先月号では、身内の介護で旅に出られず、机の前で香港・中国・米国のドローンニュースを読み続けた話を書きました。北京で全面的にドローンが飛ばせなくなったこと、北京の店頭からDJIが消えたこと、米国ではFCCの動きでDJI製品の販売停止が続いていること―どれも「世界中の大都市でドローンが警戒される空気」を物語る話でした。
それから1カ月。私は6月の頭に、台湾の台北へ飛びました。雨模様の3日間でしたが、晴れ間が見つけて、自分の手でドローンを飛ばしてきました。今月号は、その現地ルポです。そして帰ってきてから、次に行く人にどうしても伝えておきたいことが、ひとつ見つかりました。
一番確かな情報源は、現地ショップの店員さん
台北でドローン情報を一番早く正確に得るには、ネット記事を漁るより、現地のDJIストアに行って店員さんに聞くのがいちばん速いです。香港でも同じで、規制は週単位で動きます。
私が向かったのは、三創生活園區(Syntrend Creative Park)。台北のガジェット聖地として有名な、光華数位新天地のすぐ隣にある大型のIT専門ショッピングセンターです。その3階に、DJIストア「DJI大疆」が入っています。

店に着いて、まず驚いたのは店内の賑やかさでした。土曜日の昼間、Pocket 4、Osmo Mobile、Neoシリーズを思い思いに試している人で店内は埋まっていました。「世界中の大都市でドローンが警戒される空気」を抱えて台北に来た私から見ると、ここだけは別世界です。むしろ盛り上がっている。

このコントラストが、今回の旅の最初の発見でした。
応対してくれたのは、以前にも言葉を交わしたことのある、英語の堪能な男性スタッフです。私が「北京は飛ばせなくなったし、米国でも売っていない。台北はどう?」と切り出すと、彼はうなずいて、開口一番こう言いました。
「台北は飛ばしにくいよね」
そこから、台北の規制状況をその場で擦り合わせていきました。彼によれば、台北は台湾の中でも突出して厳しいエリアで、台中や高雄はまだ比較的飛ばしやすいとのこと。そして台北市内には、DJIアプリに入っている公式の飛行制限マップだけでは把握しきれない、台湾政府版のもっと厳しいマップが別に存在するそうです。

台北の「二重マップ」―DJI公式と台湾政府版
スタッフから教えてもらったこの台湾政府版マップが、今回の取材で一番大事な発見でした。
まず DJI公式のフライトマップ。DJIのアプリには各国の禁航区が組み込まれ、ジオフェンスもかかります。多くのユーザーは「DJIで赤くなければ飛ばせる」と思っています。私もそうでした。
ところが台北では、別のマップを併用しなければなりません。交通部民用航空局(CAA)が運用する「遙控無人機管理資訊系統」のマップです。
URLはdrone.caa.gov.tw。
このマップは、三層構造で公告された禁止・制限エリアを束ねています。
- (1)民航局公告の禁航区・限航区、空港や飛行場の周辺一定距離
- (2)各県市政府が公益・安全のために公告した禁止/制限区域
- (3)中央が地方政府に提請して公告した禁止/制限区域
つまり、空港まわりだけでなく、市政府がローカルに指定したエリアまで含まれているわけです。DJI公式マップが拾うのは(1)の一部までで、(2)(3)は別レイヤー。DJI公式だけ見て飛ばすと、台北では足りないのです。
ちなみに香港の場合、民航処(CAD)の公告は1枚もので、DJI公式と政府版で大きく食い違うことはありません。台北の「二重マップ前提」は、規制側が「ジオフェンスだけ信じるな」と利用者に念を押している都市、と読めなくもありません。
台北の場合、禁航区・限航区・空港周辺ではドローンを飛ばすこと自体が禁止され、その範囲外でも地表400呎(約122m)を超えてはいけません。法的な根拠は民用航空法 第99條之13、第99條之14。違反した場合の罰金は新台湾ドル30万元~150万元(約140~700万円)です。


