出光興産株式会社が開発する宇宙用CIGS※1太陽電池セル※2が、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(Japan Aerospace Exploration Agency、以下:JAXA)が行う次世代宇宙用太陽電池の軌道上実証「SDX」の暴露部※3に搭載される。SDXは、JAXAが開発する新型宇宙ステーション補給機「HTV-X1」が宇宙空間で行う実証の一つであり、太陽電池の出力を定期的に計測し、宇宙軌道上で正常に動作することを確認するものである。
- Advertisement -
※1 CIGS:Cu(銅)、In(インジウム)、Ga(ガリウム)、Se(セレン)の頭文字からなる化合物半導体。
※2 太陽電池セル:太陽電池の最小単位。
※3 暴露部:宇宙機において、宇宙空間に直接さらされ実証などを行う部分。

JAXAが今秋に打ち上げを予定するHTV-X1は、「こうのとり」(HTV)の技術を継承し発展させた次世代の無人補給船である。HTV-X1は打ち上げ後、国際宇宙ステーション(ISS)への係留・物資の搬入を行い、ISS離脱後は宇宙軌道上にて飛行を行いながら、さまざまな技術実証ミッションを実施する。
この技術実証のうちの一つが、高度300〜400kmでの次世代宇宙用太陽電池の性能を約2か月にわたりモニタリングする「SDX(Space solar cell Demonstration system on HTV-X)」である。宇宙空間は真空であり、放射線や極端な温度差が存在する過酷な環境である。そのような状況下でも、補給機や人工衛星などの宇宙インフラにエネルギーを供給できる高性能な太陽電池の開発が期待されている。
- Advertisement -
同社が開発する宇宙用CIGS太陽電池は、非常に高い放射線耐性を持つ点や、将来的に宇宙産業におけるコストダウンへの寄与が期待できる点から、宇宙用太陽電池の研究の一環としてSDX実証装置への搭載に至った。同社はSDXを通じて、宇宙用CIGS太陽電池セルの宇宙空間における特性および発電の安定性を検証する。
出光興産グループは、1970年代のオイルショックを契機に新規ビジネスの開拓に取り組んできた。30年以上にわたり研究開発を行ってきたCIGS太陽電池もその一つである。2022年からは同社の次世代研究所に研究開発機能を集約し、宇宙用途などの次世代太陽電池の開発・事業化に挑戦している。
長年にわたる研究開発と、累計6GWを超える地上用太陽電池パネルの量産実績を基盤とした同社の革新的な宇宙用CIGS太陽電池は、独自の薄膜技術※4により高い放射線耐性と軽量化を両立し、放射線が降り注ぐ過酷な宇宙環境でも優れた性能を発揮すると見込まれている。さらに、放射線によるダメージを自己修復することができ、性能劣化を最小限に抑えられるため、衛星の安定稼働と長寿命化を実現する。
同社は本検証結果を踏まえ、宇宙用CIGS太陽電池の市場参入に向けた開発を加速し、持続可能な宇宙開発への貢献を目指すという。
※4 薄膜技術:基材の表面にマイクロメートル単位の非常に薄い膜を形成する技術。