本試験では、家畜ふん尿から製造した液化バイオメタン(以下LBM)を燃料として使用し、十分な性能を有していることも確認した。バイオメタンによる燃焼試験実施を発表しているのは、欧州宇宙機関(ESA)が開発しているロケットエンジンに続き世界2例目、民間ロケット会社としては初めてとなるという。
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撮って出し映像公開
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液化バイオメタンを使ったIST初の燃焼試験、30秒動画でお楽しみくださいpic.twitter.com/SmIXlfz0jZ
— インターステラテクノロジズ/Interstellar Technologies (@natsuroke) December 7, 2023
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高い燃焼効率と低コスト化を両立した燃焼器
ZEROの燃焼器はすべて自社設計で、SpaceX社(米国)のエンジンでも使われているピントル型インジェクタを採用している。ピントル型は一般的に十分な性能が出にくいと言わるが、東京大学との共同研究および「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(以下J-SPARC)」の共創活動などを通じて、設計上の工夫でそのデメリットを克服、高い燃焼効率を達成した。これにより部品点数を従来型エンジンの数十分の1に削減し、全体の製造コストの半分を占めると言われるロケットエンジンを抜本的に低コスト化しています。
今回の燃焼器は60kN級のサブスケールモデルでの試験となり、この設計から製造、試験の過程で得られた知見を基に130kN級の実機モデルの開発・製造に進むとしている。
試験名称 | 燃焼器単体試験 |
試験目的 | 燃焼器の性能および耐久性の確認 |
期 間 | 2023年11月28日から2024年1月末まで(予定) |
場 所 | 北海道スペースポート「Launch Complex-0」 |
燃焼時間 | 10秒 |
エンジン名称は「COSMOS」、ガスジェネレータサイクルと再生冷却方式を初採用
ZEROは推進剤として燃料にLBM、酸化剤に液体酸素を使用する液体ロケットだ。ZEROのエンジンは「ガスジェネレータ」で発生させたガスの力で「ターボポンプ」を駆動し、タービンを1分間に数万回転と高速回転させることで燃焼器に推進剤を高圧で送り込む「ガスジェネレータサイクル」をインターステラテクノロジズとしては初めて採用、燃料を燃焼器を冷やすことにも活用する「再生冷却方式」も取り入れている。これまでに燃焼器、ターボポンプ、ガスジェネレータそれぞれの試験を行っており、今後はそれらを組み合わせたエンジン統合試験へと進む予定だ。
また、ZEROのエンジンは「COSMOS」と名付けた。コスモスが北海道大樹町の花であること、このエンジンの特徴であるピントル型インジェクタの噴射形状がコスモスの花びらに似ていることから、開発部メンバーを中心に選定した名称としている。
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性能や調達性に優れ、地球環境に優しい液化バイオメタン
液化メタンは価格、燃料としての性能、扱いやすさ、入手性、環境性などが総合的に優れた燃料で、SpaceX社の「スターシップ」をはじめ米国や欧州、中国のロケット各社で開発に注力している。ロケット燃料には不純物を含まない高純度メタンが必要なため、インターステラテクノロジズは燃料に液化メタンを選定した2020年以来、その調達方法を検討してきた。
一方、エア・ウォーター北海道は北海道十勝エリアを中心に、家畜ふん尿から発生するバイオガスを、LNG(液化天然ガス)の代替燃料となるLBMに加工し、域内で消費する地域循環型のサプライチェーン構築に取り組んできた。2022年10月には、帯広市にLBMの製造工場を国内で初めて稼働させ、実証を進めている。
今回の試験で使用するLBMは、バイオガスの主成分であるメタンを分離・精製し、約-160℃で液化したもので、従来ロケット燃料に使用されるLNG由来の液化メタンと同等の純度(99%以上)だ。インターステラテクノロジズはその高い性能や、同じ十勝エリアにある工場から入手できるという調達性などを総合的に勘案し、ZEROの燃料として採用することに決めたという。
メタンは二酸化炭素に次いで影響の大きい温室効果ガスであり、牛から出るメタンの排出量低減は地球温暖化における課題だ。家畜ふん尿に起因する臭気や水質汚染などは地域課題にもなっており、インターステラテクノロジズは、ロケット重量の大半を占める燃料をサステナブルにすることで地球温暖化対策に具体的に貢献するとともに、酪農が盛んな北海道に本社を置く企業としてエネルギーの地産地消や環境問題対策に寄与することも目指しているとしている。
競争力のある価格と専用打上げが強み
ZEROは、近年の市場拡大を牽引している小型サイズの衛星をターゲットにした小型ロケットだ。民間単独では国内初となる宇宙到達実績のある観測ロケット「MOMO」で得られた知見を土台に、初号機打上げを目指して開発を進めている。
ZEROが提供する宇宙輸送サービスは、一気通貫の開発・製造体制で実現する1機あたり打上げ費用8億円以下(量産時)の「競争力のある価格」と、多様化する衛星のビジネスモデルに合わせて専用に打ち上げる「柔軟性」が強みという。国内やアジア・オセアニア諸国の衛星事業者に対しては発射場が近く、打上げまでの手間やコストがかからない「利便性」も提供価値として付与していくとしている。
ZEROの能力増強、アジア・オセアニア市場でのポジション確立へ
ZEROがターゲットとする小型衛星の重量は、100~200kg級がボリュームゾーンだ。ZEROは昨今のトレンドを見据え、国内をはじめ海外の旺盛な需要も取り込んでいくため、搭載可能な衛星重量を地球低軌道(LEO)に最大800kgを打ち上げられるロケットに能力増強を図る。これにより本事業で示されている目標を満たし、国内の自立的な宇宙輸送サービス構築に貢献するとともに、アジア・オセアニアや欧州市場におけるポジションを確立していくとしている。
ロケットZEROの仕様
全長 | 32m |
直径 | 2.3m |
全備重量 | 71t |
推進剤 | 燃料 液化メタン(液化バイオメタン)、酸化剤 液体酸素 |
エンジン基数 | 一段目 9基、二段目 1基 |
打上げ能力 | LEO 800kg / SSO 250kg ※将来最大能力 |