紹介された2箇所 ̶ 中央藝文公園と大安森林公園
このマップを2枚並べて見ながら、スタッフは店から徒歩で行ける飛行可能スポットを、私に2箇所教えてくれました。
ひとつは 中央藝文公園(Central Art Park)。三創生活園區から市民大道沿いに歩いてすぐ、華山1914文化創意産業園區のちょうど隣にある細長い公園です。もうひとつは 大安森林公園(Daan Forest Park)。MRT大安森林公園駅に直結する、台北市最大の都心森林公園です。
「両方とも政府版マップで黄色エリア、近場で1時間で帰ってこれるよ」と彼は言いました。
台北の中心部に、緑(自由に飛べる場所)はほとんどありません。だから黄色=地表60m以下なら飛ばせるエリアを狙うことになります。どちらもDJIストアから歩いて行ける近さで、雨の合間を突くには、この近さも大事でした。
| 色 | 区分 | 意味 |
|---|---|---|
| 赤 | 禁航区・限航区・空港等の周辺+県市政府公告の禁止区域 | 飛行禁止 |
| 黄 | 空港周辺で地表60m以上禁止/県市政府の制限区域 | 制限つきで可(60m以下) |
| 緑 | 県市政府が使用を許可する範囲 | 飛行OK |
| 灰 | 国立公園・商港区域 | 別管理の特別区域 |
6月の台北は梅雨入りで、3日間ずっと雨模様。晴れ間がいつ来るか分からない以上、遠出はリスクが高い。結局、三創から徒歩圏で、雨が止んだ瞬間に走り出せる中央藝文公園を選びました。大安森林公園は次回への宿題です。
中央藝文公園で、家族と出会う
三創から徒歩15分ほど、中央藝文公園に着いたのは午後4時半頃でした。
公園は細長く、片側に市民大道、向こうに再開発中の工事区画。人が入れない工事ゾーンの上空なら安全側で考えやすい――地図上ではわからない情報でした。
到着して20分ほど、空を睨んでいました。雨は止んだり降ったりを繰り返していて、その間が10分くらい来るのを待ちます。
少し空が明るくなった瞬間、カバンから機体を取り出しました。今回持ってきたのはDJI Neo 2。
手のひらに乗る、本当に小さなドローンです。重さは151グラム、文庫本より軽い。
さて、どこからどう飛ばそうかと迷っていたときです。先に声をかけてくれたのは、近くにいた奥様のほうでした。
「それは、ドローンですよね?」
そして傍らのお子さんに、「これはドローンっていって、空を飛ぶのよ」と紹介してくれたのです。お子さんは目を丸して、「こんなちっちゃい!」と覗き込んできました。
世界中の大都市で「ドローンを見たら警戒する」のが標準になりつつある時代に、このリアクションだったこと自体が、私の中で大きな出来事でした。Neo 2の小ささと可愛らしさが効いているのは間違いいない。でも、それだけではない、台湾の人たちの空気の柔らかさのようなものを感じました。
せっかくなので、ご家族3人をドローニー(自分撮りモード)で撮らせてもらうことにしました。飛行可能エリアと低高度であることを、もう一度確認します。ただ、このあたりは頭上に木が茂っていました。真上に伸ばすドローニーは諦めて、木の下の高さを保ったまま、水平にすっと引いていく撮り方です。Neo 2をご家族の正面に置き、低い目線のまま後ろへ下がりながら、3人を画角に収めていきます。
撮れた絵をその場で液晶で見せたら、ご両親が同時に「わあ」と声を漏らしました。
「これでこんな綺麗に撮れるんですか?」
いまの小型ドローンの画質は、初めて見る人にとっては想定外の領域に入っています。お父さんが私のスマホ画面を覗き込んで、何度も「すごい、すごい」と繰り返してくれました。
雨はすぐにまた降り出しました。15分くらいの晴れ間でした。でも、その15分で、台北のドローン旅でいちばん大事な体験ができてしまった、というのが正直なところです。
帰国後に開いた、民航法 第99條之12
香港に戻って原稿を書く前に、私は台湾のドローン規制を改めて調べ直しました。現地スタッフから聞いた話だけで終わらせず、一次情報を当てておきたかったのです。
そして、民用航空法 第99條之12 にたどり着きました。これは「外国人篇」と呼ばれている条文で、要約するとこういう趣旨のことが書かれています。
外国人が台北飛行情報区域内で遙控無人機を飛行させる場合、所属国政府が発行したドローンの登録・検査・操作者証明書類を事前に交通部民用航空局(CAA)に提出して認可を受ける必要がある。
つまり、機体の重量を問わず、外国人は事前承認が必要だったのです。台湾居住者であれば250グラム以下は登録不要ですが、外国人にはその例外は適用されません。認可の有効期限は最大6ヶ月。申請はdrone.caa.gov.twの「外國人專區」からメール登録のうえオンラインで行います。書類が英語以外であれば中文翻訳の添付が必要です。
三創のスタッフは、私が日本人だと分かったうえで応対してくれていました。ただ、外国人の申請手続きについては、特に触れられることはありませんでした。これは責められることではありません。台湾居住者なら250グラム以下は登録不要で、その日常の感覚のままだったのだと思います。現場の運用感覚と、条文の文字との間には、しばしばこういうズレがあります。
ここで少し、自分でも答えの出ない問いを置いておきます。現場の運用感覚と条文の文字、どちらが「現地のリアル」なのでしょうか。飛ばせる場所だけショップで聞いて、申請のことは誰からも言われないまま飛ばす――観光客の多くは、たぶんそうしています。一方で、条文は条文として、罰金は罰金として存在します。「現場のほうが本当の運用です」と書くのは、たぶん危うい。両方を併記する以上の答えを、私はまだ持っていません。
連載で「現地で聞いた話」を書くときには、このズレも含めて書べきだと思いました。外国人向けの手続きは、まだ現場にも十分に行き渡っていないようです。次に飛ばしに来る方のためにも、現地で聞いた話と公式の条文を、こうして並べて残しておきます。

