2024年6月5日、エアロセンスの「エアロボウイング」が垂直離着陸型固定翼(VTOL)機としては国内で初めて第二種型式認証を取得した。当日はちょうど、Japan Drone 2024展の初日。第二種型式認証VTOL型ドローン「AS-VT01K」の展示を見ながら、機体の特徴、型式認証取得の意義や苦労したこと、エアロセンスのこれからの展望について、代表取締役社長の佐部浩太郎氏にインタビューした。
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VTOL型ドローン「エアロボウイング」とは
―最初に、「エアロボウイング」について教えてください。
佐部氏:エアロボウイングは、国産機としては初の垂直着離着陸型固定翼(VTOL型)ドローンで、2020年に発売しました。NVIDIAの組み込みスーパーコンピュータ「Jetson TX2」と、当社製のフライトコントローラを同一基板で統合して、自動飛行を制御しています。
固定翼モードで最長50kmの飛行が可能で、約300ヘクタールを1フライトでサーベイできます。また、最高速度100km/hの高速飛行が可能です。最初は測量での利用が多かったのですが、他にもさまざまな用途を期待されるようになり、ペイロードの種類も増えてきました。
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―NETIS(新技術情報提供システム)登録や、インフラメンテナンス大賞での受賞でも注目を集めています。
佐部氏:はい。2023年7月に国土交通省の新技術情報提供システム「NETIS」に登録されました。回転翼モードで滑走路不要の離着陸ができ、固定翼モードでは長距離飛行が可能であるため、道路、河川、ダム、砂防、海岸、港湾など幅広い公共工事の現場において、点検調査員による目視確認の代替として活用できる技術として公表されています(登録番号:KT-230103-A)。
2024年1月には、国土交通省主催の第7回インフラメンテナンス大賞で、優秀賞を受賞しました。福島県にある砂防堰堤の点検で、LTE通信を用いてエアロボウイングを飛行することで、徒歩では数日かかる点検が約10分で完了したという実証事例を評価いただきました。
第二種型式認証VTOL型ドローン「AS-VT01K」の特徴
―そんなエアロボウイングが、第二種型式認証を取得しました。
佐部氏:2024年6月5日に、垂直離着陸型固定翼(VTOL)ドローン「新型エアロボウイング(AS-VT01K)」は第二種型式認証を取得し、同日より予約を開始しています。ペイロードにもよりますが、価格は従来機種と同等程度を目指しています。
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今後は、第一種の取得を目指しており、既にプロジェクトも開始していますが、今回はまず二種でできることをしっかりビジネス化していくという、ひとつのマイルストーンを達成できたことを嬉しく思います。
―第二種型式認証VTOL型ドローン「AS-VT01K」の特徴を教えてください。
佐部氏:国内で初めてのVTOL型ドローンの型式認証で、正確にはパワードリフト型と言います。固定翼の機能とマルチコプター(回転翼)の機能を両方持っていて、垂直に離着陸できるタイプの機体としては初めての形式認証になります。
第二種型式認証を受けたドローンは、二等無人航空機操縦士の有資格者が運用することで、立入管理措置を講じた上で一部の特定飛行を行う際の許可・承認が不要になるため、エアロボウイングのさらなる活用が進むと見込んでいます。
―従来機種との性能の違いは?
佐部氏:実は、型式認証を取る前の機体と外観は全く一緒です。また飛行テストでは、一部の項目において我々の過去の実績を用いて適応基準を満たしていることを証明しています。これは、これまでやってきたことの安全性、信頼性が、型式認証を取得することで、追認されたということを示しています。
ハードウェアについては1点だけ、カメラの性能を向上させました。従来機種と比べて視野角がより広角で、解像度の高い映像を撮れるようにしました。目視外飛行の要件として、「周囲の安全確認をしながら運航する」という項目があり、従来のカメラ性能でも基準は満たしていたのですが、オペレーターさんの立場に立って、より見やすいほうがよいだろうということで、自主的に改善しました。
ソフトウェアについては、少しずつさまざまな機能を改善しています。分かりやすい変更点はUI(ユーザーインターフェース)です。飛行前点検などのルーティン業務をやりやすくする、オペレーターが万が一、ボタン操作を誤った時でも作動しないようにするなど、ユーザーエクスペリエンスの向上を図っています。
―従来機種対応のペイロードは引き続き使用できるのですか?
