前回のコラムで予告した通り、今月は米国のBVLOSの新たなルールを取り上げたい。
米中対立が揺さぶるドローンサプライチェーン[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.92
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FAAがPart108のNotice of Proposed Rulemaking(NPRM)を発表
Part108はBVLOS(目視外飛行)を規定するルールであるが、長い間、このPart108が確定せず、米国のドローン産業においては、BVLOSのルールが進んでいかないことでフラストレーションが溜まっていた。
そのPart108の規則制定通知が2025年8月7日に発表された。
Normalizing Unmanned Aircraft Systems Beyond Visual Line of Sight Operations
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これはドラフト版となるが、PDFで700ページにも及ぶ。ファクトシートとして簡略版も出している。
現在このPart108NPRMは60日間のコメントを受け付けている。FAAにおいては、業界の期待や市場の現実と一致しているかをこのコメントの中で受け付けて、それを反映させた上で2026年には施行されるものと思われる。このPart108は米国のドローン業界においては、待たれていたものであり、ドローン関連のニュースサイトで多く取り上げられている。事実上、2026年のBVLOS解禁にむけて、米国は動き出したものといえよう。
Part108NPRMの要約とPart107との違い
- 目的と全体像
Part108とは、現在 Part107で認められている視界内飛行(VLOS)に代わり、視界外飛行(BVLOS)を標準運用として可能にする新たな枠組み。現行では、BVLOS 飛行はすべて個別の申請許可が必要だが、Part108によって「ルール化された標準手続き」で日常的な運用が可能となる。 - 許可体系:許可と認証
FAAは、用途やリスクに応じて、短期運用の「許可」と長期運用の「認証」という2種類の制度を導入。 - 技術的・運用的要件
飛行高度は地表から400フィート(約122メートル)以下が想定されている。ドローンには照明とRemote IDが義務。複数機の飛行を安全に管理するための第三者サービス「Automated Data Service Providers(ADSP)」の利用が必須。 - 運航体制と責任
Part108では「個人操縦者」ではなく、運航する企業(オペレーター)に責任。新たな責任者として、「Operations Supervisor」と「Flight Coordinator」の役職が導入されます。Flight Coordinator は、直接飛行操作ではなく、指示や監視を行う役割です自動飛行を前提とし、人間の介入は限定的であり、操縦ではなく「指示」のみが認められる構成。 - 安全管理とセキュリティ
Safety Management System(SMS)の導入が必須となり、すべての商用BVLOS運用における安全管理体制の構築が義務づけ。セキュリティ面では、TSAによるバックグラウンドチェック(犯罪歴や身元調査)がオペレーター関係者に求められる。サイトや制御設備への物理的アクセス制限、通信やネットワークのサイバーセキュリティ強化も明記。 - メーカーの責任
従来のようなFAAによる型式証明(airworthiness certification)は不要になり、業界で合意された性能基準(consensus standards)に基づく合理的な基準を使って安全性を確保。飛行速度・気象条件・飛距離などの運航限界は、メーカー自身が設定することとされ、それに沿った運用と整備が必要。メーカーによるトレーニングや整備点検の実施・承認も義務付け。
Part107(VLOS)
| 項目 | Part 107(現行) |
| BVLOS運用 | 原則禁止。BVLOSを行う場合は個別Waiver申請が必要。申請には数ヶ月〜1年以上かかる場合あり。 |
| 運用責任の主体 | パイロット個人が直接の法的責任者。 |
| 役割分担 | パイロット in Command(PIC)が操縦・判断の全責任を負う。 |
| 飛行制限高度 | 地表から400フィート以下。 |
| 安全管理制度 | SMS(Safety Management System)は義務なし(大規模商用やPart135では別途必要)。 |
| 機体認証 | 特定の型式証明は不要だが、飛行内容によってはType Certificationや耐空性承認が必要な場合あり。 |
| 操縦者資格 | Part107リモートパイロット証明が必要。 |
| 許可形態 | Waiver単位で個別許可。 |
| 支援サービス | ほぼ手動運用。外部サービス利用は任意。 |
| セキュリティ要件 | 特に義務化された身元調査なし(運用者判断)。 |
Part108(BVLOS)
| 項目 | Part108(提案) |
| BVLOS運用 | BVLOSが標準運用として許可される枠組みを新設。運用者は条件に沿えば日常的にBVLOS飛行が可能。 |
