2社の取り組みを全3回で紹介する特集。第1回では、各社のマイクロドローンに対する取り組み、協業のきっかけ、マイクロドローンを活用した点検業務の広がりや将来性について、2社から話を聞いた。
現役講師のオペレーターが点検に従事

ムラモトドローンテラス 岩崎大輝氏、藤永優氏
2025年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故。現場の地下には1983年に整備された管径4.75mの下水道管が通されており、これが老朽化して破損したことが事故の原因とされている。国土交通省の資料によれば2021年度の調査では補修が必要な腐食は確認できなかったというが、もしも人の手をそれほどかけず、頻繁に点検ができていれば、事故の発生を避けることができたかもしれない。
この「もしも」を叶える道具として、狭隘部点検用のマイクロドローンが注目を集めている。数100g程度の重さでカメラを搭載したタイプのドローンが、人の立ち入りが困難な場所を飛行し、点検箇所を撮影する。その映像をもとに腐食や劣化がないかチェックするのだ。
ムラモトドローンテラスは、奈良県広陵町に本店を置くゼネコン・村本建設の新規事業の企画を担う部署の社員提案からスタートし、建設業以外にも裾野を広げたドローン事業の展開拠点として2021年に営業を開始。大阪府堺市に最大天井高8mの屋内練習場を持ち、国土交通省登録講習機関として「無人航空機操縦者技能証明(国家資格)」の取得に対応したスクールも運営する。
また、講師陣は現役のドローンオペレーターであり、空撮や点検業務にも従事する。その一環としてマイクロドローンを活用した狭隘部の点検にも携わっている。ムラモトドローンテラス館長である藤永優氏は現状を以下のように解説する。
藤永氏:
現在弊社では、Liberaware「IBIS2」などの機体を使用して点検業務を行っています。鉄道や高速道路の高架橋の点検を担当することが多いですね。八潮市の事故をきっかけに地下坑道の点検に関する問い合わせが増えています。
特に行政ではマイクロドローンを使って点検するという発想がなかったので「マイクロドローンを活用して、ちゃんと見ないといけない」という意識が、自治体の中で生まれています。
土木構造物の維持管理専門チームが迅速に対応
鉄道事業者であるOsaka Metroは「最高の安全・安心の追求」を企業理念に掲げている。最高の安全・安心の追求には日々の点検が欠かせない。点検対象は車両や線路だけではない。トンネルや高架橋、駅の躯体といった土木構造物も対象となり、これらを専門に点検する構築調査担当のチーム12人が、日々Osaka Metro全線を巡回して維持管理や点検を行っている。
森康二氏:
弊社の強みは自社で構築調査のノウハウを持った専門チームを保有しており、点検と処置をスピーディに実施できることです。異常があると認められた場所を見つけ次第、列車運行に影響を及ぼさないよう処置を行います。
Osaka Metroがマイクロドローンによる点検を導入したきっかけは、2018年に起きたモルタル片の落下事故だ。躯体コンクリート表面に不着していた「モルタルペースト状のもの」が剥落し、天井仕上げを破り、線路上に落下したという。Osaka Metroの近藤氏は、人の目が届かない場所の点検の難しさを解説する。
近藤氏:駅の天井仕上げ裏の土木構造物は点検口からの目視点検しかできないなか、配管やケーブルなど施設物が多く敷設されているため、目視可能な範囲が極端に限られてしまいます。また、こういった場所の点検はエレベーター設置などの駅改良工事で、天井仕上げを広範囲に撤去する際に行う場合が多く、限定的な点検範囲や不定期な点検周期となる箇所も多くあります。
Osaka Metroではモルタル片の落下事故を受け、天井仕上げ裏の定期点検を重要視し、人に代わって点検できる機器の選定を開始した。当初はカメラ付きラジコンカーなどの導入も検討したが、配管などの障害物により移動の困難さと天井仕上げが抜け落ちるリスクもあり、空中飛行による機動性からマイクロドローンの採用が決まった。
Osaka Metroでは構築調査担当チーム12人のうち、現在4人がドローンオペレーターとしても活動する。勤務スケジュールに合わせて、営業終了後に天井仕上げ裏の土木構造物をマイクロドローンで点検する。従来の点検方法とは異なり、目の届かない箇所をいつでも手軽に確認できるマイクロドローンを用いた点検により、高い安全性が確保されている。
また、Osaka Metroではマイクロドローンによる点検の受託業務も行っており、地元関西の鉄道事業者に加え、関東の鉄道事業者でも点検した実績を持つ。駅の天井仕上げ裏の土木構造物の点検はどの鉄道事業者も重要性は把握し関心もあるものの、実際にドローンなどを活用し取り組んでいる事業者はまだまだ少ないという。マイクロドローンの活用場所としては、駅天井仕上げ裏の狭隘部のみだけはない。点検者の立ち入りや目視自体に制限や制約を受けたり、点検者に危険が及ぶ可能性があるような環境的に立ち入り困難な箇所なども対象になり得る。そのため、下水道管の点検を行う事業者や工場プラント施設の管理者など、他分野からの問い合わせも受けており、業務の広がりを見せている。
「車内広告」がつないだムラモトドローンテラスとOsaka Metro
ムラモトドローンテラスとOsaka Metroの出会いは2022年に遡る。Osaka Metroでは2019年からマイクロドローンを活用した施設点検を開始し、2020年からは自社でオペレーターの育成も行っていた。そんな折、ムラモトドローンテラスはオープンに合わせてOsaka Metro御堂筋線に車内広告を掲出。それを見たOsaka Metroの担当者たちが関心を持ち、2社は出会った。
当時、Osaka Metroでは新たなマイクロドローンの導入を検討していたため、機体の製作も行っているムラモトドローンテラスは要望に合わせた機体の製作に取り掛かった。
森康二氏:弊社はマイクロドローンの導入により、これまで点検者による目視点検が困難であった天井仕上げ裏の土木構造物を、より丁寧にいつでも手軽に安全に点検ができるようにすることを目標に掲げました。終電から始発までの限られた時間で点検するため、使用するマイクロドローンについては、点検の効率性や異常箇所の見落としを防ぐ観点から搭載するカメラは広域単眼カメラではなく、全周囲を一度に撮影ができる360°カメラにこだわりました。また、狭隘空間を安全に飛行させる必要があることから、小型化とドローンオペレーターの感覚に合った操縦性を有する機体となるように共同して製作しました。
藤永氏:Osaka Metroさんの要求性能を満たすように、360°カメラを搭載できる中で最も小型である対角寸法120mmの機体を製作しました。それが、現在業務で使用していただいている「VR-X120」です。実際に業務で使用いただいている中で出てくる要望に合わせて、パーツ選定や機体構成の変更にも柔軟に対応しています。例えば、もともとローターを5枚羽で設計していたのですが、トルクが大きすぎるという指摘を受けて3枚羽に変更するなど、多岐に渡ります。


