従来のドローン運用は、プロポ(送信機)を持った操縦者が機体を操作する体制が基本である。しかし、産業やビジネスの現場でドローンに求められているのは、人を使わないことによる省力化・効率化である。日常的に行われている目視点検は、ドローンによって代替すべき業務である。これにより、人は人にしかできない高度で専門性の高い仕事に集中できる。これこそがドローン導入の本質的な意義である。したがって、操縦のために人員を割く体制は縮小していかなければならない。自動離着陸、自動充電、自律航行、取得データの自動アップロードといった運用の自動化を実現することが、今後のドローン活用における必須条件である。
自動化の鍵を握るデバイスとして注目を集めているのがドローンの「ドック」だ。ドローンの自動離着陸、自動充電を実施し、自律航行の起終点となる基地である。各社から様々なタイプのドックが発売されるなか、DJIは2025年2月に最新モデル「DJI Dock 3」をリリースした。防水防塵性能はIP56に対応。専用設計された産業用ドローン「DJI Matrice 4TD/4D」は風速12mでも安定した離着陸を行う。自動化に興味のある事業者からの注目度は高く、販売会社・システムファイブ担当者によれば「かなりの数を販売している」という。
DJI Dock 3の活用シーンのひとつに、栃木県日光市のいろは坂付近で行われている崩壊地対策工事現場がある。日々の作業に入る前に、岩壁の点検に使用しているという。具体的な運用方法、現場の安全性向上や作業の効率化にDJI Dock 3がどのように寄与しているのか、現場でチェックした。
経年変化と戦う「屏風岩」の点検課題
日光観光のスタート地点となる東武日光駅から自動車で15分も走ると、周囲は大谷川と山々が織り成す山岳地帯のような風景に変わり、「馬返」とよばれるいろは坂の入口に到着する。現場はここから直線距離で700mほどの「屏風岩」という、その名の通りひだ状になった切り立った崖の下部にある。到着すると、DJI Dock 3が崖の上にオレンジ色のネットに囲まれて設置されている姿が見えた。

