大阪・関西万博の会場内でも空飛ぶクルマのデモフライトが行われる中、尼崎ではどのようなテーマをもとに実施されたのか。8月3日のデモフライトの模様を紹介する。
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EH216-Sはボディからアームが8本伸び、その先端の上下にローターを合計16枚取り付けたマルチローター機だ。幅5.7m、高さ1.9mで、100km/hで巡航し、航続可能距離は35km。搭乗定員は2名だが、これは乗客の定員で、パイロットは搭乗しない。あらかじめプログラムされた飛行ルートを自動航行するため、地上から飛行に関するオペレーションを実施する。
デモフライトが行われたのは、尼崎市南部に広がる埋立地・尼崎フェニックス事業用地に設けられた「尼崎フェニックスバーティポート」。30m四方の広さで、天然芝が敷かれ、バーティポートを示す「V」のマークが入っている。EH216-Sが駐機しても周囲の広さには余裕がある。

運航を担当したのは、岡山県倉敷市の一般社団法人MASC。同市水島地域の企業が参加し、航空宇宙産業クラスターを地場に興していくことを目指している。2020年度の空飛ぶクルマの導入、2021年度に実施した空飛ぶクルマ実機による無人実証飛行など、これまで日本初の取り組みを積極的に行ってきた。
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今回のデモフライトは、離陸後最大50mまで上昇し、直径200mほどの円周を描きながら4周して着陸するという飛行計画で行われた。4周にわたる円周飛行は日本初の取り組み。また、現状の法制度上、空飛ぶクルマに一般の人が乗ることはできないが、検査員が各種データを取得するために搭乗することは可能。そこで今回は検査員が乗り込み、心理的不安等の官能検査、緊急時を想定した通信SOP(標準作業手順書)が検証された。

いよいよデモフライト本番。バーティポートに隣接する観覧エリアには、見学に申し込み当選した多くの老若男女が詰めかけた。大阪湾に面するバーティポートには吹き流しが真横になるほどの強風が吹き付けていたが、EH216-Sの飛行に影響はそれほど与えないようで、検査員は意気揚々と機体に乗り込んでいった。

扉が閉められてしばらくするとアームの先端に取り付けられたLEDが点灯。またローターも、一般的な空撮ドローンの電源を付けた際に見せるクックッという挙動を見せ、フライト前のチェックが大詰めを迎えていると予感させる。
準備がすべて済むとEH216-Sは「ブゥーン」という風を切る音とともに離陸、上昇した。当日は風向き的に音が風に乗って観覧エリアに届きやすくなっていたようだが、耳をふさぎたくなるような不快な音量ではなく、隣の人と会話することもできる。
いったん30mまで垂直に上昇したEH216-Sは改めて高度50mに向かい、そこから左回りに円周飛行を始めた。ゆったりと飛行し、機体の揺動なども見られなかった。これまで筆者はEH216-Sだけでなく、SkyDriveが開発する空飛ぶクルマ・SKYDRIVE、Lift Aircraftの1人乗り機体・HEXAのデモフライトを取材したが、いずれも直線移動を中心にしていた。一方で、EH216-Sは非常に滑らかに円周を描いており、その性能の高さが伺い知れた。
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円周飛行を終えたEH216-Sは、自動航行によって位置を違えることなく、離陸地点に着陸。機体を降りた検査員は、感想や今後に向けての展望・課題を語った。
検査員:乗り心地は非常に快適だ。今日は風が強かったが、機体が揺さぶられるようなことはほとんどなかった。振動は感じるが、危険を感じるほどではない。この機体はバッテリー容量をセーブするためエアコンがないので、夏暑く冬寒いのが課題といえる。とはいえ、高度50mからは約3km先にある大阪・関西万博の会場もよく見えたし、実用化の折には遊覧飛行を楽しめるだろう。

MASCでは2028年度の社会実装を目指して、今後も実証を続ける予定だ。今回のデモフライトも、これまでの実績を踏まえて、レベルの高いものになった。数年後には空飛ぶクルマが飛ぶようになる。これが夢物語ではなく、実現可能であると印象付けたデモフライトになった。