DJIから発売された地上走行ロボットRoboMaster S1。一見ラジコンのようですが、本格的なプログラミングができるロボット工学教材です。プログラミングができる教育教材と言えば、DJIが技術協力しているRyze Tech社のトイドローンTello EDUですが、空を飛ばないRoboMaster S1はどんなプログラミングが可能なのでしょうか?アナログ操作中心に紹介した基礎検証編に続き、今回はプログラミングを中心にレビューしていきます。
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RoboMaster専用アプリをインストール
RoboMasterS1には、Tello EDUと同じように専用アプリがあるので、早速インストールします。レビュー機が届いた時には英語だったRoboMasterアプリの画面ですが、あっという間に日本語に翻訳されていました。現在、iOS、Android、Windowsに対応しており、パソコンやスマートデバイスで利用することができます。アプリを立ち上げると「ソロ」「バトル」「ラボ」と3つのボタンが現れます。プログラミングでは「ラボ」を選択します。
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「ラボ」ホーム画面
「ラボ」には「マスターへの道」「DIYプログラミング」「ロボアカデミー」の3つのメニューが用意されています。対応プログラミング言語はScratchとPythonです。「マスターへの道」はチュートリアルに従ってプログラミングが学べるプロジェクトベースの学習コースになっています。
「DIYプログラミング」は自由にプログラミングすることができ、自作したプログラムを保存することができます。「ロボアカデミー」では、ロボット工学について学べるビデオコースと使用するブロックの説明などが参照できるプログラミングガイドに分かれています。英語での紹介ですが、ビデオを見るだけで高度なプログラミングを勉強している気分になれるのでオススメです。
「マスターへの道」で学ぶ
今回は、主に「マスターへの道」で何ができるのか検証してみました。チュートリアルは初心者でも学べるようにとても丁寧に作られています。説明だけでなく、動画と見本のプログラムが用意されているので、手順を追っていけば初心者でも動かすことができそうです。プログラムはScratch 3.0でブロックを組み立てるように組んでいきます。S1とはWi-Fi経由で直接接続します。
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マスターへの道で「1メートル進む」をプログラムした画面
ブロックの種類は「システム」や「シャーシ」「ジンバル」など13もあり、Tello EDUアプリが5種類なのと比べるととても高機能なのがわかります。Tello EDUを動かす時には「離陸」「前」「後」など単純なブロックを組み立てていくのに対し、S1の車体を前に動かすときは「シャーシが1mあたり0度の角度で移動」というブロックをメニューから見つけて、やっと前に進ませることができました。
「1メートル進む」という命令を▶︎ボタンを押して実行する
また、プログラミング中も画面上部にあるテレビのようなFPVボタンを押せば画面右上にS1視点の画面を表示することができます(全画面にするとジョイスティック制御も可能)。Tello EDUはアプリが2つあるのでプログラミングをするときは画像を見ることができません。S1は操作とプログラミングが同時にできるのでさらに楽しむことができます。
「連続攻撃」ミッションに挑戦!
「マスターへの道」で学べるミッション画面
ミッションの3つ目は「連続攻撃」です。難易度は星1つですがAIマークがついています。なんといきなり数字が書いてあるビジョンマーカーを識別し、照準を合わせて連射するという的当てのようなミッション。早速、挑戦してみました。
一気に本格度が増すプログラミング画面。Scratch 3.0でここまでできる
ビジョンマーカーはブロックで指示して認識させます。関数を使ってマーカーの位置情報を保存するなど本格的です。まずは見本通りに進めてみました。
1、2、3の順に打つはずが3ばかり狙っているような…。
マーカーの角度や位置など再調整が必要
マーカーの角度や位置など再調整が必要
このようにミッションに従い練習を繰り返せば、メカナムホイールの動かし方やジャイロ機構を使った制御など、かなりプログラミング技術が上達しそうな気配を感じます。PID制御などの重要な概念は、とても丁寧な説明があり、自動化の基礎理論を学ぶことができます。
PID制御説明画面。アプリだけでなく動画などでも解説がある
夢のライントレースに挑戦!
