ドローン技術の従来からある課題
ドローンの技術は以前より以下の課題があった。
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- ・航行時間
- ・衝突・落下防止
- ・電波の長距離伝達と安定性
- ・非GPS環境下での自己位置測位と安定
ドローンの航行時間は、基本的に機体の重さとバッテリーのバランスで決まってくる。大きく進歩するものでなく、大抵が20分から50分程度の範囲で推移してきた。これまで、ドローンのバッテリーはリチウム電池が専らで、その調達先としては中国が強い。技術上の課題もあるが、調達に絡む課題のほうが大きくなってきている。その中で、小型の全固体電池が現れてきているが、どれだけコストが下がり、入手しやすくなるかはこれからだ。
衝突・落下防止に関しては、2次元や3次元のLiDARが小型軽量化し、コストも安くなったことから、だいぶ実装しやすくなった。電線などの回避は難しい部分が残っているが、一定の大きさの障害物の回避は可能になってきている。それでも、国産機の中では標準的に実装している機体はまだ多くはないが。
電波の長距離伝達と安定性に関しては、LTEの上空利用ということで期待されたが、ドローンを使う地方においてはLTEが繋がらない地域も多い。また、繋がったとしても不安定であり、現状も長距離伝達に関しては課題が残っている分野の一つだ。
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また、LTEの月の料金もいまだ49,800円と高価なまま変わらない。今後、スターリンクなどの衛星通信のデバイスやアンテナが小型になり、移動体に関しても有効ということになれば活用が広がってくるだろう。
また、意外とドローンの様々な通信とその用途に関してきちんと通信制御を行ってくれるデバイスも不在で、こういった通信制御デバイスも重要なものとなってくるだろう。
非GPS環境下での自己位置測位と安定に関しては、室内空間でのドローン利用の拡がりの中で、その精度や使い勝手が向上してきている。
詳しくは以下のページを参照。
Vol.69 室内空間でのドローン[春原久徳のドローントレンドウォッチング]
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こういった技術をGPS空間と非GPS空間を行き交うような、例えば、橋梁の下といったところで使うケースも増えてきている。(行き交う際に実際の緯度経度と合わせるとき、航行が不安定になるといった不具合もあったが、これもだいぶ解消してきている。)
こういった既存の課題に関しては、だいぶ進んできている部分も多いのではないかと思う。
現状の技術課題の方向性
現状の技術課題の方向性において、重要になってきているのは実証実験から実運用に向けての「安定性」「安全性」といった部分である。また、ウクライナ戦争以降、ドローンのポジションは世界的にも大きく変化したが、その中で技術課題としても上がってきているのは、「耐妨害性」といったポイントだ。
そして、ChatGPTといった生成AIが急速に進んできている中では、AIの活用というのも大きなポイントとなっている。
実運用(安定運用・安全運用)に向けての技術課題の考察の前に、機体の故障・事故の要因分析をしてみたい。
機体の故障・事故の要因は、メーカー要因・ユーザー要因・自然要因・経年変化要因・妨害要因といった5つに分かれる。
そして、各々の内容に関しては、以下の表のような内容になってくる。
メーカー要因 | ユーザー要因 | 自然要因 | 経年変化要因 | 妨害要因 |
---|---|---|---|---|
モーター不良 | 操作ミス | GPSエラー | バッテリー劣化 | GPS妨害 |
バッテリー不良 | 操縦ミス | 通信エラー | モーター劣化 | 通信妨害 |
機体制御ボード不良 | 航路ミス | 風 | 機体歪み | ハッキング |
通信不良 | 扱い管理ミス | 雨 | ネジゆるみ | 撃墜 |
その他不良 | 扱い不注意 | |||
調整不足 | 点検見落とし | |||
機体制御バグ | ||||
GCSバグ |
