今回は「防災」の観点で、FC100を使用し消火用水を運ぶ取り組みを紹介する。その舞台となったのは、関東北部の渡良瀬遊水地で行われた「ヨシ焼き」の現場だ。

アームを展開したサイズは3m強四方のFC100
まずはFC100のスペックを紹介しよう。本機のアームとプロペラを展開した際のサイズは3220×3224×975mm。一般的な四畳半の部屋は約2.7m四方、六畳間で約3.6×2.7mであり、いかに巨大か想像できるはずだ。しかし、山間地での物資輸送でヘリコプターを利用する場合、その機体寸法に応じて広大な離着陸場を設けるケースがある。FC100はそれよりコンパクトなスペース、おおむね10m四方程度で運用できると考えられ、ヘリコプターと比較して大きな強みといえる。



バッテリーは最大2本搭載可能で、シングルでの使用時は機体のスロットに、デュアルで使用する場合は機体外側部に設けられたスロットに差し込む。最大飛行時間はシングルバッテリー時に7分、デュアルバッテリー時に14分となり、FC30より20%程度ダウンしているものの、FC100の機体重量や最大積載量が増加していることを踏まえれば高スペックといえよう。



FC100には新しいフラッグシップウインチシステムが採用された。ウインチ先端に設けられたフックが電動で開閉可能になり、荷物の着脱が容易になった。また、荷物を吊り下げて飛行する際に発生するウインチの揺動をリアルタイムで計測して抑える機能を採用し、荷物を安全に運ぶ仕組みが整えられている。

飛行時の周囲の安全を確認するシステムもFC30から増強された。FC100の機体前部には新たにLiDARを設置。毎秒最大30万点の点群データを取得し、微細な障害物も見逃さないようになった。また、前方、後方、下方にミリ波レーダーを搭載し、ビジョンセンサーも組み合わせることで、周辺環境を確実にモニタリングできるようにしている。


FC100とFC30ではそもそも最大積載量や寸法が異なるため使用シーンも変わってくると考えられ、単純に比較する必要はない。とはいえFC100は、物資輸送や安全飛行の精度をより細部にわたりブラッシュアップしており、モノを運びたい現場では頼もしい存在に仕上がっている。

ヨシ焼きの消火用水をFC100で運ぶ!
遊水地とは大雨などによって増水した河川の水を貯留する施設のことだ。渡良瀬遊水地は栃木県、茨城県、埼玉県、群馬県にまたがり広がる遊水地で、その広さは33平方キロメートル(3300ヘクタール)にもなり日本最大である。利根川水系の支川の渡良瀬川が流れ込んでいる。
渡良瀬遊水地のなかには豊かな自然が育まれており、その主役となっているのが「ヨシ原」である。ヨシとは河辺などに生息するイネ科の植物で、「アシ(葦)」とも呼ばれ、茅葺き屋根や簾などに使用され古くから日本の生活のなかで親しまれてきた植物だ。ヨシ原には多様な動植物が住み、独自の生態系ピラミッドが形成されている。
渡良瀬遊水地では毎年3月に野焼きの一種である「ヨシ焼き」が行われる。枯れたヨシを焼き払い、害虫などを駆除したり、新しいヨシや絶滅危惧種のトネハナヤスリといった貴重な植物の発芽を促したりする。渡良瀬遊水地の環境を適切に保つために欠かせない行事だ。ヨシ焼き当日は遊水地内の各地で炎が立ち上り、この世のものとは思えない幻想的な風景が広がる。ヨシ焼きを見学しに訪れる観光客も多い。
ヨシを燃やしたら終わりというわけにはいかず、残火確認の作業が必須だ。しかし、広大な土地を人間の目と足だけで確認するのは非常に労力がかかる。そこで、栃木県栃木市の藤成測量では、地元のヨシ焼き連絡会と協力し、2020年度からドローンを使用してヨシ焼きの残火確認を実施している。機体に搭載された光学カメラを駆使して残火を探すほか、一見消火したような燃え跡を赤外線カメラでチェックし、確実に消火されているかを確認する。まだ燃え残っていると判明したら、消防団が現場に駆けつけ消火活動に当たる。
今回、FC100は消火活動に使用するため投入された。
ヨシ焼きの消火活動では、消防団が「ジェットシューター」と呼ばれる消火器具を背負って、火が燃え残る現場に向かっている。ジェットシューターには20リットル程度の消火用水が入れられるが、消火に使えば当然減っていく。消火用水を使い切ったら、移動に使う自動車に積んだタンクから補充し、それもなくなれば、遊水地外にある拠点まで行き、給水しなくてはならない。時間的・体力的なロスが非常に大きいことが課題になっていた。
そこでFC100の出番だ。最大積載量80kgを活かし、消火用水の補充が必要になった消防団のもとへひとっ飛びし、消火用水を届ける。この仕組みが有効かどうかチェックするのが、今回の飛行の目的となる。ヨシ焼きにおける藤成測量のドローン活用の取り組みに興味を持った、ドローン販売を手掛けるシステムファイブが提案し、実施される運びになった。
機体が大きいため、いっこうに見切れない!
2025年度のヨシ焼きは2026年3月中旬に行われた。当日は快晴で、日中は春物の上着で済むぐらいの穏やかな気候だ。風も強くなく、ヨシ焼きには適した天候だった。午前中に遊水地内の各地のヨシに火をつけて野焼きを行う。午後から始まる消火確認作業に合わせて現地入りするため、筆者はJR東北本線古河駅に向かっていたが、到着直前、利根川を渡ったところで車窓左手の奥が暗くなった。ヨシ焼きで発生する煙が立ち込めていたのだ。
午後になり、ドローン運用チームはあらかじめ分担された飛行区域の最寄りへと移動し、それぞれの機体で消火確認を始めた。時を同じくしてFC100を運航するチームは、遊水地内の北西部にある越流堤へ向かった。ここを離陸地点として、東へ直線距離で約1.8km離れたスカイフィールドわたらせへ水を運ぶフライトが行われた。
アームを展開すると3m強四方になるFC100だが、折りたたむと1105×1265mmとコンパクトになり、余裕を持ってハイエースに積みこめる。現地に到着すると、システムファイブと藤成測量のスタッフの合計4名で、機体をハイエースから降ろした。機体重量が60.2kgあるため、複数人で作業するのが確実だ。