現在は屋内点検用の機体が市場に複数種類リリースされているが、本来なら現場ごとに求められるスペックは異なる。今回はムラモトドローンテラスとOsaka Metroで話し合いをしながら、最適な機体が製作された。

機体製作を進める一方で、ムラモトドローンテラスでは国家資格制度の運用開始を見据えて、専門技術を身につけられる新しいドローンスクールの構想を練っていた。空撮や高所点検のスクールを検討していたが、すでに狭隘部の点検業務にマイクロドローンを活用しているOsaka Metroとのマッチングが実現したため、「狭隘部をマイクロドローンで点検する技術の取得に特化したスクール」の設立を進めることになった。それが2024年7月に開講した「NSI(Narrow Space Inspection)ドローンスクール」だ。
詳細なカリキュラムなどは第2回で紹介するが、スクール設立の意図を藤永さんは以下のように解説する。
藤永氏:例えばマイクロドローンを使ってレースをしているパイロットは操縦技術に問題はないものの、構造物の異常箇所は判断できないことが多いでしょう。点検の専門知識を持っている人がマイクロドローンを操縦するほうがオペレーターの人材確保の観点ではいいのですが、操縦技能習得に苦労する傾向があります。なので、点検業務をしっかりできるオペレーターは少ないのが現状です。
そこで、マイクロドローンの知識・操縦の基本から現場で点検ができるようになるまでを一気通貫でレクチャーするスクールを作りました。修了した暁には、現場で求められるスキルがすべて身につけられるカリキュラムを組んでいます。

カリキュラムはOsaka Metroとムラモトドローンテラスで協同して作成している。Osaka Metroはこれまでの現場で培った知見や、実際に自社でマイクロドローンオペレーターを育成した経験をふまえて、必要な要素をカリキュラムに反映させた。Osaka Metroも「スクールで人材を養成すれば、修了生をそのまま自社の点検人材として活用できます。また外部の施設点検を受託しはじめていますので、人材の確保は重要です」と、人員確保の重要性を強調する。
NSIドローンスクールで学ぶことは、マイクロドローンによる狭隘部点検業務に参入する近道になるといえるのだ。
ベネフィットが大きいマイクロドローン点検は拡大する

最後にマイクロドローンを活用した点検業務の展望について、2社に所感を聞いた。
藤永氏:電波法の問題があり、現在のところ実用的な飛行距離が40m程度に抑えられているのが大きな課題です。ですが、これがクリアされればより拡大していくでしょう。目視の範囲内なら人が点検すればいいのです。天井裏のような、目視で見られず、かつ人が入ることがリスクになるような場所の点検にもドローンをどんどん活用すればいいと思います。今まで見えていなかったところが見られるようになったというのは、ベネフィットとして大きいです。
森貴大氏:弊社は多くのお客さまに安全・安心に施設をご利用いただくことが何よりも重要と考えています。そのため、目視で確認できないから仕方ないではなく、どうすれば確認できるようになるかという観点でドローン事業に取り組み、最高の安全・安心を追求してきました。そのような安全に対する考え方は弊社に限らず、社会全体にもっと広がっていくべきです。
弊社としては他社に先駆けてドローン事業に取り組み、スクール運営にも参画しているので、ファーストペンギンとしてマイクロドローンによる点検をどんどん広げていきたいと思います。
インタビューを経て、「鉄道事業を安全に遂行するために、マイクロドローンを使った点検は必須になる」という考えが見て取れた。この考えが浸透すれば、点検業務を担えるオペレーターの需要も増加するだろう。人材を供給する確かな力のあるNSIドローンスクールにかかる期待は大きい。
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大阪市高速電気軌道株式会社 交通事業本部 工務部 保線課
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