ドローンとライフセーバーが連携して海水浴場の監視や水難救助を実施するプロジェクトが7月18日に片瀬西浜・鵠沼海水浴場(神奈川県藤沢市)でスタートした。8月末までの土日祝日にドローンがライフセーバーとともに海水浴場を監視・パトロールする。
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カスタムされたMatrice 300 RTK
今年6月、神奈川県は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、県内25カ所の海水浴場を開設しないことを発表。しかしながら海の安全確保が不十分になるとの指摘が出ていた。そのような中で、県は日本ライフセービング協会と包括協定を結び、藤沢市は独自の安全ルール「夏期海岸藤沢モデル2020」を策定、その取り組みのひとつとなる。
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海岸には海岸利用についての注意書きが立てられている
ドローンによる監視・パトロールは土日祝日を基本とした19日間、日中1時間おきに15分のフライトを予定している。「夏期海岸藤沢モデル2020」で設定されたマリンスポーツ進入禁止エリアや周辺海岸をパトロール。運用は慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムや災害復興支援チーム藤沢、JDRONE等が作る「FLYING BEACH GUARDIANS」が行う。パイロットは事前に俯瞰投下訓練をクリアしたパイロットが選抜されチームを組んでいる。
機体は先日発売になったMatrice 300 RTKにスピーカーや投下機構を追加したカスタム機や、投下機構を追加したPhantom 4 Proのカスタム機、Mavic 2 Enterpriseなどが運用されている。機体細部を確認すると3Dプリンタを活用したカスタムが施されており、手作り感もあるが実践的な工夫が盛り込まれていた。
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メンテナンス中のMatrice 300 RTK
Matrice 300 RTKにスピーカーと投下システムが装着されている
投下機構が追加されたPhantom4 Pro
18日のデモンストレーションでは、ライフセーバーが溺者役となって救助を求め、その上空にMatrice 300 RTKが駆けつけ救助機材ライフガードチューブを投下。そして連絡を受けたライフセーバーがライフガードチューブにつかまっている溺者をボードで救助した。
溺者役となったライフセーバーを救助するMatrice 300 RTKからの映像
日本ライフセーバー協会の上野凌氏によると、溺者を発見してアプローチするまでの時間は、ドローンが浜から離陸して到着するよりもライフセーバーのほうが早いという。ただ、定期的な監視・パトロールの役割としてのドローンは広い視野と人的な労力の削減という意味で非常に優れており、期待するところも大きい。
ライフセーバーとドローンチームで密に連携を取りながら監視は行われる
また、今回のプロジェクトでは産業系を中心としたドローンパイロットがプロボノ(専門家が職業上のノウハウやスキルを無償提供して社会貢献する活動)として参加している。ドローンによる点検事業やドローンスクールを経営する依田健一氏もそのひとり。地元が横浜で片瀬西浜・鵠沼海水浴場にも近いこともあり、地元へ寄与したいと思いとドローンを人命救助に役立てたいという思いからパイロットとしてプロジェクトに参加。普段の業務で行っている物件投下や安全管理のノウハウをチームに共有している。
「非常時に焦ってドローンを運用するとどうしても必要な手順を見落とすこともあるので、そこは冷静に見て見落としを指摘するなどしている」とベテランパイロットならではの冷静な視点でプロジェクトをサポートする。
プロジェクトの今後の展開について、ドローン運用を行うLYING BEACH GUARDIANS、慶應義塾大学SFC研究所ドローン社会共創コンソーシアムの南政樹副代表は次のように語った。
茅ヶ崎市から鎌倉市にかけて広がる湘南海岸は年間200万人の来場客がある海水浴場。本プロジェクトである程度モデル化できれば他の海岸でも展開できると考えている。将来的にはライフセーバー側のドローン運用人材を育成、県の予算で機体や設備を購入することによりドローンオペレーターが来るのではなく、ライフセーバーの取り組みとしてドローンを活用してもらえたらいい。
ライフセーバー側にどんどん権限移譲してドローン活用の新しいリクエストが出てきたときにドローン産業側が解決策を提供していくということがあるべき姿だと考えている。
救助機材レスチューブを持つ南副代表
海岸の監視・救助にドローンを活用…というとすぐにでもできそうなイメージを持つ方もいるかも知れないが、実際に運用するとなるといろいろな問題が出てくる。海水浴場開設が見送られたとはいえ人が行き交う海水浴場での離着陸は安全管理が大切なのはもちろんのこと、ドローンで上空から監視していたとしてもドローンパイロットには遊泳している人が危険な状況にあることを認識すること自体が難しく、また、それにどのようにアプローチしたらよいかという判断はなおさら難易度が高い。
今回のプロジェクトでは、ライフセーバーチームとドローンチームが連携してそれらの対応に当たるとのことだが、人の命に関わる専門性の高いセンシティブな判断が求められることは間違いなく、ブリーフィングでは点検や空撮現場とはまた違った緊張感のようなものが感じられた。
ライフセーバー×ドローンの取り組みの利点や課題は19日間の取り組みの中でまだまだたくさん見えてくることがあるはず。日本初のこの取り組みはまだ始まったばかりだ。