64日間の無着陸飛行に成功した太陽光ドローン
2016年6月、Aquilaと名付けられた1機のドローンの試作機が、アリゾナで初飛行を行った。開発したのは大手SNSで有名なFacebook(現Meta)社。翼幅およそ30メートルという大型のドローンで、巨大なブーメランのような形状をしていた。動力は、機体表面を覆うように設置された太陽光発電パネルから得られる電力。それによりAquilaは、長時間にわたって空中に留まることを想定しており、実際にこの試作機も約90分間の飛行に成功した。
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Aquilaが想定していた飛行高度は約20~30キロメートルと、一般的な旅客機が飛ぶ高度10キロメートルよりもさらに高い。この高度であれば、昼間は太陽光がほぼ確実に得られるため、最長で約3か月間滞空することが想定されていた。
Facebookが開発していた太陽光ドローン”Aquila”
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旅客機を邪魔しない高度、そして長期間の継続的な飛行の実現を目指していたのには、Aquilaの用途に理由がある。それは上空からのインターネット接続の提供だ。Aquila自体が「空飛ぶ基地局」のような存在になり、無線通信で地上の端末と接続するわけである。これにより、世界でインターネットに接続できない地域を減らす(そうなればネットユーザーやネット利用が増加し、自社のサービスがより利用されるようになる)というのがFacebookの狙いだった。
残念ながらこの計画は、このテストフライトからおよそ2年後の2018年7月に正式に中止が発表されている。その背景には、多くの技術的課題に直面したことがあったと推測されている。
とはいえこの「高高度を長期間飛行する太陽光ドローン」というコンセプト自体が否定されたわけではない。同じアイデアを、その後も各国の企業や機関が研究し、その実現に向けて着実に歩みを進めている。
そのひとつが、Airbus社が開発したZephyrだ。同機も翼幅25メートルと大型で、高度約20キロメートルを飛行し、昼夜を問わず数か月間滞空することを目指しており、「世界初の成層圏UAS」であると自負している。実際にZephyrは、Aquila計画の中止が発表された1か月後の2018年8月に、およそ26日間の継続飛行を達成した。
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Airbus社の「成層圏UAS」Zephyr
そして今年8月、Airbusと米陸軍は、米国で実施されていたZephyr-8の飛行実験において、同機が64日間の継続的な飛行に成功したと発表した。残念ながら同機は、予想外の事態により墜落してしまったとのことだが、2か月間の滞空が可能な太陽光ドローンが、技術的には実現されているわけである。
人工衛星を補完する存在に?
そしてお隣の中国も、当然ながら大型の太陽光ドローンの開発に乗り出しており、その成果が公表されるようになってきている。
そのひとつ、中国有数の航空機メーカーである中国航空工業集団(Aviation Industry Corp of China)が開発した「啓明星(启明星)50(Qimingxing 50)」の初飛行が成功したことが、9月4日に同社から発表されている。同機は翼幅50メートルと、AquilaやZephyrよりさらに大型で、双胴機の形状をしている。今回の試験では26分間飛行し、すべての機器が正常に動作することが確認された上で、無事に着陸を果たしたそうだ。
中国の大型太陽光ドローン「啓明星50」
啓明星50も、最終的には高度20キロメートル程度の高高度を、数か月間から1年ほど飛行し続けることを目指すとしている。China Daily紙の報道によれば、同機の設計責任者であるZhu Shengli氏は啓明星50を「準衛星」と位置付け、人工衛星を補う形で「偵察活動、森林火災の監視、大気環境の調査、地図作成、通信の中継」などの目的に使われるようになるだろうとしている。
人工衛星は広い範囲をカバーできるものの、一定のスケジュールに従って上空を通過するため、急に特定の場所を調べるというのは難しい。また1機製造し、ロケットで打ち上げ、軌道に乗せるだけでも大きなコストがかかる。しかしこうした高高度の太陽光ドローンであれば、緊急事態に対応するフレキシブルな運用が、低コストで実現可能というわけだ。
高高度を長期間飛行するドローンについては、文字通り「高高度・長時間耐久」を意味するHigh Altitude Long Endurance(HALE)や、「高高度プラットフォーム・ステーション」という意味のHigh Altitude Platform Station(HAPS)といった名前で新たなカテゴリーとして認識されるようになっている。いずれHALEやHAPSが、人工衛星を補完する役割を果たすのが当たり前の時代がやってくるかもしれない。