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コラム小林啓倫

AIでドローンの「安全に緊急着陸する能力」を向上させる[小林啓倫のドローン最前線] Vol.94

ドローンに求められる緊急着陸能力

2025年10月28日
小林啓倫のドローン最前線

物流や災害救助、インフラ点検など、社会の重要なサービスを担う存在として期待されているドローンだが、こうした用途でドローンが真に信頼できる存在となるには、予期せぬ事態に適切に対応するための各種能力が欠かせない。そのひとつが、「安全に緊急着陸する能力」だ。

飛行中のドローンは、サイバー攻撃や電磁波妨害、センサーの故障、突然の悪天候や障害物など、さまざまな異常事態に遭遇する可能性がある。このような状況下では、ドローンには速やかに「安全な場所を見つけて緊急着陸する」という判断と行動が求められる。人間の操縦者が常に監視できない自律飛行の場面では、この能力こそがドローンの安全性を左右する重要な要素となる。

しかし特に都市部で運用されている場合、緊急着陸の判断は極めて複雑なものになる。屋上や道路、歩道、公園など多種多様な候補地があり、それぞれに車両、歩行者、構造物といった障害物が存在する。しかもこれらの状況は刻一刻と変化する。ドローンには、このような動的な環境において、人間のような常識的な判断力が求められる。

AIでドローンの「安全に緊急着陸する能力」を向上させる[小林啓倫のドローン最前線] Vol.94
ドローンが「安全に着陸する能力」を持たないと、重大事故が起きかねない

現在のドローン技術における緊急着陸システムは、主に2つのアプローチに依存している。ひとつは「事前に定義された安全地点への復帰」(あらかじめ設定された場所にドローンを戻すという方法)だ。しかしこの方法には、「事前定義した地点が常に安全である保証はない」というリスクがある。もうひとつの方法は「過去の経験に基づく対処」(特定の故障や攻撃のパターンを学習し対応する方法)だ。しかしこの方法にも、「訓練データに含まれない新しい状況には対応できない」というリスクがある。このように従来の手法には、事前に想定したシナリオには対応できても、予期せぬ新しい状況には脆弱、という根本的な課題を抱えている。

この課題に対し、カリフォルニア大学サンタクルーズ校とKTH王立工科大学の研究チームが、AI技術を活用した新たな手法を開発し、研究論文として発表している。そこで活用されているのは、「LVLM(Large Vision Language Model)大規模視覚言語モデル)」と呼ばれる技術だ。

人間のように「目で見て判断する」技術

AIでドローンの「安全に緊急着陸する能力」を向上させる[小林啓倫のドローン最前線] Vol.94
CGで作成された都市景観映像(論文から抜粋)

LVLMとは、簡単に言ってしまうと、画像とテキストの両方を理解できるAIを実現する技術だ。これを使うことで、AIが写真や図を「見て」、その内容を理解・説明したり、画像に関する質問に答えたりするようにできる。

研究者らはこのLVLMを利用し、次のような仕組みを開発した。まずはカメラで撮影した映像から、平坦な表面領域を自動的に特定する。この領域が、緊急着陸の候補地になるわけだ。次に、検出された候補地の画像をLVLMに提示し、「障害物はないか」「人はいないか」「表面は平坦か」といった安全性を評価させる。重要なのは、AIが単に物体を認識するだけでなく、「この屋上には空調設備が密集していて危険」や「この道路は今は車がないが、交通量の多い幹線道路だ」といった文脈的な推論を行う点だ。さらに、ドローンが候補地へ移動した後、再度AIに確認させることで、移動中の環境変化にも対応するようにした。

研究チームは、Unreal Engineという、高精度の3DCGを作成可能なビデオゲーム用エンジンを使い、都市環境のリアルなCGを生成するシミュレーターを用意。これを使ってさまざま都市景観の映像(まさにビデオゲームのような「動いている仮想世界」)をつくり、システムを仮想的にテストした。

テストでは、都市内の20箇所のランダムな地点からドローンを発進させ、緊急着陸の成功率を測定。その結果、75%の成功率を記録し、すべてが障害物のない安全な屋上への着陸だった。従来技術では不可能だった「その場の状況判断による適切な着陸」が、AIによって実現可能であることが実証されたのである。特に最新の大型モデルを使用した場合、ほぼ完璧な判断能力を示し、100%の成功率を達成したモデルもあった。

また意思決定の速度という、重要な指標でも成果が見られた。成功事例の多くは平均2.2回のチェック(約数十秒)で着陸を完了しており、緊急時でも実用的な速度で判断できることが示されたのである。

一方で失敗事例の分析からは、システムの改善点が明らかになった。25%の失敗例のうち、2件は空調設備が密集した屋上を選択、2件は交通量の多い幹線道路への着陸、1件は判断に時間がかかりすぎたケースだった。特に道路への着陸では、AIが「現時点では車がいない」という短期的な状況のみを評価し、「すぐに車が来る可能性が高い」という長期的リスクを十分考慮できていなかった。

今回の実験は、あくまで仮想的な環境で行われたもので、結果をそのまま現実世界に当てはめることはできないだろう。特に先ほど、大型モデルでは100%の成功率だったと説明したが、そうしたモデルをドローンの小さな筐体に収めることは難しい。小規模なモデルでいかに精度を高めるか、またインフラや制度設計も含めた周辺的な整備をどう進めるかが今後の課題となる。

とはいえ、ドローンの緊急回避能力は、その実用面での安全性を大きく高めることとなる。その実用化に期待したいところだ。

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TAGGED: AI, ドローン, 小林啓倫のドローン最前線
masuko 2025年10月28日
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