この現場では斜面の崩落を修復する工事が行われている。「最近、日光市付近で大雨など降ったかしら」と疑問に思っていたが、この崩落はダイナミックな自然の営みが原因で発生している。というのも、崩落している斜面の上部に屏風岩があり、さらにその上部には平らな地形が広がっていて、雨水を地中に溜め込んでいる。その水はやがて斜面へ流れ出て、水の道を作る。この水の道が長い時を経ると崩れていく。崩れ落ちた土石は直下を流れる大谷川に流れ込み、河川をせき止めるダムになってしまう。河川の増水によりダムが壊れ、土石や河川の水が合わさることで発生するのが土石流災害だ。
下流には日光の観光地や市街地があり、防災の観点から崩落対策を講じなくてはならない。そこでこの現場では、土砂を貯める砂防堰堤の設置や、斜面を安定させる山腹工といった対策工事を行っている。1934年に一度対策工事は完了したが、新たにできた水の道が崩落してしまい、再び工事を実施中。まさにいたちごっこの状況である。
この現場の危険度を上げるのも屏風岩である。雨水が岩のなかにも入り込んでおり、氷点下となる冬場には凍結・膨張する。やがて雨水は溶けて流れ出るが、膨張によって岩が緩んでしまっており、石が剥離してしまう。これを「凍結融解」という。従来であれば人が目視するしか状態を監視する方法がなく、崖の上からロープ伝いで岩に張り付きチェックするなど、危険な作業だった。この現場では2012年から工期が始まっているが、屏風岩のチェックはその際に一度行ったきり。現場の安全面を考えると、心もとない状況だった。
施工を担当する栃木県宇都宮市の中村土建では、2018年ごろからドローンを導入し、当日の作業前に屏風岩を空撮して状態をチェックする取り組みを始めた。安全性の向上に寄与したものの、現場にいる担当者が操縦しなくてはならず、精神的な負担となっていた。
屏風岩周辺の木々の枝に注意して飛行させなくてはならず、操縦が難しかったです。徐々に慣れはしましたが、怖さは常にありましたね。
氷点下、電源のない山奥で稼働する「DJI Dock 3」
そこに目をつけたのは栃木県栃木市でドローン点検や測量を手掛ける藤成測量だ。栃木・茨城・群馬・埼玉の4県に広がる渡良瀬遊水地では、植物の適切な育成のために野焼きの一種「ヨシ焼き」が春に行われるが、同社は2020年度からドローンを使用して残火確認を行っている。2024年度(2025年3月)に行われたヨシ焼きでは、DJI Dock 3の前モデルであるDJI Dock 2を使用して残火確認に取り組んだ。その後も関連会社のスカイブリッジ(埼玉県)と合同で、大規模プラントや太陽光パネル、遊園地の遊戯機械、さらにはスキー場のリフト点検にドックを使用し、ドローン運用の自動化に関する知見を深めている。
藤成測量は中村土建に対し、DJI Dock 3を使用し、毎日の屏風岩の点検を自動化することを提案。この工事の発注者である国土交通省関東地方整備局日光砂防事務所も交えてドックのデモンストレーションを行ったところ、必要とされるデータの取得が可能と判断できたため、導入に至った。2025年12月から2026年3月まで、中村土建から発注を受けた藤成測量が自社のDJI Dock 3を現場に持ち込んで運用する計画だ。
取材を行ったのは2026年1月下旬。折からのシーズン最強寒波が居座り、現場のベテラン担当者に「20年前と同じぐらい」と言わしめたほどの寒さだった。自動車の気温計は日中でも氷点下を示しており、防寒着に手袋で対策しても冷気が肌を刺す。DJI Dock 3はそんな寒冷地でこそ実力を発揮すると、システムファイブの担当者は話す。
DJI Dock 3は前モデルと比較して、カバーに傾斜がつきました。雪が積もりづらい構造になったんです。また、カバーにはヒーターが取り付けられたので、雪を溶かすこともできます。運用するDJI Matrice 4TD/4Dは標準で抗着氷プロペラを搭載しているので、雪や雨の中での飛行に強くなりました。


DJI Dock 3は-30~50℃までの幅広い気温で使用できることも大きな特徴。今回のような日中でも氷点下となる現場でも使用可能だ。実際、運用開始以来、飛行できなかったのは風速が強かった数日のみだったという。
DJI Dock 3に必要な電力を太陽光発電でまかなう「オフグリッド運用」が行われていることも特筆すべき点だ。実はこの現場には商用電源が通っていない。そのため大型発電機を持ち込んでいるが、火災などが発生した際の対応のため、使用時は常に人による管理が必要となり、無人の時間帯では使用できず非効率である。
そこでこの現場では太陽光パネルを設置し、電気を発電して電源を得ている。DJI Dock 3も太陽光発電で充電されたポータブルバッテリーから電気を供給されている。山間の日当たりがそれほどよくない場所のため発電量が限られるため、DJI Dock 3は使用時のみ電源を入れる運用となっているが、電気が通っていない場所でもドックを運用できることを証明する事例といえる。



赤外線カメラで目に見えない崩落の兆候を見抜く
現在の運用方法は、作業開始前の毎朝7時40分に、DJI Dock 3から、赤外線撮影も可能なDJI Matrice 4TDが離陸。一気に高度140mまで上昇し屏風岩へ向かう。岩壁を光学カメラ、赤外線カメラで撮影し、ドックに戻ってくる。人間が操縦することはなく、あらかじめ決められたウェイポイントを自動的に飛行し、所要時間は5分かからない程度だ。また週に1回、点群データ取得のための飛行も実施している。


