Vol.61 ウクライナ戦争以降のドローン環境の変化[春原久徳のドローントレンドウォッチング]
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ウクライナ戦争を通じて、ドローンが現代の戦争において、その戦略として組み込むことの効果性への評価が確実的な形で高まることとなった。多くの国においてドローンの採用意欲が高まっているが、日本の防衛省も同様だ。
日本の防衛におけるドローンのポジショニング
日本においては、防衛省は2016年ぐらいより、無人機の研究開発ビジョンを示していたが、「おおむね15~20年後までに我が国の主要な防衛整備品となり得るもの」ということで、あくまでもコンセプトやビジョンの提示ということであった。
第1分類 (携帯型・ドローン) |
>携帯可能な機体規模の航空無人機であり、多くの場合目視可能な近距離の範囲で運用され、昨今一般的にドローンと呼称されているもの |
第2分類 (近距離見通し内運用型) |
中継を設けず遠隔制御拠点との通信が可能な見通し内で運用されるもの。発進もしくは回収するために機材を用いることが多い。スキャンイーグル(米)、無人機研究システム、FFOS等が該当 |
第3分類 (遠距離見通し外運用型) |
遠隔制御拠点との通信に衛星通信などを利用し、比較的行動範囲の広い見通し外で運用されるもの。滑走路等から離着陸し、主として長時間滞空し、情報収集、警戒監視、偵察任務を行う。グローバルホーク(米)、プレデター(RQ-1)(米)、ファイアスカウト(米)、ヘロン(以)等が該当 |
第4分類 (戦闘型) |
ウェポンやセンサを搭載し、戦闘機等の有人機と連携するものを含め戦闘行動やその支援を担う戦闘型のもの。機体は第2分類もしくは第3分類で開発されたものの流用が見られる。リーパー(MQ-9)(米)、X-47B(米)等が該当 |
第5分類 (特殊飛行方式) |
航空機の一般的な推進・浮揚方式とは異なる飛行方式を採用し、週から月単位の長期滞空を目指しているもの。大型飛行船、ソーラープレーン等が該当 |
令和4年度(ウクライナ侵攻以前)の防衛力強化の予算概要においても、滞空型UAVの試験的運用(47億円)などを中心に試験や研究という形で70億円以上の予算が割り当てられていた。
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ただ、それも以下にあるような海上自衛隊におけるものとなっており、明らかに実用という範疇からはまだ遠いものだった。
- 滞空型UAVの試験的運用(47億円)
海上自衛隊における各種任務への適合性、有人機等との連携要領及び省人化/省力化に寄与する導入のあり方を検証するため試験的運用を実施 - 艦載型UAV(小型)に関する研究(性能試験)(6億円)
艦上運用可能なUAVの、海自艦艇に対する艦載適合性及び操作性を確認するため、民間企業が用意した器材を用いて性能試験を実施
その他、令和4年度は災害用ドローンの整備として、情報収集用の民生用小型ドローンが各部隊に整備された(これはParrot ANAFIだという)。
これからのドローンの防衛ポジショニングの変化
ウクライナ戦争以降、ドローンはこれまでのポジショニングから大きく変化し、スタンド・オフ防衛(約5兆円<5年間>)、統合防空ミサイル防衛(約3兆円<5年間>)に続く、3番目の柱として、無人アセット防衛(約1兆円<5年間>)に位置付けられた(無人の自律関連技術は、スタンド・オフ防衛や統合防空ミサイル防衛にも応用される形となる)。
示された無人アセットは空だけでなく、陸や海上・海中を含んだものになっているのは、現状の民間におけるドローン技術(自律移動技術)の拡がりと同様な形となっている。
この無人アセット防衛に関しては、令和5年度だけでも、1800億円を超える予算要求がされている。
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それは、滞空型無人機(グローバルホークなど)の維持・整備(192億円)なども含むものとなっている。無人機といってもバリエーションの幅が広くなっているが、以下の項目は、民生用無人機の応用での検証や配備が可能なエリアであろう。
- 偵察用UAV(中域用)(能力向上)の運用実証(37億円)
衛星通信に対応した機体により、侵攻部隊等の情報を遠距離から早期に探知し、指揮官の状況判断及び火力発揮等への寄与が可能となる偵察用UAVを取得し、運用実証を行う。 - UAV(狭域用)の取得(5式:6億円)
空中からの情報収集による指揮官の状況判断及び火力発揮等への寄与が可能となるUAV(狭域用)を取得 - 対地偵察・警戒・監視用UGV/UAVの運用実証(81億円)
駐屯地・重要防護施設等の警戒・監視及び不審者等への対処に際して、継続的かつ重層的な監視網を構成することが可能な偵察用UGV・UAVを取得し、運用実証を行う。
※UGV:Unmanned Ground Vehicle - 小型UGVに関する研究(60億円)
地上等の情報資料の収集を行い情報を共有するとともに、小部隊に追随し各種支援が可能なUGVを取得し、運用実証を行う。 - 海洋観測用UUVの整備(18億円)
海上自衛隊の海洋観測能力強化に資する海洋観測用UUVを導入し、装備化に向けた性能試験等を行う。
※UUV:Unmanned Underwater Vehicle - 無人機雷排除システムの整備(45億円)
「もがみ」型護衛艦(FFM)に対機雷戦機能を付与するため、機雷の敷設された危険な海域に進入することなく、機雷を処理することを可能とする無人機雷排除システムのうち、水上無人機(USV)を整備。
※USV:Unmanned Surface Vehicle
また、アンチドローンやカウンタードローンといった小型無人機への対処に関しても、民間企業における技術を生かすことが出来る分野となるだろう。
- 高出力マイクロ波(HPM)照射装置の取得等(26億円)
HPMを照射してドローン等を無力化する技術の研究を実施し、HPM照射装置を取得。
※ HPM: High Power Microwave(高出力マイクロ波) - 車両搭載型レーザーの取得等(110億円)
高出力レーザーによりドローンも含む経空脅威を迎撃する技術の研究を実施し、車両搭載型レーザーを取得。
ドローンビジネスへの影響
日本の防衛省の動きを挙げたが、世界各国で同様な動きが起こっており、特に短中距離偵察といった領域においては、民間と軍事のデュアルユースが目立つものとなっている。
また、ドローン機体の中心であるマルチコプターだけでなく、今後、シングルローターや固定翼、VTOLといった領域、また、無人アセットとしては、陸上の自律車や水上の自律ボート、水中の潜水艇やROVといった領域に至るまで、すべての領域において、軍事関連での今後の開発や導入に合わせて、同時に民間利用においても大きな影響を伴うものになっていくと考えられる。ドローン産業においては、その予算規模も大きくなっており、産業全体における影響も非常に大きなものになっていくだろう。