今回は充電環境がなかったためDJI純正の「D12000iEP」を使用した。
本製品はガソリンが入っていない状態で95kgと高重量な為、積み下ろし時には3~4名程が必要である。また、使用時の注意点としては稼働音が大きくバッテリーをスターターとするため使用環境が選定される。
その一方で3時間でバッテリー12本を充電しながらスターリンクを使用していた環境下でも発電機容量の1/3である10L程度の消費であった。発電機や充電環境のない現場でも終日運用できると実感した。


機体の電源をつけると、機体特有の起動音が鳴り響いた。まず運んだのは20リットルのポリタンク1個と空水タンクだ。ポリタンクを包んだネットを機体のウインチに接続し、周囲の安全を確認してからテイクオフ。最大積載量の4分の1程度の重さのためか、FC100は物資を軽々と空中へと引っ張り上げた。


離陸時にはプロペラが発生する大きな音がやや気になったが、機体の対地高度が30mほどになると、まったく聞こえなくなった。離陸地点に設置したエンジン式の発電機のほうがうるさいほどである。目的地へまっすぐ飛行開始したFC100を目視で観察していたが、いっこうに見切れない。機体のサイズが大きいため、1kmばかり離れていてもしっかりと目視できるのだ。今回は見通しのいい遊水地での飛行だったためかもしれないが、機体が遠方からでも見やすいという特性は、運航者の安心感に寄与するかもしれない。また、着陸前の高度3m付近になると必ず周囲確認のポップアップが表示されるのでドローンを初めて運用される方にもおすすめである。
荷物を降ろしたFC100はもと来た航路を辿って離陸地点に戻ってきた。離陸時は気にならなかったが、ダウンウォッシュ(プロペラから吹き下ろす風)が非常に強く、砂埃などが飛び散る。空撮用ドローンであればヘリパッドなどを敷いて対処できそうだが、機体のサイズが大きいのでそうもいかないだろう。気になるようであれば、保護メガネなどをかけるとよいかもしれない。なお、約1.5kmの飛行距離は5分ほどだった。
次に荷受け地点へ移動してフライトを観察することにした。荷受け地点はスカイフィールドわたらせから変更され、越流堤から北西に直線距離で600mほど離れた駐車場になった。予定にない飛行だったようだが、FC100が臨機応変に対処可能であることを示した格好になった。
駐車場付近は越流堤より数m低い場所にあり、木々が干渉して上空がやや見えづらかった。だが、越流堤の方向を見ていると、FC100が浮上してこちらに飛行する様子が、木々の枝越しに確認できた。機体が大きいぶん、やはり目視がしやすい。着陸地点までやってきたFC100はホバリングしたままケーブルを下げて荷物を接地させ、電動でウインチ先端のフックをオープン。ケーブルを巻き上げると離陸地点へ引き返していった。地面には荷物だけが残された。離陸地点で人が作業をせずに荷物を取り外せるわけで、作業効率は非常に向上しているといえる。




今回の飛行には2パイロットで臨んでいた。つまり、離陸地点、荷受け地点にパイロットを置き、機体が目視できたタイミングで荷受け地点側のパイロットが操縦権を受け取った。注意したのが通信の設定だ。操縦したシステムファイブの担当者は、次のように説明している。
システムファイブ担当者今回、離陸地点の操縦者はプロポと機体間の通信にLTEを使用しました。一方、荷受け地点の操縦者はDJIの独自規格であるO4映像伝送システムで通信しました。いずれの操縦者もO4にすることはできますが、トラブルが生じた際に両方ともO4だと対処できないケースも考えられます。そこで片方をLTEにすることで、何かあったときのための対策を取っています。
DJI DeliveryHub とDJI FlightHubの統合が待たれる
フライトの様子を取材したあと、ヨシ焼き実施本部へ移動した。ここで消火確認作業の取りまとめを行っており、ドローン運用チームの本部も設置されている。本部の一角には大きなサイズで印刷された遊水地の地図が掲出され、ドローンのフライト情報を示す「DJI DeliveryHub」や「DJI FlightHub」の画面が表示されたモニターが設置されている。遊水地内を飛行するドローン各機から送られてくる映像をチェックし、消火状況を確認。まだ消火していないと認められた場所があれば、通信アプリ「Buddycom」や電話などを通じて、現地で消火活動にあたる消防団に指示を出すという体制が整えられている。