| 運用責任の主体 | オペレーター(運航組織)が責任主体。組織として安全管理・運用体制を維持する義務。 |
| 役割分担 | 「Operations Supervisor」と「Flight Coordinator」を配置。人は直接操縦せず、自動飛行を監督・指示する体制が基本。 |
| 飛行制限高度 | 原則同じだが、BVLOSでも400フィート制限を維持。 |
| 安全管理制度 | すべての商用BVLOS運用にSMS導入義務。 |
| 機体認証 | 型式証明不要。代わりにメーカーがコンセンサススタンダード(業界合意基準)に基づき性能・安全性を定義し、運用者はその範囲で運用。 |
| 操縦者資格 | 「操縦」という概念から「指示・監督」へシフト。操縦資格よりも組織の認証が重視される。 |
| 許可形態 | 用途や期間に応じて許可(短期)と認証(長期)の2形態。 |
| 支援サービス | ADSP(Automated Data Service Providers)の利用を必須化し、複数機や他事業者との安全な空域共有を可能に。 |
| セキュリティ要件 | TSAによる身元・経歴調査(バックグラウンドチェック)義務化。物理・サイバー両面のセキュリティ要求を明文化。 |
Part108NPRMの詳細とその特徴
まず大きな特徴はPart107の時にあったようなパイロット個人への資格認定制度がないことだ。その代わりに、この枠組みは「企業責任モデル」に焦点を当てており、運用会社にスタッフのトレーニングや任務遂行能力の確保の責任を負わせている。これは大きな変化で、それまでは、たとえ会社を代表して業務を行っている場合でも、すべての責任が個人に課される形になっていた。
また、Part108の対象となる企業には、「許可」または「認証」という 2 つの方法を選択可能で、それぞれに独自の規則と権限がある。許可はリスクの少ない業務に重点が置かれるため、FAA による監視は少なくなる。その対象カテゴリーは、ドローンの訓練、飛行試験、デモンストレーション、荷物の配達、農業用途、航空測量、公益(政府関連機能)、レクリエーションの8つとなっている。
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企業は、自社に適用されるカテゴリーの許可を申請し、許可ごとにそのカテゴリー内の業務に制限される。許可が下りれば、地上の人口密度が低い地域に運航が制限され、同時に運航できるドローンの数も制限されており、具体的には、荷物配送用に100機、農業、測量、公共事業、訓練・デモ用に25機、そしてレクリエーション用に1機のドローンが計画されている。試験運用においては、機体数に制限はありませんが、試験運用は人口密度の非常に低い地域に限定されている。
企業がそれ以上のことをしたい場合、別の枠組み、つまり認証取得済みの運用に移行する必要がある。認証を取得するということは、より複雑な環境でより多くのドローンを運用することになるので、運用のリスクは高くなるとみなされる。したがって、認定を受けた運航者は、FAA によるより厳格かつ頻繁な監視を受けることになる。
証明書は、荷物の配達、農業用途、航空測量、公益(政府関連機能)の4つのカテゴリーで取得できる。
また、Part108のフレームワークでは、ドローンの重量制限を3つのカテゴリー(55ポンド<約25kg>以下、110ポンド<約50kg>以下、1320ポンド<600kg>以下)に引き上げることも提案されている。他の大きな特徴としては、以下の項目となる。
- 「運用監督者」と「フライトコーディネーター」という2つの新しい職務の追加。
1.「運用監督者」はPart108で必須の役職となり、すべてのドローン運用を監督する責任を負う。FAAとの主な連絡窓口となり、組織内の訓練やパイロット資格認定に関する最終決定権を持つ。
2.「フライトコーディネーター」は、各ドローンの飛行を監督する責任を負う。実際には手動飛行は行わない可能性が高いが、ドローンが正常に動作していることを確認する責任を負う。
- 自律自動航行が強く推奨されており、「フライトコーディネーター」は最後の手段としてのみそこにいる。もし、実際、フライトコーディネーターが介入しなければならない場合でも、ルールでは、フライトコーディネーターはドローンを手動で操縦する権限を一切持たず、「高度変更」、「方位変更」、「基地への帰還」といった指示のみを行うことが求められている。
- 自動データサービスプロバイダー(AutoDataServiceProvider)という新しいカテゴリーの企業を設定し、リアルタイムデータを提供することを求めている。ADSPは、空域・天気・リアルタイムの飛行状況や衝突回避などを監視し、また、オペレーターは ADSPとの間でデータをやり取りする必要がある。しかし、このルールは特定のプロバイダーのみを利用しなければならないと義務付けたわけではなく、むしろ、一定の基準を満たす限り、事業者が自らADSPとなることができると明記されている。これにより、自社運営のUTMといったものも進むだろう。
- 人口密度のカテゴリーに関しては、カテゴリーは5つあり、カテゴリー1は人口が最もまばらで、空域の管理が最も少ない地域で、カテゴリー5は最も密集した地域となる。
カテゴリー1:
「10人以上が存在する地点(セル)から1マイル(約1.6km)以上離れた地域」
