進化する防災ドローン
さまざまな領域への導入が進むドローンについて、早い段階から期待されていた用途のひとつが防災分野での活用だ。上空からカメラやセンサー類で情報収集することによって、被害の全体像を把握する、事件・事故にまきこまれた被害者をいち早く確認する、あるいは「空飛ぶ基地局」として被災地に通信インフラを復活させるなどといった用途が想定され、実用化されてきた。
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たとえば東京都内だけでも、2030年までに、防災関係のドローンサービスの市場は3億円に達すると予測されている。こうした防災ドローンは、被害にあった人々をより早く、より確実に助けるために、さらなる進化を続けている。そうした新たな防災ドローンとして期待されている研究のひとつが、ドイツのフラウンホーファー研究機構によるものだ。
フラウンホーファー研究機構は、さまざまな科学技術の応用研究に特化した研究所で、ドイツ各地に75の研究所や施設を構えている。それぞれの研究所は、化学や電子工学、コンピュータ科学など個々の技術に特化していて、フラウンホーファー研究機構全体としては、年間約28億ユーロ(約3700億円)の研究費が費やされている。
その研究機構を構成する施設のひとつ、通信・情報処理・人間工学研究所(Fraunhofer FKIE)が今年6月、音響学の国際的な学会であるAcoustic Society of Americaでドローンに関する研究成果を発表した。ドローンはいまや「空飛ぶロボット」と称されるほど、高度な情報処理によって制御される機械であるため、通信や情報処理に特化した研究所がドローンを扱うのは不思議ではない。しかしなぜ、音響に関する学会で研究が披露されたのだろうか?
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その答えが、今回の研究が注目されている理由だ。開発されたドローンのデモンストレーション映像が同学会のサイトで公開されているので、確認してみてほしい。
短い映像だが、広場にいる女性が「助けて!」と叫ぶと、上空を飛ぶドローンが女性の方に近づくことが確認できるだろう。このドローン、近くにいる誰かが操縦しているわけではない。女性の悲鳴に反応して、自動的に接近しているのである。つまり被災地を飛行して音声を収集・分析し、いち早く被害者の存在を把握して、救助に向かうドローンというわけだ。
被災者の正確な把握が可能に
デモを見れば一目瞭然なように、この捜索ドローンのコンセプトは非常にシンプルと言えるだろう。しかしあらゆる声や大きな音に反応していては、被害者の有無を判断することはできない。また単に「誰かが助けを求めている」と判断できるだけでは不十分で、その居場所を正確に割り出せなければならない。そこで、救急隊員や災害救助犬を訓練するのと同じように、ドローンにも「訓練」が必要になる。
ドローンが収集する生の音声データには、余計な環境音やドローン自体が生み出す羽音等が含まれているため、まずはそれらのノイズをフィルタリングで除去する。そうして得られたデータから、被害者が助けを求めて出す声や音の有無が判断されるのだが、そこで使用されるのがお馴染みAI(人工知能)だ。
被災した人物は、捜索者に気付いてもらおうと、さまざまな手段で助けを求める。ただ被害者が使うのは声とは限らない。災害に巻き込まれた際に負傷して声が出せなくなり、手を叩く、何かを蹴るといった方法で注意を引こうとする場合もある。そういった声や物音における「人間が助けを呼ぶ際のパターン」をAIに学ばせるため、研究者らは、人間が困難に陥った際に出すと考えられる音声を何種類も記録し、それを訓練用データとして使用した。
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今回のドローンの訓練ではないが、すでにさまざまな形で、音声データから特定の種類(パターン)をAIに抽出させる研究が進められている。たとえば2016年にフランスの研究者らが発表した論文では、AIを実現する手法のひとつであるディープラーニング(深層学習)と地下鉄の車内で採取された訓練用データを使い、同データから悲鳴、叫び声、その他の音声を抽出・分類することに成功している。これからデータが蓄積されれば、さらに精度を上げることが可能になるだろう。
被害者が出したものとおぼしき声や物音が検知された場合、次にその位置が割り出される。ここではCAN(Crow’s Nest Array)と呼ばれるマイクロホンアレイ(複数のマイクを組み合わせて構成される装置で、音源の位置特定や特定音声の抽出といった用途に使われる)が使用されていて、発生源を正確に把握することができるようになっている。ただしいくら高性能でも、ドローンに搭載して利用できなければ意味がないため、この研究では一連のシステムの小型化・軽量化も進められている。
Fraunhofer FKIEの発表によれば、今回のシステムではフィールドテストを含む多くの実験や検証が進められており、良好な結果が得られているそうだ。すでに音声を検知してから、数秒以内に被害者の位置を特定できるレベルに達しており、製品としてのプロトタイプも作成されているという。近い将来、自然災害の現場で活躍したり、あるいは都市部でも、悲鳴や銃声など不審な物音を検知して現場に急行するシステムとして役立てられるかもしれない。