この日、遊水地上空ではDJI Matrice 400やDJI Matrice 350 RTK、DJI Dock 3から飛び立ったMatrice 4TDといった各種産業機がドローン運用チームの手により飛び交っていた。これらのマシンはすべてDJI FlightHubで統合的に管理されており、地図上に各機の位置がプロットされ、クリックひとつで映像をチェックするといった運用が可能になっていた。
だが、FC100についてはDJI DeliveryHubを使用しており、DJI FlightHubと統合しての運用ができなかった。そのため本部ではDJI DeliveryHubを管理するスタッフ、DJI FlightHubを管理するスタッフがそれぞれ付き、FC100が飛行する際には、Buddycomで発報して他機に注意を促すという運用になっていた。FC100もDJI FlightHubに対応すれば、一体的な運航管理が実現できるだろう。改善が望まれるポイントだ。

最新の機体を活用し、安全で効率的な作業を実現する
この日の業務終了後、関係者に話を聞いた。
現場における消火用水の運搬は大きな課題になっており、その解決案のひとつとして、FC100の導入が望まれている。渡良瀬遊水地ヨシ焼き連絡会として、ドローン運用チームと消火活動チームらとの連携にあたった栃木市地域振興部の舘野泰行氏は、消火の苦労とFC100に対する期待を次のように語った。
舘野氏:火元を推理して消火しに行くのですが、ポンプ車で横付けできないような場所だと、ジェットシューターに頼らざるを得ません。推理が外れた場合、また火元を推理して移動して…とやっていると、労力はかかるし、消火用水の残量も心もとなくなります。FC100を何機か投入して、必要な場所にピストンして消火用水を運ぶといった運用ができれば、心強い味方になりそうです。
ドローン運用チームとして作業に当たった藤成測量の小林隼人氏は、ドローン事業者の立場で、FC100の活用方法について、次のように提言している。
小林氏:ヨシ焼きに関しては大いに活用できると思います。ヨシ焼き連絡会さんと話し合いをして、来年以降、どこにFC100を飛ばす必要があるかをしっかり詰めたいですね。給水カーとFC100をセットで運用して、給水カーからポリタンクに水を積み、FC100で必要な場所に運ぶという方法もできるでしょう。
ヨシ焼きには栃木市消防本部も参加した。ヨシ焼き連絡会から協力依頼を受け、警防課が2024年度から取り組んでいるドローン飛行で協力した。FC100の飛行には直接携わっていないが、その性能を見た警防係の田中孝彰副主幹は、運用方法の可能性を次のように話している。
田中副主幹:山林火災で力を発揮するのではないでしょうか。山林火災では20リットルの消火用水を積んだジェットシューターや、重たい消火ポンプをかついで山登りをして消火作業し、水がなくなったら下山して給水します。80kgも運搬できるFC100で運べたら、隊員の登り下りや機材運びの負担が大いに軽減できると思います。
消火確認作業におけるドローンの活用についても振り返りたい。ドローン運用チームと渡良瀬遊水地内で消火活動に当たるチームとの連携は非常にスムーズに行えているという。小林氏は、次のようにドローンの活用に手応えを感じている。
小林氏:ヨシ焼きに携わって藤成測量としては6年目、プロジェクトマネジメントを担うスカイブリッジは4年目になります。関係各位の配慮もいただき、オペレーションはスムーズになりました。元々は「ドローンって危ないんじゃないの」といったイメージも持たれていたのですが、今後は「ドローンが入ってよくなったね」ということをもっと周知していきたいと思います。
舘野氏も、次のように同じ感想を述べている。
舘野氏:ドローン運用チーム、消火活動に当たるチーム、そして本部に詰めているチームとの連携が非常にうまく機能しています。「ここが消えているか確認してほしい」といったオーダーに、ドローン運用・消火活動の各チームが即座に応えられる体制が完成しています。
田中氏はドローンを活用し、市民の安全を確保する決意を次のように語った。
田中氏:ドローンの運用技術をさらに磨いていきたいです。市民の皆様に1秒でも早く安心と安全を届けるため、来年度も要請があれば参加を継続したいと思います。
渡良瀬遊水地のヨシ焼き現場では、長年にわたる活動により知見が蓄積し、ドローンによる火元の監視技術は成熟した。その一方で、2025年のDJI Matrice 4TDやDJI Dock 2、2026年のFC100など、新機体を積極的に投入して活用方法を検証している。今後も成熟した技術と新機体の組み合わせを突き詰めて、より安全で効率的な作業を実現していくだろう。