佐部氏:はい、もちろんです。ペイロードについては、これまでさまざまな用途を開拓して、可視光カメラ、カメラジンバル、赤外線カメラ、マルチスペクトルカメラと、選べる機器を拡充させてきました。新型エアロボウイングでも、機体下部のハッチピットを開いて、同じものを搭載することが可能です。
「機体認証」に対する顧客要望と、第二種取得の意義
―既に販売した顧客も多数いらっしゃいますが、第二種型式認証の取得にあたっては、顧客からも「二種の機体が欲しい」といった要望があったのでしょうか?
佐部氏:そうですね。例えば、我々がエアロボウイングを使って点検や調査などの役務を提供したあと、いざ購入して導入しようという段階になると、「第二種は取れていますか?」「無人地帯補助者なしで運用できますか?」と問われるのが実態です。社会実装を進めるうえでは、型式認証は必須だと感じていました。
―顧客のその質問の裏側にあるのは、どのような想いなのでしょうか?
佐部氏:測量や点検など公共性の高い案件においては、国産の機体が歓迎される流れがありますし、公募要件としてはまだ明記されていませんが、準備しておかなければという危機感を持っていらっしゃるようです。
―第二種型式認証取得によって、これから特に広がる用途は。
佐部氏:やはり砂防堰堤の点検や、河川の巡視、密漁の監視など、人が立ち入ることができないところ、範囲が広くて大変なところから、動画で全体を把握する、静止画からオルソ画像や点群を作成するといった目的で、エアロボウイングの導入が進んでいくと思います。
レベル3.5が創設されたことも大きいです。例えば、山奥の河川の巡視をするのに、「補助者を置かないと橋を超えちゃだめって、現場の感覚としてはそんなわけないよね」という感じでしたから、グレーなところを少し白に塗り替えられたことも後押しになると感じています。
―第一種取得も目指すなかで、今回の第二種取得はどういった意義がありますか?
佐部氏:VTOL型ドローンの型式認証は審査機関も初めての事例なので、しっかりと協議できたことは、第一種取得を目指すうえで、とてもよかったです。当社は、経済安全保障重要技術育成プログラム(K Program)に採択されて、ペイロード10kg級の大型VTOLの開発にも取り組んでいますが、この取り組みの中でも将来的には第一種型式認証を目指しているので、今回第二種と同時並行で第一種を見据えた議論ができたことは、大変有意義でした。
―ちなみに、エンジン搭載の予定は。
佐部氏:調査はしていますが、どの時点でどの技術を導入するかは悩ましいですね。エンジンに対してモーターの方が圧倒的に軽量なので、小型機種の領域では帳消しですし、それなら大型機種でとなると、今度はモーターも大型化して、燃料の重さとの比較になってきます。
VTOLの第二種型式認証での苦労と、運用面での今後の課題
―申請受理から取得まで、約半年かかりました。苦労した点は?