次に、絶対にやってみたかったライントレースに挑戦です。ライントレースはジンバルを下に下げ、ラインをS1のカメラを使って画像認識し、線に沿って自動走行させます。
ライントレースのプログラミング画面
青いラインに沿ってPID制御によって動く。S1で自動運転も可能
手順通りに進むと思ったより簡単にできました。本当はビジョンマーカーを識別して停止するなど動作をさせたかったのですが、それはうまく動きませんでした。よく見ると「写真撮影」「拍手の認識」「人の認識」などがAI技術を使ったブロックが用意されているので、自分でいろいろプログラムに挑戦できそうです。
また、関数や変数、リストの作成などもチュートリアルで行うので、ステップアップすること間違いなしです。しかし、途中わからないところはコピーになってしまったので、ここからが勝負どころ。自分で動かして確かめながら繰り返す大切さを感じました。
「DIYプログラミング」で必殺技はこう作る!
S1の特徴として、バトルモードなどで独自にプログラムしたアクションを発動し、必殺技にできると聞いたのですがあまりピンときませんでした。チュートリアルでは、後方から攻撃されたら攻撃された方向へ反撃する動作をプログラムするミッションが用意されています。
「DIYプログラミング」画面で「カスタムスキル」登録しておくと、操縦時にボタンを押し独自のプログラムを実行することが可能になります。なるほどそうやって組み合わせると強くなれそうな気がします。また、「DIYプログラミング」では、Scratchで組んだプログラムをPythonのコードで確認したり、Pythonで直接コードを書いて実行したりすることもできます。ベータ版とありますがアプリ上でできてしまうのはすごいです。
プログラミング初心者には、この辺りが限界でしたので、Tello EDUの検証時にお世話になった「Drone Engineer Tea Party(お茶会)」にレビュー機を持ち込み、エンジニアの皆さんと検証してみました。この時はアプリがまだ英語だったので、手探りでの検証だったのですが、ホイールの構造を把握しオリジナルプログラムを組む方も現れました。自分のプログラムを他の人と共有することもできます。そのプログラムを参考にして作ったのがこちらです。
S1のオリジナルプログラムで必殺技に挑戦!
なんだか目が回ってしまったように見えます…。必殺技というよりも「囲まれてしまった!」という時に使ってみたいと思います。
S1とTello EDUと比べてみると
プログラミングに絞って言うと、入門編として小学生から扱えるのがTello EDU、中学高校生大学生が本気で取り組むのがS1という印象です。違いを表にまとめてみました。高機能なS1はとても魅力的ですが、個人的に飛ぶという機能を持つドローンはやはり捨てがたいです。成長に合わせ組み合わせて遊ぶのが正解かもしれません。
S1とTello EDUのプログラミング機能比較表
商品名 | Tello EDU | RoboMaster S1 |
発売元 | Ryze Tech | DJI |
価格 | 税込16,800円 | 税込64,800円 |
対応アプリ | Tello EDUアプリ(Telloアプリ)、 Swift Playgrounds | RoboMasterアプリ |
プラットフォーム | iOS、Android | iOS、Android、Windows(ベータ版) |
対応言語 | Scratch/Python/Swift | Scratch3.0/Python(ベータ版) |
対象 | 14歳以上、初心者から専門的な知識があれば高度なプログラミングを楽しめる | 14歳以上、初心者の中高生でもチュートリアルやガイドで高度なプログラミング技術が習得可能に設計されている |
AI技術、複数台制御 | ミッションパッド認識(SDK2.0により拡張可能)、編隊飛行可 | ビジョンマーカー認識(44種類)、ライン認識、拍手認識、人認識、S1ロボット認識、対戦可など |
FPV(一人称視点) | Tello EDUアプリ不可(操縦用Telloアプリは可) | プログラミング時もFPVボタンで表示可能 |
操縦とプログラミングの連携 | 不可。但し本体と接続しなくてもプログラムの動作を確認するシミュレーションが可能 | 可。本体と接続しないと動作確認はできない。プログラミングを実行しながら手動で制御する「半自動」方式も可能 |
プログラミング教材としての可能性
DJIの次世代の技術者育成の本気度を感じたRoboMaster S1。プログラミングを学ぶとき、ビジュアル言語をどうやって卒業するのか、基本がわかってもどう応用していくのかという壁があります。ロボット大会RoboMasterを目標にしたり新しいプログラムを考えたりとS1は、理論と実践のバランスが良く、楽しみながら学ぶことができそうです。
あまりに高機能なので一部しか紹介できませんでしたが、どこまで遊び尽くせるのか限界は計り知れないという印象を持ちました。ぜひ最先端の技術を手にとって体験してみてください。