空飛ぶクルマは2025年、大阪・関西万博をはじめ各地でデモ飛行が行われ、実装化へ向けたメーカーや運航側の取り組みはこれまでと同じように話題となった。しかし、受け入れたり支援したりする側のニュースは少なかったように思う。特に日本の空港は、都市部から離れている場合が多く、空飛ぶクルマによりアクセスの向上が期待されるにもかかわらずだ。そこで、折しも第3滑走路の建設などで一層ビッグに生まれ変わる成田国際空港を例に挙げて、空飛ぶクルマと空港を「結び付ける」際の課題を考えてみた。
旅客機との「親和性」は
年は令和8年に改まった2026年1月31日と2日1日、成田空港でスカイドライブのSD-03の実物大模型が飾られた。行ったのは千葉県経済の隆盛へ成田空港の活用を考える成田空港活用協議会。成田空港は、東京都心から60kmほど離れている。空飛ぶクルマが飛び始めた際に、この距離を問題なく飛べるか。カタログデータでない航続距離は、まだ裏付けられていない。とはいえ、旅客機でも後のベストセラー機になった機種でデビュー当初は期待した距離を飛べなかったものもあった。それを思えばここはさほど気にするほどのことはない。それよりも、展示は成田空港と都心のアクセス改善へ空飛ぶクルマに期待をかけていることを示していたのは間違いない。
空港と都市部のアクセスに空飛ぶクルマをどう活用させるか。関係者は知恵を絞っている。これも間違いないが、具体的な策はまだ表面化していないように思われる。バーティポートや充電施設を空港のどの場所に置き、どのように旅客機への導線を引くべきか。素人目にもさぞ頭をひねると想像できる。そして、最も気にかかるのがすべての運航に於いて安全確保なのは間違いない。発着する航空機と如何に干渉しないで離着陸させるか。大きな旅客機と小さな空飛ぶクルマは「親和性」が高いか、それとも相容れないのか。疑問は空港の規模が大きくなるほど顕著になる。それが、日本有数の国際空港である成田空港を考える場に選んだ理由だ。
![空飛ぶクルマの空港での受け入れは……成田国際空港を「上から見たら」バーティポートや発着ルート、そして航空機が飛ぶための「必要悪」をどう避ける[相良静造のUnmanned World] Vol.06](https://drone.jp/wp-content/uploads/20260210_sagara_eyyfznk8.jpg)
理由をもう一つ。ずいぶん昔に聞き、いささか煙に巻かれた感も残る、成田空港の建設に絡む話に倣ってみたかったからだ。成田空港はかつて大きな建設反対運動に見舞われ1978年にようやく開港したが、平行滑走路がオープンしたのはそれから更に24年後だった。その平行滑走路も限られた土地に変則的な長さで登場した。どうしてそんな“裏技”を思いついたのか。尋ねたある関係者の答えは「日々、空港の平面図を見続け、『これならできる』と、ある日ひらめいた」だった。果たして、そんなシンプルな話か。もう確かめようはない。ただ、当時「なるほど」と頷いた記憶もある。そこで素人考えは承知のうえで、インターネットで散見される俯瞰図を用いる、安直な姿勢ながらしばし眺めてみた。
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旅客ビルへどう近づく
ほどなく思いついたのは「空飛ぶクルマの発着ルートはどう設ける」だ。発着ルートは当然、バーティポートの設置場所と、旅客機への搭乗・降機の導線とつながっている。特に成田空港のように大きな空港は、導線と同じく効率的な発着ルートを設けなければ、短時間で都心と結ぶ空飛ぶクルマのメリットが損じられてしまう。しかし、航空機だってできる限り効率的に、そして、安全を確保して飛ばなければならない。
航空機が安全に運航するために用いられる発着経路は、航空会社が乗り入れる空港は「標準」で設けられている。航空機は管制官の指示に従ってこの経路に入って着陸し、経路に従って上昇し航空路へ向かう。そして、空飛ぶクルマのバーティポートは旅客機への搭乗が簡潔できる旅客ビル屋上か近傍が望ましいのも間違いない。
これを成田空港に当てはめると、旅客ビルは主滑走路と平行滑走路に挟まれ、両滑走路のそれぞれ両端に航空機用の出発到着経路が目に見えない「道路」として引かれている。あたかも高速道路のインターチェンジと同じ、これらの経路に近づかないように、どう空飛ぶクルマの発着ルートを引くか。空中衝突を避けるのみならず、たとえ離れていても目に見えない危険が潜んでいるからだ。航空関係者なら、すぐに思い当たる「やっかいもの」あるいは「必要悪」。後方乱気流だ。
