中国主導のサプライチェーンとその強さ
これまでのドローン産業では、DJIが圧倒的な製造力と価格競争力、技術力を武器に、世界のドローン市場の7割程度を掌握してきた。そして、完成品だけでなく、ドローンを構成する部品、特にバッテリー、モーター、飛行制御システムといったコア部品の多くが中国内で設計・生産されており、サプライチェーン全体が中国中心に最適化されているのが現状だ。
フライトコントローラー(FC:Flight Controller)
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | 約60〜70%(DJI製品、CUAV、Holybroなど) |
| 構成要素 | MCU(STM32等)、IMU(ジャイロ・加速度)、ESC制御 |
| 代替可能性 | PX4、Ardupilotベースでのオープンソース利用が拡大中。 米国:Auterion、ModalAI(VOXLシリーズ) |
| 課題 | オープンソース系のFCもその多くが中国で製造されている |
バッテリー(LiPo/Li-ion)
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | 約80%以上(Tattu、Grepow、ThunderPowerなど) |
| 構成要素 | 正極材(LCO, NMC)、負極材(グラファイト)、電解液、セパレータ |
| 代替可能性 | 韓国(LG Energy、Samsung SDI)、日本(Panasonic, Murata) 米国:Amprius, Solid Power(次世代高密度電池) |
| 課題 | エネルギー密度と放電性能で中国メーカーが依然優位。非中国製は高価。 |
モーター・ESC(Electronic Speed Controller)
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | 約90%以上(T-Motor、Sunnysky、Hobbywingなど) |
| 代替候補 | 米国:Freefly(ALTA)、KDE Direct(小型カスタム) 日本:Maxon Japan、マブチ(特定用途) |
| 技術的課題 | 高回転・軽量・冷却効率のバランスで中国勢がリード。代替は高価格・中小規模。 |
カメラ・ペイロードセンサー
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | 約70%(DJI Zenmuseシリーズ、SIYIなど) |
| 代替技術 | 米国:FLIR(赤外線)、Sony(イメージセンサー) 欧州:Parrot、Quantum Systems |
| リスク | Gimbalシステムまで含めた完全自社製造は少なく、中国の優位性は強い。また、低価格のLidarの中国依存率が高い。 |
通信モジュール(RCリンク/LTE/5G)
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | RCリンクは約80%(FrSky、FlySky、DJI独自) |
| 代替技術 | 米国:Microhard、uAvionix(C2リンク)、日本:LTE連携(NTT、ソフトバンク、au)ソラコムSIM連携やミリ波活用に注目 |
| 課題 | 低遅延・高信頼性通信を安全保障基準で満たす設計が必要。各国間の規制・帯域の制約も |
ソフトウェア・ファームウェア(オートパイロット、UI)
| 項目 | 内容 |
| 中国依存率 | DJI機のシェアが高かったこともあり 、DJI SDK依存度が高い |
| 代替技術 | オープンソース:PX4、ArduPilot 米国:Skydio(自律飛行特化AI)、Shield AI |
| 展望 | NATO基準やBlue sUAS対応OSをベースに、政府調達向けに拡大中 |
総合マップ(依存率×技術代替可能性)
| 部品カテゴリ | 中国依存率 | 代替可能性 | 備考 |
| フライトコントローラー | 中〜高 | 中 | Auterion・VOXL等の普及進行中 |
| バッテリー | 高 | 低〜中 | 技術的優位性と価格で代替困難 |
| モーター・ESC | 非常に高 | 低 | 国産化のインセンティブ大 |
| カメラ・センサー | 中 | 中〜高 | 特定用途は代替進む |
| 通信機器 | 中 | 中〜高 | 規制対応がカギ |
| ソフトウェア | 中 | 中〜高 | オープンソース普及により前進 |
米国の反発と対抗措置
米国は、このコラムでも何度か記しているように、国家安全保障上の懸念を背景に中国製ドローンの排除に動き始めた。
