広大な海を探査する水中ドローンの中でも、複雑な地形の深海を無人で探査するUAV(遠隔操型無人潜水機)やAUV(自律型水中探索ロボット)は海洋ロボットとも位置づけられ、世界で開発競争が始まっています。活用が始まったのは2~30年も前からで、主に海底油田や天然ガスの開発事業のツールとして使われていました。それからしばらくあまり技術が進化していなかったそうですが、ニッケル、マンガンなどの海底鉱物の探索、洋上風力発電設置のための調査など活用範囲が拡がったことで、急速に技術の進化が進んでいるそうです。
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昨年神戸で開催された「Techno-Ocean 2021」では、そうした最先端の水中ドローンの話題もたくさん紹介され、ナショナルジオグラフィックスやディスカバリーチャンネルばりにワクワクする内容ばかりで、とても楽しく勉強になる取材でした。特に海洋ロボット開発の第一人者であるOcean Infinity社が開発するUAVやAUVとその運用に関する話は、サンダーバードを思わせるような内容でもありました。
米国テキサス州と英国サウサンプトンに拠点を持つOcean Infinity社は、2016年の設立当初は海上捜索と救助活動を行う会社としてスタートしましたが、その後、独自に設計開発した水中ドローンに高度なセンシング技術と高解像度の画像解析技術を組み合わせることにより、高いレベルでの深海探査を実現することで注目を集めています。4つあるサービスの中には、深海の地形を正確に短時間で測量し、マッピングする技術があり、さらに複数台のUAVを同時にコントロールして効率良く探索する自律型無人システムをデザインしています。
最初は1台の水上艇に付き1台ずつAUVを操作できるシステムを開発しましたが、さらに効率良く広大な海域をカバーするため最大で8台のAUVをトラッキングするマルチシステムを2018年に開発しました。船尾にAUVの格納庫を持ち、海底への投入からトラッキング、回収まで自動でできる無人艇を開発することで、1日あたり1500キロ平方メートルもの範囲を探索できるようになりました。運用の際に排出される二酸化炭素も最大で90%削減でき、これから不可欠となる環境対策にも対応できたとしています。
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Ocean Infinity社の技術が注目集めるようになったのは、2つの探索プロジェクトで技術を発揮したことがあります。1つは2014年3月に消息を絶ったマレーシア航空のMH307便の探索支援で、南インド洋に墜落されたとされる機体を探すために構成された世界的探索チームが、27ヶ月かけて探索したのとほぼ同じ広さを4.5ヶ月で探索しました。探索に協力したのが墜落から3年経っていたことや捜索範囲に制限があったため残念ながら機体は発見できませんでしたが、探査能力は高く評価されました。
その成果から次に依頼されたのが、2017年11月に定期航行中に消息不明になったアルゼンチン海軍の潜水艦San Juanの捜査でした。2018年に60日間かけて行われた探索では、起伏が大きい16500平方キロメートルもの海底を5台のAUVでオンボードとソナーを組み合わせて捜査し、結果的に800~1900mの深さで20~30mにわたる稜線の峡谷部に残っていた残骸を見つけることができました。会場では当時の探査に使われた海底マッピングが紹介されましたが、それを見てもどこが発見地点かわからないほど小さく、いかに優れた探索技術が使われているかがわかります。
海中AUVの今後のトレンドについてCEOのショーン・ファウラー氏は、より深海で長く探査できるよう航続距離を伸ばした新しい機体が求められ、バッテリー技術と位置情報システムの改善が必要だとしています。すでに2000km航行可能な機体が登場し、氷の下のような今まで不可能な場所も探索できるようになりつつあり、運用する場所によっては環境対策として使用する燃料も変わるとしています。
一方で運用に必要なソフトウェア開発はやや遅れていて、2000mもの深海で正確に運用するために人間の介在無しにどれだけ機体を賢くできるかが課題になっています。水中ドローンをどれだけ賢くできるかという例として、クイーンズランド大学が開発しているオニヒトデに注射をして駆除する機体が紹介され、AIも活用しながら高度なシステムを開発する研究が進められていることが紹介されました。
Ocean Infinity社では、プログラミングに従って運用するミッションモード、条件にあわせてコースを変えるなどある程度柔軟な対応ができるコンディションモードで運用を進めていましたが、次の目標として完全に無人で運用できるアダプティブモードを開発中だとしています。さらに、完全リモートでAUVを運用するコントロールセンターの開発も進められています。
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ファウラー氏は、「新しい機体の開発には造船技術、海洋工学、高速コンピューティングの組み合わせが重要で、そのいずれもある日本は新世代船舶の開発と併せて実現できる可能性がある。ソフトウェア開発も重要で新たな挑戦になるだろう」としています。
今後水中ドローンの活用が大きく進むのは海底資源の探索で、すでに国際的な競争が始まっているとファウラー氏は指摘します。深い海底で長時間リモート運用できる海洋ロボットの開発はますます重要になり、Ocean Infinity社は新しい船を来年末までに発表する予定です。こうした状況からこれから10年のうちに、大きな技術的なブレイクスルーも訪れるだろうとしており、それがどのような形で実現するのか気になるところです。