次に台湾でドローンを飛ばす日本人へ
そこで、この記事の一番大事な実用情報を、最後にまとめておきます。
次に台湾でドローンを飛ばす日本人がいたら、以下のステップを踏んでください。
- drone.caa.gov.twの「外國人專區」にメールアドレスでアカウント登録
- 日本の航空局のドローン登録情報基盤(DIPS)で機体登録済みであることを確認、登録情報を準備(DIPSの登録証明書はPDFで取得・印刷できます)
- オンラインで申請フォームから書類提出(英語以外の書類は中文翻訳を添付)
- 認可通知をメールで受け取る(有効期限は発行から最大6カ月)
- 飛行当日は、DJI公式マップと drone.caa.gov.twのマップの両方を必ず併用
- 赤(禁止区域)では飛ばさない。黄色エリアは高度制限(地表60m以下)を必ず守る
加えて、現地のDJIショップは訪ねる価値があります。スポット情報は地元に集まりますし、店員さんと話せば街の空気感まで掴めます。ただし、外国人としての登録手続きの要否だけは、店員さん任せにしないでください。ここだけは、条文を自分の目で確認する一手間を、どうか省かないでください。
それでも、台湾は楽しかった
雨ばかりの3日間で、結局飛ばせたのは15分の晴れ間だけでした。それでも、台北のDJI大疆の店内の盛り上がり、中央藝文公園で出会ったご家族のあたたかい好意、Neo 2の小さな機体から撮れた写真の美しさ―どれも、北京や米国の規制ニュースだけを机の前で読んでいては、絶対に届かない手触りでした。
世界中で警戒される時代でも、まだ飛ばせる場所があります。ただし、飛ばす側がきちんと制限を守って、現地への礼儀を尽くしてこそです。その「礼儀」の中には、今回調べて初めて知った外国人の事前申請も入ります。次は晴れ間の長い季節に、申請まできちんと済ませてから、大安森林公園へ。手続きを踏んだうえで、それでもまた、あの公園の家族と過ごしたような15分が訪れますように。
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