Vol.53 ドローンのプラットフォームとその戦略[春原久徳のドローントレンドウォッチング]
米連邦政府機関によるDJI製品の使用禁止や、国防権限法(NDAA)に基づく調達制限、さらには米国企業による部品供給の制限など、段階的に圧力が強まっている。
特に、それまで色々な議論のあった国防権限法(NDAA)を2024年12月に議会は可決した。2025年12月に期限を設け、国家安全保障機関が中国製ドローン(DJI)の正式な評価を実施するという重要な要件が含まれてはいるが、6ヶ月以上が経過した現在も、そのプロセスはまだ開始されていないようで、このまま2025年12月の期限までにどの機関も調査に着手せず、調査を完了しない場合、NDAAの条項によりDJIは自動的に禁止される可能性がある。
また、2025年6月6日、ドナルド・トランプ大統領は、無人航空機システム(UAS)に関する2つの重要な大統領令に署名した。これは、商用ドローン業界と国家空域安全保障にとって極めて重要な転換点となっている。「米国のドローン優位性の解放」と「米国の空域主権の回復」という2つの大統領令は、外国製航空機に関する安全保障上の懸念に対処しながら、ドローン運用を拡大するための野心的な枠組みを確立するものだ。
以下、その大統領令。
UNLEASHING AMERICAN DRONE DOMINANCE
RESTORING AMERICAN AIRSPACE SOVEREIGNTY
「米国のドローン優位性の解放」は目視外(BVLOS)運用に重点を置く、いわば、パート108の加速であり、この新たな指令に基づき、運輸長官はFAA長官を通じて、商業目的および公共安全目的での定期的なBVLOS運航を可能にする規則案を30日以内に発行しなければならなく、さらに重要なのは、最終規則は命令署名後240日以内に公表されなければならないことだ。しかし、この30日以内の規則案の発行はまだ出てきておらず、FAA長官の交代など不透明感があるが、これに関しては来月のコラムで再度取り上げたい。
一方で、この大統領令は、中国製のドローン(DJI)やドローンのサプライチェーンにおける中国の影響の軽減も狙っている。
この大統領令の中で、すべての連邦機関に対し、「法律で認められる最大限の範囲で」米国製無人航空機を外国製代替品よりも優先するよう指示している。
また、連邦調達安全保障会議は、先ほどのNDAAで定義されているサプライチェーンにリスクをもたらす企業を特定する対象外国事業体リストを30日以内に公表する必要があり、さらに、商務長官は、米国のドローンサプライチェーンを外国による支配や搾取から守るために、規則制定の提案や調査の実施など、90日以内に措置を講じるよう指示されている。
そして、輸出促進に関してもその強化を打ち出しており、商務長官は、米国製民間無人航空機の同盟国への迅速な輸出を可能にするため、90日以内に輸出管理規則の見直しと改正を指示されている。複数の機関が、融資、保証、市場アクセスの促進を通じて輸出を支援する任務を負っている。
また、いくつかの項目において、より空域安全保障とUAS対策を示している。
強化された検出および識別機能
無許可のドローン飛行を検知、追跡、特定するための包括的な枠組みを確立するもの。この命令は、行政機関に対し、あらゆる権限を行使し、ドローン検知および信号識別のための機器を導入するよう指示している。
主な規定には、法執行機関が60日以内にUASの遠隔識別信号に関連する個人識別情報に自動的にリアルタイムでアクセスできることが含まれ、民間の重要インフラ事業者に対し、検知技術の活用に関するガイダンスの公表を義務付けている。
保護施設に関する規制枠組み
FAAは、固定施設および重要インフラ上空におけるドローン飛行を制限するためのプロセスを定める規則案を速やかに提出するよう指示され、これは、機密性の高い地域付近での無許可ドローン飛行に関する長年の懸念に対処するものとなっている。
この命令は、施設の制限に関する国家安全保障評価を、セクターリスク管理機関および関係連邦省庁と連携して実施することを義務付けている。軍事施設については、国防長官との連携が特に義務付けられている。
ドローン向けの人材研修や能力開発
2026年FIFAワールドカップや2028年夏季オリンピックといった今後の主要イベントの安全確保に特に焦点を当て、強化された対UAS訓練能力の構築に必要な要件を定めている。司法長官と国土安全保障長官は、対UAS対応を統合テロ対策部隊に統合することを検討するよう指示されている。
また、技術革新と製造イニシアチブに関しても、「電動垂直離着陸(eVTOL)プログラム」「人工知能統合」などの強化がうたわれている。