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滑走路に挟まれた特有の事情
航空機は飛んでいる限り翼の両端から空気の渦を引いている。渦を無くすことはできず、航空機が大きくなればなるほど巨大かつ強力になる。数分間は残り、航空機から離れるに従い垂れ下がるように高度を下げる。想像したくないものの、エアバスA380のような巨人機の後方乱気流に誤って小さな空飛ぶクルマが入ってしまったら……たちまちバランスを崩して地表にたたきつけられてしまうだろう。過去には航空機同士で墜落事故も起きている。
それゆえに、航空機の標準経路と十分な間隔を空けて、空飛ぶクルマの発着ルートを設けなければならない。しかし、場合によっては飛行時間を短縮する理想的な発着ルートとかけ離れて設けなければならないかもしれず、それは飛行時間短縮を阻み、都心とを結ぶ速度のメリットは活かせなくなる恐れもある。
これが便数の少ない地方空港なら滑走路は1本のため、バーティポートへの発着ルートは滑走路と反対側に設ければよい。平行滑走路があったとしても、福岡空港や那覇空港のように旅客ビルの前に2本ともあれば、1本の滑走路の場合と違わない。しかし、成田空港は旅客ビルが現在も滑走路に挟まれてある。これは羽田空港や関西空港も同じだろうし、成田空港の3本目の滑走路は南東にやや離れてできるとなれば発着ルートの設置はなおさら気になってしまう。
気象の把握、落下物対策も大切
合わせて気象の把握や落下物対策も気にかけねばならないだろう。成田空港は霧の発生をよく聞く。所在する北総台地を吹く春の強風も食わせものかもしれない。空港周辺の特に地表面近くの気象変化をより深く把握するのは、定時運航の確保へ欠かせないのは間違いない。
落下物については大阪・関西万博でも機体の破損により発生し、その機体は展示飛行を一時見合わせた。ただし、成田空港は開港以来、着陸機は陸地に入る前の太平洋上で脚下げを行い機体の振動による落下物の発生を防いでいる。落下物防止への取り組みについて、成田国際空港株式会社は「洋上での脚下げや機体の点検、飛行ルートの公開等を継続して行っている。機体の点検は、国土交通省航空局の職員と一緒に2人以上の態勢で1日に10機程度を目安に、毎月最大8日程度実施している」としている。これなら、空飛ぶクルマの落下物防止に対しても、知見の応用へ時間はかからないだろう。
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千葉県と一層のタッグを
何かにつけて気にかかることはあるものの、朗報もある。地元自治体である千葉県との協力態勢だ。空飛ぶクルマの実装へは全国の他の自治体でも取り組みが進み、東京都は2025年10月、2027年までを期間とする1期のプロジェクトの実施事業者に、2コンソーシアムを採択。都内の臨海部や多摩川上空の飛行を念頭に、2027年度に一部商用運航の開始を目指すとしている。
成田空港での空飛ぶクルマの活用を望むなら、今後は一層千葉県とのコラボレーションも重要になるだろう。それを思えば、成田空港でのSD-03の展示は協調を示していたともいえる。協議会は千葉県の経済関係者が名を連ねるが、千葉県知事も特別顧問であるからだ。その千葉県は、成田空港の機能強化について2025年6月に、新しい成田空港の構想について公募を踏まえて「成田空港第2の開港プロジェクト」と名称を決定している。発着ルートの柔軟な設定などには千葉県の側面支援も欠かせないのかもしれない。
近年は地方空港にも国際線は乗り入れるようになり、成田空港を「日本の表玄関」と呼ぶことは少なくなった。しかし、羽田空港と共に目指す年間計100万回の発着枠を折半で受け持つ将来は変わっていない。それもあり成田空港には他の空港をリードした取り組みが期待される。成田空港をはじめとした各地の空港での取り組みようが明らかになった時こそ、空飛ぶクルマの実装へ流れが更に進んだ証となろう。
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