佐部氏:申請受理されたのは、昨年11月でした。今年3月くらいを目指していましたが、やはり固定翼ということで、これまでのマルチコプターとは違う方法で証明しないといけないこともありましたから、予定よりは結構かかりましたね。
あとは、固定翼とマルチコプターの両方の機能について、例えば、最高速度の飛行試験、標高の高い場所での飛行試験をそれぞれテストしないといけないということで、2倍の労力がかかることもありました。他社さんと同様、申請書の作成、修正、そしてまた次の試験、と手続きの繰り返しも大変でしたね。
―安全対策という点ではどうでしょうか。
佐部氏:基本的に、離陸から着陸まで全自動で、あらかじめ立てた計画通りに、プランから逸脱しないように運用できる機体、という型式認証を取得しています。ですか、万が一飛行中にモーターなどの機器に故障が生じたり、GPSや通信の途絶といった不具合が起きたりしても、ホバリングしたのちその場に下ろせるなど、何かしらの手段を講じなくてはなりません。
このためエアロボウイングは、基本的には全自動、緊急時にはまず回転翼モードに切り替えて、マルチコプターとして対応いただくという形になっています。ですから、「固定翼の操縦」を飛行規程に一切入れないで、第二種を取得しています。
もちろん、絶対にそのような事態にはならないという自信を持って開発していますし、当社のこれまでの運用においても「固定翼の操縦」が必要になるという場面はありませんでした。我々自身が何年もエアロボウイングを運用してきて、固定翼の手動操縦は必要ないということを証明してきた実績があったからこそ、型式認証を取得できたのだと自負しています。
しかし、第二種で無人地帯だから実現できたという側面もあります。第一種になると、このようなあらゆる故障も許されないので、本当の苦労はこれからという気がしています。
―実際の運用面での課題は、二等無人航空機操縦士の有資格者であれば、マルチコプターと同じように運用できるのでしょうか。
佐部氏:二等の教本には、VTOLの運用にはマルチコプターと飛行機の両方の技能証明が必要であるという旨の言及があります。今回、型式証明のほうは「固定翼の手動操縦はしない」という前提で取得しているので、技能証明のほうも「飛行機の操縦技能は不要」として、制度をそろえていただけると、VTOL普及の後押しになるのではないでしょうか。この辺りは航空局と相談しながら明確になってくるかと思います。
エアロセンス、今後の国内外での展望について
―最後に、エアロセンスのこれからの展望について教えてください。
佐部氏:VTOL型ドローンは世界規模で増えていくと言われていますが、日本国内では海外と比べるとまだVTOLの認知度は低いので、今後も市場創造を目指して啓蒙活動を続けていく必要があると考えています。
そのためには、我々がエアロボウイングを使い役務を提供するだけではなく、昨年業務提携したNTTイードローンさんにオペレーションを担っていただくなど、先方は講習機関でもあるので、VTOLの普及に向けて引き続き協力できればと思っています。
―VTOLの普及は重要ですね。また、第二種の機体を使ったビジネス化、K Programでの大型化や第一種型式認証というお話も詳しく伺いましたが、他方ソフトウェア開発についてはいかがでしょうか。
佐部氏:機体と操作デバイスをセットで提供しているGCS(Ground Control System)については、今後も引き続き細部に渡り改善していきます。また、クラウドのデータ解析にも取り組んでいます。今後は、国土交通省のSBIR事業で、注力していきます。
実は、最近ではお客さんに撮影データを納品すると、「これ全部見るの?」って言われるんですよ。「自動で異常だけレポートしてくれるシステムまで組み込んで欲しい」と。「これまで人が歩いて見ていた苦労と比べるとだいぶ楽に、安全になった」というフェーズは終わり、「デジタル化されているのだから、自動でレポートしてほしい」と、すでにそこまで求められています。「異常があるときだけ行けばいい」という世界になってこそ、本当の省人化ですよね。
そこで、2024年1月に、当社とKDDIスマートドローン、首都高速道路と共同で、国土交通省の中小企業イノベーション創出推進事業に提案し、採択されました。首都高はすでに道路管理システムをお持ちで、ドローンの活用についてもノウハウや実績があります。3社で高速道路の自動点検ソリューションを開発して、将来的には一般道路やほかのインフラへの横展開を目指す予定です。
―海外展開についてはいかがでしょうか。
佐部氏:ここまでお話したとおり国内は少しずつですが、着実に実装が進んでいます。一方で、メーカーとして勝ち抜いていくためには、海外市場への進出も重要視しています。コロナ禍後は、マレーシアでの実証実験や日系企業との協業なども再開していますし、ODAなどの枠組みも活用しながら日本の技術を使ってもらうという方法も取り入れながら、戦略的に進めていきたいと思います。