの年始、諸事情あって遠出ができず、自宅周辺で過ごしていました。
そこで今回は趣向を変えて、私の生活圏である「深セン・香港エリア」、そしてウェブを通じて見えてきた「北米エリア」のドローン事情について、最近気になったニュースをいくつか紹介したいと思います。
1. 深セン:空から降ってくるランチ(ただし介助付き)
まずは深センの話題から。
昨年末、深セン・南山区の「人材公園(Shenzhen Talent Park)」を訪れました。目的は、2025年から本格化している美団(Meituan)のドローン配送を見るためです。
湖畔にある受け取りポート(空投柜)の前には、多くの人が集まっていました。
現場はまだ「物珍しさ」でいっぱいです。スマホを向けて撮影する人、ワクワクしながら空を見上げる家族連れ。まだまだ「未来の体験イベント」として楽しまれている段階でした。
印象的だったのは、ポートの横にスタッフが常駐していたこと。
「どうやって注文するの?」「アプリはどれ?」と戸惑う市民に、手取り足取り教えています。特に我々のような外国人にとって、決済システムの壁はまだ高く、スタッフのサポートなしでは注文すらままならないのが現実。
しかし、注文さえ通れば、数分後には黄色い機体が飛来し、自動でポートが開いてランチやドリンクが格納される。そのシステム自体は完成されています。「ハイテクな自動配送」を「アナログな人力」が支えている。この過渡期の光景こそが、2026年の深センのリアルだと感じました。
2. 香港:観光地・ピーク(The Peak)にも現れた「監視の目」
一方、境界を越えて香港に戻ると、ドローンは全く別の顔を見せます。「便利さ」ではなく「緊張感」を帯びてくるのです。最近、街中でこういった警告バナーや看板を見かける機会が増えました。
![深センでは「ランチ」を運び、香港では「市民」を見張る。──2026年春節、ドローンの空の現在地[田路昌也の中国・香港ドローン便り]Vol.60](https://drone.jp/wp-content/uploads/20260210_tohzi_p9VX0hb1.jpg)
香港警察は2025年5月からドローンパトロールを開始していましたが、実はつい先日の2026年1月23日、そのフェーズ2(第2段階)が始まったばかりです。
地元メディアの報道によると、これまでは境界付近が中心でしたが、今回の拡大で長洲(Cheung Chau)や、あの100万ドルの夜景で有名な ピーク(The Peak)といった観光地、さらにはランタオ島などの離島も重点エリアに含まれたとのことです。
導入されているのは、自動ドッキングシステムを備えた最新鋭機。熱画像や赤外線カメラを搭載し、AI解析との連携も視野に入れているといいます。目的は犯罪抑止や人命救助、交通整理など多岐にわたりますが、赤と青の点滅灯を光らせて飛ぶドローンは、確かに「見られている」という意識を市民に植え付けます。
ただ、私自身はまだ実際に飛んでいるところを見たことはありません。しかし、たとえ姿が見えなくても、この「警告バナー」があるだけで空からの視線を感じてしまう。
政府が進める「低空経済(Low Altitude Economy)」の旗印の下、物流だけでなく、こうした治安維持目的での活用が急速に日常に入り込んできています。
3. 北米:消えた最新機種と「あの頃」の香港
最後に、ネットの向こう側の話。
先日、DJIの公式サイトを見ていておっ!?と思いました。
ブラウザのタブを2つ並べて、片方を「アメリカ」、もう片方を「カナダ」に設定してみたのです。
すると、カナダのサイトには(日本や欧州と同様に)最新の「Mavic 4 Pro」が並んでいるのに、アメリカのサイトだけ時計の針が止まったように旧機種(Mavic 3 Pro)のままなのです。
![深センでは「ランチ」を運び、香港では「市民」を見張る。──2026年春節、ドローンの空の現在地[田路昌也の中国・香港ドローン便り]Vol.60](https://drone.jp/wp-content/uploads/20260210_tohzi_Ll3TCPDL.jpg)
陸続きの北米大陸で、国境を一つ越えるだけで買える機体が違う。
これを見て、ふと思い出したことがあります。
2019年、香港で学生デモが激化していた頃、香港向けのドローン販売が数年停止されたことがありました。あの時は「デモ隊に使わせないため」という治安上の理由でしたが、今回のアメリカの事例は、米中対立という地政学的な理由によるものです。
理由は違えど、ドローンというテクノロジーが、その時の政治や社会情勢によって「買えなくなったり」「飛ばせなくなったり」する。
便利な配送ツール(深セン)、厳格な監視ツール(香港)、そして政治的分断の象徴(北米)。
春節を迎える空を見上げながら、ドローンの持つ多面性について改めて考えさせられました。