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コラム小林啓倫

学校の安全を守る武装ドローンシステム[小林啓倫のドローン最前線] Vol.92

銃乱射事件でのドローン活用

2025年8月18日
小林啓倫のドローン最前線

米国ではいま、学校での銃乱射事件が深刻な社会問題となっている。K-12 School Shooting Databaseのデータによると、2024年の学校での銃乱射事件は330件で、これは2023年の349件に次いで過去2番目に高い件数となっている。また2024年1月時点で発表されたデータでは、2004年と2024年を比較した場合、学校での銃乱射事件による負傷・死亡者数は実に715%増加している。子供を安全に送り出せるはずの学校が、その命を奪いかねない危険な場所になっているわけだ。

この状況に対し、さまざまな技術的対策が検討されているが、そのひとつが「武装ドローン」を活用するというものだ。

これはテキサス州オースティンのスタートアップ企業「Campus Guardian Angel」が開発したもの。同社のウェブサイトによれば、機体はノートパソコンサイズで重量約1キログラム、学校の廊下を時速48〜80キロメートル、屋外では最高時速160キロメートルで飛行することが可能。ペッパーボール(催涙スプレー弾)を発射するための銃を備えており、これを犯人を制圧するそうだ。ドローンは「パニックボタン」を押すだけで起動され、銃撃発生から60秒以内の犯人制圧を目標としており、多くの犠牲者が出る最初の2分間という重要な時間帯に対応する。

Campus Guardian Angel が学校・警察関係者の前で行った「武装ドローン」のデモ

Campus Guardian Angelは2023年12月に元防衛産業起業家ジャスティン・マーストンと退役軍人ビル・キングによって設立された企業で、2022年5月にテキサス州で発生したユバルディ銃撃事件(生徒19人と教師2人が犠牲となっている)後の緊急対応への強い要求を背景に、武装ドローンの概念設計から実装までを手掛けている。遠隔操縦はオースティンにある同社の中央司令センターから24時間体制で行われ、各対応ユニットには元Navy SEALs(米海軍特殊部隊)、SWAT経験者、プロのドローンレーサーを含む11人の専門家チームが配置されている。

この「武装ドローン」システムでは、複数のドローンを段階的に展開するという設計になっている。第1波はストロボとサイレンで犯人の注意を引き、第2波は安全距離からペッパーボールを展開、第3波は時速80〜96キロメートルで標的に直接衝突する。サービス契約した学校には、6機のドローンを収納したボックスが複数配置されるとのこと。

現時点で既に、フロリダ州およびテキサス州の複数の学校において同社のサービスが提供されているそうだ。Angel社ウェブサイトによれば、料金は生徒1人あたり月額4ドルとのこと。ただ報道によれば、初期費用として、ドローン6機が入ったボックス1つにつき1万5000ドルが請求されるとなっている。東京23区内の小学校の平均在校生数は約500人だそうだが、そうした規模の学校1校で1年間運用したとなると、合計で3万9000ドル、日本円で約575万円ということになる。

実用化に向けたハードル

学校の安全を守る武装ドローンシステム[小林啓倫のドローン最前線] Vol.92
ドローンが学校を守る切り札になる?(筆者がWhiskで生成)

ではCampus Guardian Angelの武装ドローン、あるいは同様のサービスは、学校の安全を守るための切り札になれるのだろうか。もちろん実効性があれば、導入する価値はあるわけだが、仮に銃撃犯の撃退に効果的だと証明されても、実用化に向けたハードルは残されている。

まずネックになるのが、前述の費用だ。1校だけで年間数百万円がかかるというのは、やはり簡単に承認できるものではない。フロリダ州タラハシーで同社のサービスを検討中のある教育長は、サービス内容に感銘を受けたものの、導入には年間約100万ドルの費用がかかる点を指摘し、学区がすでに予算難に直面している状況では無理な要求だ述べたと報じられている。

安全面での不安もある。中でも最大の懸念は、ドローンが高速で衝突することによる運動エネルギーだ。仮に1キログラムのドローンが時速80キロで飛行中、誤って生徒に激突した場合、約250ジュールもの運動エネルギーが発生する。ある研究によれば、人間の頭蓋骨の骨折に必要な運動エネルギーは14.1~68.5ジュール、また野球のバットが頭蓋骨を複数骨折させる運動エネルギーは80~100ジールとのこと。つまりバットで頭を思い切り殴ることの倍の衝撃が、ドローンの衝突によって発生し得るわけである。

何らかの問題が発生した場合には、法律に基づく損害賠償が行われることになるはずだが、ドローンを学校内で運用した場合の法的責任に関する問題は、未解決のままとなっている。2018年に施行された米FAAの規制では、ドローンへの「危険な武器」の搭載が禁止されているが、この定義がペッパーボールのような非致死性システムに該当するか明らかになっていない。そもそも学校内のような屋内環境は、FAAが規制する空域の一部ではないため、Angel社のサービスはFAA の管轄下にはならないと指摘されている。Angel社のようなサービスが普及するためには、こうした点をクリアにし、明確な責任のあり方が示される必要があるだろう。

そもそも「銃撃犯にドローンで立ち向かう」という発想自体に異議を唱える専門家もいる。冒頭のK-12 School Shooting Databaseの創設者で、緊急事態管理の専門家であるデビッド・リードマンは、ある動画の中で、「ドローンは防御策よりも多くの新たなリスクと複雑さを生み出す」と指摘。ドローンは学校の安全に対する万能な解決策ではなく、他のセキュリティ対策と組み合わせて使用する必要があると述べている。

とはいえ保護者の立場からすれば、学校の安全を守る取り組みは多ければ多いほど良い、となるだろう。銃撃犯を撃退する性能そのものだけでなく、安全性や法律面での課題といった、周辺の課題が同時に改善されていくことを期待したい。

TAGGED: ドローン, 小林啓倫のドローン最前線
masuko 2025年8月18日
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