無人偵察機の中でMALE(中高度長時間滞空型:Medium Altitude Long Endurance)と呼ばれるカテゴリーは長時間の継続監視ができるため、安全保障へ重要な役割を果たし続けるのは間違いない。米国のMQ-9やイスラエルのヘロン、最近ではロシアによるウクライナ侵攻で脚光を浴びたトルコのバイラクタルが代表的な機種として挙げられるが、いずれも胴体後部や、主翼と尾翼をつなぐブーム(支柱)は有人機と一目で違いが分かるほど細く、そのスタイルはMALE・UAVの標準形のようになっている。しかし、欧州で開発中のエアバスのユーロドローンと、フランスのトゥルジス・ガイヤール(Turgis Gaillard)のAAROKは同じMALEながら異なった姿をしている。さほど世界に知られていないものの、特にユーロドローンは日本に関わりもある中、これら2機種からMALEの将来の姿はどうなると想像できるだろうか。
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ファッション的には「量産型」でなく?
MALEのカテゴリーに含まれる機種は、他のUAVと同じくパイロットが乗らないため割り切ったデザインが出来る。胴体後部やブームは必要最小限の太さで強度を保持できれば良く、長時間飛ぶために細長い主翼を付け、見通し圏外用の操縦電波の送受信機を組み込むため頭部は大きくなる。その結果、MALE・UAVはいずれも似通った姿となった。最近の若い女性のファッションで聞かれるキーワードになぞらえると「量産型」のスタイルであり、これが現時点でのMALE・UAVの「標準形」かもしれない。

その「標準形」からユーロドローンとAAROKははずれている。前者は全体的にムチムチとでも言うような姿で、後者は角張っている。ユーロドローンは旅客機メーカーとして有名なエアバスが手掛け、計画の遅れも指摘されているようだが、2027年に初飛行が予定されている。AAROKは2011年に起業したトゥルジス・ガイヤールが開発し2025年9月に初飛行した。どちらも昨今のMALEらしく精密誘導兵器を主翼に懸架出来、軽攻撃機並みの武装が可能と言う。ユーロドローンは、2025年6月のパリ航空ショーでエアバスの他の機体に交じって並び、AAROKは2023年のパリ航空ショーで「欧州で初のMALE・UAV」として紹介され、2025年は有人状態での試験へ操縦席を付けた姿で展示された。
欧州には地域独自の理由が
なぜユーロドローンとAAROKは、「標準形」から外れたスタイルなのか。MQ-9やヘロン、バイラクタルの向こうを張って、欧州独自の姿にあえてしたかったからではないだろう。フランスのハイテク企業サフランのMALE・UAVであるパトローラーは胴体後部が細く、イタリアのレオナルドはトルコのバイラクタルと合弁企業を設立している。独自色を求める意味はない。ならば、性能か使う環境によって、とみるべきだ。
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ユーロドローンの外形の寸法は、全長17m、横幅30mでMQ-9、あるいはバイラクタルより大きい。2025年9月にエアバス公式サイトに掲載された開発者のインタビューを読むと、「小型ドローンに比べて、優れた航続距離とより大きな搭載量、高度なセンサーや兵器の搭載能力といった大きな利点を提供し、より遠距離からの監視を可能にして自機への損失を軽減する」とある。市街地上空での使用を念頭に置いていることから双発になったともされ、それも合わせて大型化したのかもしれない。
AAROKの約5.5tの最大離陸重量はセンサー搭載量から決めたとあり、バイラクタルTB2の700㎏に比べて格段に重い。有人機なら操縦室に当たる胴体中央部の膨らみは衛星通信などの操縦用機器を積んでいると見られ、エンジンも通常の有人航空機と同じように機首にあるため全体的な外形は必然的に有人プロペラ機でよく見る姿になる。全体的に角張ったその姿は、スイスの汎用プロペラ機ピラタスPC-6にどことなく似ていると言えなくもない。