その他、防衛と輸出促進に関しては、国防イノベーションユニット(DUI)のBlue sUASリストを拡張し、すべての適合プラットフォームをリストに加え、毎月の更新を義務付けている。国防総省は、米国製ドローンの調達を優先しつつ、国内調達要件の例外を最小限に抑える必要がある。
この大統領令を受けて、国防総省は、Blue sUASプログラムに抜本的な変更を加えようとしており、これにより軍の小型ドローンの調達と運用方法が一変する可能性がある。2025年7月に発表された国防長官の新たな覚書に概説されているこれらの改革は、部隊の安全を確保しつつ、ドローン調達の迅速化と米国企業の支援を目的としている。
Blue sUASプログラム改革
現在のBlue sUASが進捗の勢いを高めるにつれ、それを主幹するDIUは、Blue sUASプログラム専用の人員と資金を限定的であり、資金とリソース不足が起きてきた。一般調達局(GSA)や州政府などの政府機関がBlue sUASリストをドローン購入の基準として使い始めたことで、状況はさらに悪化しており、この資金とリソース不足が防衛用途だけでなく、全体の政府調達にも影響を及ぼす形となっている。
こういった問題を解決するため新たな管理体制が検討されている。最大の変更点は、プログラムの運営主体で、現在、DIUが全てを管理しているが、2026年1月1日より、国防契約管理局(DCMA)が主要な管理者となり、DIUがサポートを提供する。DCMAはDIUよりも資金と人員が豊富であるため、運用が迅速になる可能性がある。
また、現在の防衛用途に特化したリストを、民生にも適した基本的なセキュリティ要件を満たすリストを加え、2 層制とする。
*Blue UASクリアリスト:基本的なセキュリティ要件を満たす承認済みドローンのより広範なカタログ
*Blue UASセレクトリスト:特定の軍事ニーズを満たす「最高の」ドローン
また、試験に関しても、これまですべてのドローンをDIUで試験していたため、ボトルネックが発生していた。 2025年6月2日、DIUは「公認評価者」と呼ばれる認定第三者企業に対し、ドローンのセキュリティコンプライアンス試験を実施するよう呼びかけた。ドローンメーカーは自社で試験費用を負担することになるが、それにより承認プロセスが大幅に迅速化される効果となる。
承認の迅速化に関しても、新たな規則では、決定期限が厳しく設定されている。認証申請は14日以内に回答を得る必要があり、これは旧制度では数か月かかっていたが、小型ドローンの承認は、90~120日から30日へと短縮されます。
こういった第三者による試験と簡素化されたプロセスにより、数百社の企業が承認を求めると予想され、このことにより、ドローンの選択肢がはるかに増えることになるだろう。
ドローン企業にとっても、参入障壁が低減し、複数の認定試験会社と連携することで、製品の認証をより迅速に取得できるようになる。また、2層制により、より多くの機会が創出される。より厳密な「セレクトリスト」に掲載されない企業でも、より広範な「クリアランスリスト」を通じて顧客にリーチすることができる。そして、国防総省は、米国のドローン企業の生産拡大を支援するために、事前購入契約や直接融資も検討している。
今後、以下のマイルストーンで動いていく予定だ。
2025年8月:国防総省がドローン企業向けの資金調達オプションを提示
2025年9月:軍は実験用ドローン部隊を設立する必要
2025年11月:3つの国立ドローン訓練場の指定
2026年1月:DCMAがブルーリスト管理を引き継ぎ、新しいデジタルプラットフォームを立ち上げる
このBlue sUASプログラムの改革は、プログラム開始以来、軍用ドローン調達における最大の改革となる。成功すれば、部隊が利用できる承認済みドローンの数を劇的に増やすと同時に、米国国内のドローン産業を強化することができる。目標は、2027年末までに「小型UAS領域における優位性」を達成することであり、これは米軍が世界最高峰の小型ドローンを保有し、必要に応じて迅速に利用できることを意味する。
今後の予測:サプライチェーンの戦略的「分散」と「育成」
今後のドローンサプライチェーンは、米中どちらかに依存するのではなく、多元的で柔軟な構造に向かっていくと予想される。先進国ではローカル生産・ローカル運用への回帰が希求されていく一方で、各サプライチェーンの中においては部品単位での戦略的「分散」と「育成」が必要となっている。即時代替が困難なのは、特にモーター系・電池、代替余地があるのは、通信・ソフト・センサー系といえよう。こういった環境を支えるために、国家レベルでの資源確保と技術育成のため、部品単位でのインセンティブ政策が求められる。米国では今回記したように一定の方向性が戦略的に示されているが、日本においても示唆される部分は多いだろう。