液体水素を燃料として搭載した車両でのレース参戦は、世界初の挑戦だという。
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鈴鹿大会欠場から2カ月間のアジャイルな改良
液体水素を燃料として搭載した水素エンジンカローラは、2023年3月18・19日に行われた「第1戦 SUZUKA S耐5時間レース」で、初参戦の予定だったが、3月8日に富士スピードウェイで実施した専有のテスト走行にて、エンジンルームの気体水素配管からの水素漏れによる車両火災が発生し、車両の復旧が間に合わなかったため、出場を断念した。
欠場から約2カ月間、安全最優先の考えのもと、(1)水素配管を高温部から離す (2)水素配管ジョイントに、緩み防止機能と、万が一水素が漏れた際にも水素をキャッチし、検知器に導く機能を兼ね備えたセーフティーカバーを装着するといった、車両火災の原因となった水素配管の設計変更を実施した。
また、2カ月前と比較し、車重を50kg以上軽量化することに成功し、軽量化の結果、2021年5月に水素エンジンカローラが気体水素を燃料として初参戦した際のラップタイムを上回る性能を実現した。
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モータースポーツ活動を通じた、アジャイルな開発・改良を行い、今回、富士24時間レースへの参戦が可能になったという。
液体水素での挑戦
水素エンジンカローラの燃料として使用する液体水素の一部には、HySTRA※のプロジェクトとして、川崎重工業株式会社が建造した液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」で、2022年2月に豪州から輸送した、褐炭由来水素を含む豪州で製造した液化水素を使用する。
※HySTRAは、川崎重工、岩谷産業、電源開発株式会社などから構成される技術研究組合(電源開発株式会社は2023年3月末で脱退)
サーキットで使用する、移動式液化水素ステーションについては、岩谷産業株式会社とトヨタが共同開発した。燃料が液体水素になったことにより、圧縮気体水素をつくるために必要な圧縮機や水素を冷却するプレクーラーなどの設備が不要になるため、設置に必要な面積を、気体水素使用時の4分の1程度までコンパクトにすることができ、ガソリン車と同じようにピットエリア内で燃料が充填できるようになったという。また、充填時に昇圧の必要がないため、複数台連続の充填も可能になる。
また、燃料が気体水素から液体水素に変わることに伴い、車両の燃料供給装置を液体水素向けに変更した。エンジン自体は、気体水素を搭載していた時と同様のものを使用している。
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液体水素に燃料を変更することで体積当たりのエネルギー密度が上がるため、満充填からの航続距離は約2倍、充填時間は、これまでと同じ約1分半を実現。トヨタは年間を通じて、エンジン性能・航続距離・充填時間をさらに改善していきたい考えだ。
一方で、液体水素には、充填や貯蔵の際に-253℃より低い温度に保つ必要があり、低温環境下で機能する燃料ポンプ技術をいかに開発するか、また、タンクから自然に気化していく水素にどう対応するか、車載用液体水素タンクの法規をどのように作り上げていくか、などの課題もあり、引き続き「つくる」「はこぶ」「つかう」それぞれの仲間と連携して、課題の克服に取り組んでいくとしている。
なお、気体水素には、液体水素と比較して、システム構成がシンプルというメリットがあるのだという。気体水素と液体水素には、それぞれ異なるメリットや課題があり、特性を生かした使い方をしていくため、引き続き、気体水素と液体水素の両方の開発に力を入れ、燃料搭載方法の選択肢を広げていく方針だ。
液体水素搭載のメリット | 液体水素搭載の課題 |
---|---|
体積エネルギー密度が高く航続距離が伸びる | -253℃より低い温度を保つ必要がある |
水素ステーションのコンパクト化(ピット内で充填が可能) | タンク内での受熱により気化する水素への対応 |
昇圧の必要がなく、複数台連続の充填が可能 | -253℃の低温環境下で機能する燃料ポンプの技術 |
水素エンジンのさらなる軽量化を目指し大学との共同研究を開始
今回の富士24時間レースでは、多くの仲間からの協力があり、液体水素を燃料として搭載した水素エンジンカローラの走行が実現しました。今後、さらなる「もっといいクルマづくり」を目指し、京都大学、東京大学、早稲田大学の3つの大学と、液体水素システムの軽量化・小型化を目指す技術を、共同研究していくという。
共同研究技術 | 大学 |
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車載液体水素ポンプ用超電導モーター技術 | 京都大学・東京大学・早稲田大学 |
車載液体水素用遠心ポンプ技術 | 早稲田大学 |
カーボンニュートラル社会実現に向け、企業や自治体だけでなく、今後は大学とも連携をしながら、さらなる取り組みを進めていくという。トヨタは、引き続き、「マルチパスウェイ」の考え方を軸に、仲間とともに選択肢を広げる取り組みを進めていくとしている。