トゥルジス・ガイヤールは同社の資料によると航空宇宙・防衛産業向けの特殊システムの設計や製造、機体改造を行い、現在はフランス国内に本社以外に九つの拠点を持ち社員は300人以上に成長している。いわば、航空機の用途に応じた形は何が良いか、見識は備えているとみてよい。そして、AAROKは舗装が十分でない滑走路からの発着も可能としている。そのため機体は頑丈につくらねばならない。そこで思い出すのがピラタスPC-6だ。PC-6は日本では南極観測隊に用いられたこともある頑丈な機体だ。高翼、低翼と主翼の配置に違いはあれども、頑丈さの範をPC-6に求めたため、機体の形は「標準形」からはずれたと見るのは想像が飛躍しすぎだろうか。
太いか細いか、どちらになるかまだ分からない
ユーロドローンとAAROKは実際に配備されていないだけに、MALE・UAVの「標準形」は、胴体が細いか太い、どちらのタイプに帰着するかまだ分からない。2025年のパリ航空ショーでは、米国のジェネラル・アトミクスはMQ-9Bの哨戒機型と早期警戒型の装備を同時に付けたと思えるシーガーディアン/ASWの模型を展示した。模型は胴体に海を監視する哨戒センサーを、主翼に対航空機用の早期警戒センサーを各々ポッド式に取り付けているため、ひどく空気抵抗が増えるように思えた。早期警戒用のセンサーは主翼の付け根付近に集中して取り付けていることから、相当な重量物でもあるのだろう。哨戒用と早期警戒用を併せた運用が効率的か、またはあり得るかはさておき、こうしたポッド式ならセンサーの性能が向上しても機体の外形を大きく変えることなく更新が可能だろう。

これに対して、胴体が太く機体サイズの大きいユーロドローンとAAROKなら機内への搭載も可能で飛行中の空気抵抗を増やすこともなく、滞空時間へ影響は少ないだろう。反面、搭載物は収容スペースの制約を受けざるを得ず、発展が妨げられることになる。それをカバーするのが大柄な機体ということになるが、それにより機動性が低下すれば扱いにくくなってしまう。これら一長一短を踏まえたうえで、既存のMALE・UAVとユーロドローン、AAROKがどのように進むのか興味があるところだ。
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日本へ示唆するものは
それならば、日本はどのようなMALE・UAVを用いるのが良いかとなる。新聞やラジオ、インターネットのニュースサイトではウクライナ侵攻や中東での武力衝突から、バイラクタルなどが話題に上り、明確な機種は特定されていないものの日本はこれらのいずれかの購入を視野に入れていると見られている。しかし、ユーロドローンについても日本はインドともにオブザーバーとして参加している。これを取り上げたエアバスの公式サイトは、「(参加は)ユーロドローンの開発とデータに関する詳細な知見を得ることができ、(購入などの)意思決定に役立ち、政府間協力の可能性が開かれる」としている。いわば、日本は各国のMALE・UAVを品定めしているという段階なのかもしれない。
もう一つ思うのは、日本の航空産業界に、MALE・UAVの国内開発へ機運が起こるかだ。民間用の小型ドローンは瞬く間にメーカーが参入し様々なタイプが市場に出ているが、ことドローン・無人機として大型になるMALE・UAVへの参入は、初期投資や生産後の販路に懸念を示す向きもあるのではないか。防衛装備移転3原則により基本的に輸出は可能になるだろうが、海外市場は既に他国のメーカーが席巻しているといってよい。さらに、防衛省は9月22日に、GCAP(次期戦闘機)へ向けてであろう、日米でのAI(人工知能)搭載の無人航空機の安全性確保へ日米共同研究を始めると発表している。日本のUAVへ向ける視線はMALEではなく、GCAPとともに作戦を行うこの無人航空機へが、強いのではないか。
そうなると、日本はMALEについては海外製を導入すると思われ、MQ-9やバイラクタル、ヘロンといった細身か、あるいはユーロドローンやAAROKのような大柄でマッシブな姿のどちらが良いかをやはり考えざるを得ない。「標準形」が無難と一見思うものの、こと航空機に関して欧州は有人無人を問わず米国やほかの国に後れを取るまいとし、航空先進国であり続けようとしている。そえゆえにMALE・UNAVの「標準形」は細身に定まったとするのは早いかもしれず、日本のMALE・UAVへの研究も続くことになるだろう。