自動運転の車も同様であるが、こういった自律自動移動ロボットにおいて、現在、事故が起こったときに、その事故の責任は機体メーカー(メーカー要因)、機体所有者(経年変化要因)、運用ユーザー(ユーザー要因、自然要因、妨害要因)といった形に分かれている。(現在、ドローンでリースなどを掛けにくいのは、リース会社は機体所有者として事故の責任を負いにくいといった背景もある。)
現在、運用(安定・安全運用)というステージに入る中で、技術課題として、事故が起きない、少なくとも起きにくい対策が重要になってきているのだ。
現状の技術課題のポイント
機体メーカーに関しては、まずは揚力などに関しても余裕を持った機体を設計し製造することだろう。そして、チューニングも重要だ。時折、国産機などにおいては、モーターのバランスや機体重心、振動の振幅といった部分が悪い機体も多く、出荷の際には、そういった揚力や振動、チューニングの機体ログの値などもユーザーに示すことも重要だろう。
そして、経年変化も含めた機体の故障などの要因を防ぐためには、飛行終了後の機体ログの簡易解析による異常検知(例えば、DOP SUITEなど)や飛行前の機体診断ソフトの提供なども必要だろう。(DJIなどには一部実装されているし、ArdupilotもPreArmチェックで、そういった機能を組み込める仕組みになっている。)
ユーザー要因に関しては、操作ミスや操縦ミスをしても事故にならないような対策(衝突回避などの装置の実装やフェイルセーフなど)が必要だ。
(現状でも損害保険会社は機体の動産保険の事故率の多さに苦慮しているが、今後、こういった対策をしている機体とそうでない機体の様々な差というものが生じる可能性がある。)
また、Ground Control Station(GCS)を始めとした地上局側のアプリケーションも使い勝手がよく、またミスをしにくく、ミスをした場合にはアラートが出るといった形でのソフトウェア実装も必要になってくるだろう。この辺に関しては、ChatGPTといった生成AIを組み込んでいくことも効果が高いだろう。
点検に関しては、先に示した飛行終了後の機体ログの解析、飛行前の機体診断ソフトも非常に効果的であろう。
自然要因についても、雨に関しては機体全体のケーシングや各デバイスのハードウェア対策が必要になってくるが、その他に関しては、フェイルセーフなどの対策の技術が進んできている。強風が長く続く環境では限界もあるが、急な強風に対しての機体制御は、その技術も進んできている。
また、妨害要因とも関連するが、通信やGPSのエラーに関しての対策技術も昨年ぐらいから非常に進んできている。
経年変化要因に関しては、ユーザー要因で示した飛行終了後の機体ログの解析、飛行前の機体診断ソフトが有効だろう。
妨害要因に関しても、自然要因で示した通信やGPSのエラーに関しての対策技術が、妨害にも有効になってくる。ハッキングなどの対策については、今後インターネットにつながるシチュエーションの増加が想定されるため、今までスマートフォンやPCで行ってきたような対策をドローンに実装することが急務になってくるだろう。
電磁波などの電子銃などの対策はいまだに困難な点も多いが、フライトコントローラーなどの電子部品に対して電磁シールドの対策を行うようなものは防衛関連のドローンの対策としては出てきている。
これからの機体選定
ドローンの活用が進み、運用局面を迎えるにあたり、今までの「何がドローンでできるのか」といった目線から安定・安全運用へと、ユーザーの目線は確実に移ってきている。
ユーザーは故障や事故の軽減や使い勝手といった観点からも、より安定的で安全性の高い機体を選定していくことが重要となってくる。
リース会社なども上に示したようなログ解析や診断ソフトにおける機体所有者の責任をクリア(経年変化も含めた異常がない機体)した形で、ユーザーに提供していく道を探っていくことが重要だ。
そして、機体メーカーは、前回このコラムで書いたようなArducopterの最新バージョンのファームウェアなどを参考にしながら、まずは上記に示したような技術が既に実装可能な技術となっていることを理解することが重要だ。
こういった理解を深めるとともに、ユーザーニーズを捉え、必要な機能をきちんと実装していき、より安定性・安全性の高い機体を提供していくことが必須となってくるし、そこが今後の差別化に繋がってくるだろう。