光学カメラの画像と点群データを組み合わせることで、岩の位置のズレが明らかになる。ズレが大きければ落石の危険が高まっていると判断できる。これだけでも大きな情報だ。では、赤外線カメラでは何をチェックしているのだろうか。
凍結融解で生じた亀裂や剥離した部分は、岩に密着している部分と比較して日光に当たった際に熱を持ちやすくなっている。つまりほかの部分よりも表面温度が上がっているのだ。そこで赤外線カメラで周囲より熱を持っている箇所を特定すれば、崩落しそうな岩盤を見つけやすくなるというわけである。

ドローン導入以前は現場から少し離れた場所で双眼鏡などを使い、チェックするしかなかった。それと比べれば、肉眼では判別不可能な剥離の兆候を捉えることができ、得られる情報は段違いだ。データ上に問題がなければ、安心して現場作業に打ち込める。中村土建の担当者は現場の安全性の向上について以下のような感想を持っている。
現在は安全だという担保がないと作業員を現場に入れられない世の中になってきています。ドローンが毎日飛ぶようになり、異常が見つかれば作業員に「安全の確認がとれるまでちょっと待つように」と言えるようになりました。現在までにこういったことは起きていませんが、安心感はかなり違います。


自動化がもたらす安全と今後の課題
このように、ドックを使用したドローン運用の自動化は実装段階を迎えている。だが、課題もある。この現場での運用は、人手がややかかりすぎているのだ。
現場では、担当者がドローンの飛行中に機体を目視している。工事現場ということもあり、補助者を配置したうえでの目視外飛行、いわゆるレベル2飛行の許可承認を受けて飛行しているが、担当者としては「見ていると安心できる」という感情があるそうだ。
また、現在のドローン関連の法制度上、操縦者が飛行中の機体から送られてくる映像を確認している必要がある。そのため、藤成測量の当番の担当者が毎朝の運用を遠隔で見守っている。移動のコストが発生しない点は評価できるが、現状の少なくもと2名が運用に関わっている状況は、ドローンを用いた省人化・効率化とはいえない。
現場の担当者が手動操縦したり、映像を確認したりすれば運用に携わるのは1人になるが、結局、現場の負担を増やすことになってしまい、本末転倒だ。現場としてはドローンの運用は外注したいという意向があるので、現状が続くようであれば、ドックの運用に知見があるドローン事業者にとってビジネスチャンスになるかもしれない。だが「朝出てきたらドローンは飛び終わっていて、データも取れている状態」こそ、ドローンの自動運用の目指すべき姿だろう。改善する術が生まれることを期待したい。
最後に、どんな現場にドックがあると便利か担当者に聞いた。
この現場は事務所が近くにあり、ドローンの目視もできます。でも、事務所から自動車で30分走って、そこから工事用モノレールに20分乗って…という現場も結構あるんです。そんな現場にこそ、ドックを置きたいですね。現場に行くまでの間にドローンが飛んで、結果をメールで送ってくれる。そうすればすぐに作業に取りかかれますから。
課題はあるが、ドックの取り扱い経験が豊富な藤成測量によるドローンの自動運用が、現場の安全に大きく貢献しているのは明らか。自動運用の要であるDJI Dock 3は、今後も様々な現場で活躍する姿を見せてくれるはずだ。
藤成測量の担当者は、遠隔運用が可能なDockの高い運用性を現場で実感しているという。その活用により、従来以上に多様な案件へ対応できると確信している。同社は年内に10台以上の設置を目標としており、すでに具体的な導入計画も進行中だ。
担当者は次のようにコメントしている。
今回のような日常的な点検業務を従来どおり手動で行う場合、コスト面で現実的ではないケースも少なくありません。しかしDockを活用すれば、予算に応じた柔軟かつ効率的な提案が可能になります。
今後は、人材不足が進行する社会を見据え、多数のDockを同時運用するノウハウを確立していく予定です。持続可能な点検体制を構築し、社会インフラの維持・発展に貢献していきたいと考えています。