→ 非常に低人口密度のエリア。カテゴリー2:
「10人以上がいるセルから1マイル以内にあるが、Category3〜5には該当しない地域」
→ やや近くに人がいるが、密集度はまだ低め。カテゴリー3:
「25人以上がいるセルから1マイル以内にあるが、Category4・5には該当しない地域」
→ 中程度の人口密度。カテゴリー4:
「100人以上がいるセルから0.5マイル(約800m)以内にあるが、Category5には該当しない地域」
→ 高めの人口密度。カテゴリー5:
「2,500人以上がいるセルから0.5マイル以内にある地域」
→ 非常に高密度、都市中心部レベルのエリア。許可利用者はカテゴリー3までの地域(郊外や分譲地など)でのみ飛行できる。カテゴリー4または5の空域を飛行したい場合は、許可運航ではなく、認定運航にアップグレードする必要があるだろう。
- セキュリティに関して、このルールでは強化している。通常の安全対策に加え、サイバーセキュリティ(コンピュータ、ネットワーク、通信リンクのロックダウンなど)にも重点を置いている。また、離発着場や準備エリア、制御室への入場に関して、必要な人員のみに制限することを規定し、また、ドローンを操縦する者全員に対して運輸保安局(Transportation Security Administration, TSA)による身元調査を実施し、犯罪歴、移民ステータス、諜報関連のデータベースや監視リストをチェックする規定も盛り込まれている。
- 機体メーカーの責任に関しても、このルールでは、メーカーがドローンの飛行速度、天候条件、飛行時間、飛行距離など、ドローンの飛行限界を自ら決定することを重視しており、これらの制限はすべて、FAAではなくドローンメーカーが決定する。いわば、型式認証・機体認証を必要としていない。そして、運用者はメーカー固有のトレーニングを受ける必要があり、修理はメーカーによって行われ、その承認を受ける必要がある。また、クラスBまたはCの空域を運航するすべてのドローンに、有人航空機との衝突を回避するために光学的またはレーダーベースの手段を備えることを義務付けることを示唆している。
- 複数機の運用に関しては、複数機のドローンを操縦するための基準が確立されるまでは、1対1の運用を求めている。ここに関しては、状況に応じて新たなルールを制定していくということだろう。
日本のレベル3やレベル4に対して
日本はアメリカに先行して、2022年12月にレベル3やレベル4といった環境でのBVLOSのルールを制定し、運用を開始している。米国はこの日本の実績も参考にして新たなPart108のルールを制定したものと思われる。日本においては、2022年12月にルールが制定されたものの、レベル3に関しては、レベル3.5といった形で、そのルールを見直す中で運用が動いてきている部分もあるが、ルールをベースにしたBVLOSの運用が順調に動いているとはいえないだろう。その大きなハザードとなっているのは型式認証・機体認証だ。レベル4での運用として必要な第1種型式認証機は、2年半以上経過したが1機しか認証されていない。
今回のPart108で驚いたのは、型式認証・機体認証を必要としていないところだ。あくまで機体メーカーの安全基準の自己決定とその選択ユーザーの適切な運用といった、いわば自己責任といった形になっている。これはこういった安全に関する技術が進化の途上にある場合、それが適切に採用されていくというある種の競争原理に則ったものだ。これはある意味では、機体メーカーの責任が大きいということでもあり、恐らく安全性の高い機体メーカーの機体の採用率が上がり、それに伴い、機体の保険料率の低下とかにもつながっていくということだろう。果たして、日本でこういった仕組みが採用できるかどうかは不明だが、議論は行っていく必要はあるだろう。(結論としては、米国の動向を見ながら判断しようということになり、その中で3年ぐらい、様々な活用や技術の進化が米国に遅れる形になるようには思うけれど)
また、企業責任モデルに焦点を当てており、様々な「許可」や「認証」を企業に与えているということにある。米でもPart107までは操縦資格にフォーカスが当たっており、日本も型式認証・機体認証とそれに伴う操縦資格が必要とされてきたが、今回のPart108は操縦資格が重要視されていない。Part108では「運用監督者」といった新しい職務が追加され、この職務に重い責任が課せられるが、これもある種の自己責任の強化ということで、実質的に自律自動航行機の安全性に関しての総合的な能力を有した人間を採用もしくは育成していくということになる。しかし、これもBVLOS運用の中ではあまりに当たり前なことで、現在の日本での1等操縦士が必ずしもBVLOSの運用者の要件と結びついていないことを思えば、BVLOSの安定運用にとっても正しい方向性となっていくだろう。
日本においても、これは参考になるし、これも早く議論を開始する必要があるが、これだけ多くの人が一定のコストを払って、操縦資格を取得している状況を鑑みた場合には、この方向性の変更に関しても、かなり難しい部分もあるだろう。
いずれにせよ、米国は来年にはBVLOSが解禁となり、ドローンの活用が本格的に進んでいくことになるだろう。日本も少なくとも公共、警察、消防、防衛といった領域で、まず一定の緩和や変更を実施し、BVLOS運用を推進していく姿勢を打ち出すことが必要になってくるだろう。