世界初の宇宙実証
同デバイスは、関西大学らのグループが開発した超小型人工衛星「DENDEN-01」に搭載され、日本時間2024年12月9日(月)に国際宇宙ステーション(ISS)から放出。試験電波による通信で衛星情報を取得した結果、寒冷時のバッテリー温度が設計どおりの下限温度を下回ることなく、適正温度範囲に維持されていることが確認された。この無機系SSPCMによる機器温度安定化効果の宇宙実証は世界初となる。
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DENDEN-01の概要
DENDEN-01は、JAXAおよびUNISECにより公募された「学術利用及び人材育成を目的とした『きぼう』からの超小型衛星放出機会の提供プログラム(J-CUBE)」に採択された超小型衛星。同衛星では、SSPCMを活用した電源温度安定化装置をはじめ、今後の超小型衛星開発に貢献する複数のエネルギー技術および高負荷ミッションの軌道上実証が行われる。
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電源温度安定化デバイスの詳細
同デバイスは、DENDEN-01の内部下方に搭載されており、内部には円筒形リチウムイオン電池2セルが含まれる。+Z面側には搭載機器で最大のサイズである通信機が設置されており、両者の温度変化を計測。また、衛星の外装パネルの温度も計測対象としている。
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実証実験の結果
12月25日に取得した衛星情報データを基に、日照域から日陰域へ移行する際の同デバイス、搭載機器、構造パネルそれぞれの温度変化を比較した結果、同デバイスおよび通信機のそれぞれに最近接の構造パネルの温度は急激に低下する一方で、本デバイスはほぼ一定の温度を維持した。
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12月26日、衛星が日陰から日照へと移行した直後の記録では、通信機は-8℃まで低下した一方で、本デバイスは設計上の下限温度である0℃を維持。
これらの結果から、開発したSSPCMが宇宙空間においてバッテリー温度の急激な低下を防ぎ、バッテリー動作に適切な温度範囲を保持できる、優れた性能を発揮できることが実証された。
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SSPCMの概要と今後の展望
人工衛星の中でも100kg未満の衛星は超小型衛星と呼ばれ、その中でもキューブサットの開発・利用が急速に進んでいる。しかし、キューブサットには電力、重量、サイズの制限があり、熱容量も小さいため、宇宙空間の急激な温度変化に弱いという課題がある。
この課題に対し、関西大学と新日本電工は、宇宙環境の厳しい温度変化に対応し、蓄熱・放熱が行われるよう転移温度や転移応答性を最適化した二酸化バナジウム(VO2)系SSPCMを共同開発し、デバイス化に成功した。今回の実証結果により、SSPCMが超小型衛星において有効に機能することが示され、電源に限らず様々な機器の温度管理手法としての実用化に向けた大きな一歩となったとしている。
今後は「DENDEN-01」の運用を通じてさらなるSSPCMの効果評価を進め、次世代の超小型衛星運用技術の確立を目指すという。