ドローンの落下を防ぐ技術
遊びだけでなくビジネスでも活用されるようになったドローン。COVID-19感染拡大の影響でドローンを利用して医薬品や食料などを配送するサービスが世界各地で次々に導入されています。日本でもあちこちで実証実験が始まっていますが、実用化をするにあたり大きな課題になっているのが、「ドローンを落下させないようにすること」です。
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現在、ドローンを長距離で飛ばす場合は事前に許可申請が必要で、落下した時の問題を避けるため人家や道路の上を飛行するルートはできるだけ使わないよう計画しなければいけません。そのため川や森の上を飛ぶわけですが、もしそうした場所でドローンが落下すると機体そのものに大きなダメージを受けることになります。
そのためドローンにはバッテリーが不足したり、電波の干渉や障害でコントロールができなくなると、自動で戻るRTH(Return To Home)モードなどが搭載されています。また、精度の高いセンサーや高度な障害物回避機能を搭載したり、飛行性能やシステムも改善され、最先端のフライトコントローラーは、クワッドローター型ドローンの一部が故障しても安定した制御ができます。
ただし安定制御にはGPSなどの外部センサーが必要で、RTHモードに切り替えても機体が戻ってこない場合もあります。そこで開発されたのが、ドローンにオンボードで落下事故を防ぐ機能を搭載する技術です。
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開発したのは、ドローン開発企業が集まる"ドローンバレー"の中心的研究機関として先進的な技術を開発しているスイスのチューリッヒ大学と、オランダのデルフト工科大学の研究チームで、「Autonomous Quadrotor Flight despite Rotor Failure with Onboard Vision Sensors: Frames vs Events」というタイトルでGitHubに公開されています。
仕組みは、クワッド型ドローンのローターが止まって安定飛行ができなくなると、機体の方を高速で回転させてバランスをとり、その間に安全な場所へドローンを移動させるというものです。通常、ローターが壊れると姿勢が安定せず落下するところを、正常に動くローターを動かしてバランスをとるよう独自のアルゴリズムを開発しています。
技術を紹介する動画も公開されている
また、機体の姿勢をトラッキングするためドローンには1種類のカメラを搭載しています。一つはロボットのコンピュータビジョンなど使わるイベントカメラと呼ばれる生物の網膜をモデルにしたカメラで、暗い場所でも機体の姿勢を感知できます。両カメラの情報をオンボードで分析し、どのように制御しているかについては動画も公開されています。
こうした高度な技術以外で落下を防止する方法としてはドローン用のパラシュートがあります。PARAZERO社の「SafeAir」は、DJIをメインにその他の機体にも後付けできるドローン専用の落下防止パラシュートシステムを開発しています。
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ポイントはドローンが故障して落下したことを感知してパラシュートを開くことですが、紐がからまないようにローターを強制的に止める機能が搭載されています。独立したセンサーとバッテリーで低い高度で作動し、手順通りに折りたためば再利用もできます。
システムを利用することで住宅地や都心部で飛行できるようFAA(米国連邦航空局)の免除が受けられ、ブラジル初のドローン配送会社も同社のシステムを搭載することでサービスが承認されたとしています。パラシュートの大きさもドローンにあわせていろいろあり、DJIのMavicやPhantom用のシステムは499ドルで発売されています。
MARS Parachutes社の動画
ドローン用のパラシュートはASTM標準規格をクリアする必要があります。需要は高まっているようでPARAZERO社の他にも、MARS Parachutes社や、Fruity Chutes社といった会社が参入していて、マルチロータータイプ以外の無人飛行機や航空機の回収システムを提供しているところもあります。
今年のCESでは米国大手キャリアのVerizonが5Gを利用したドローン配送を行うことを発表したり、1月には世界最大のスーパーマーケットチェーンのウォルマートが、コカ・コーラの新商品Coca-Cola with Coffeeのプロモーションとしてドローンで宅配したことが話題になりました。
ドローン配送サービスの普及にあわせて、「落ちないドローンをデザインする」アイデアや技術は、これからもっと登場しそうです。