地震や台風など災害の危機と隣合わせの日本。防災に対する意識が高まる中、備蓄品や災害に対応する機械・道具などに関心が集まる。2025年10月1日~3日にかけて、東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2025」では、多種多様な避難所資機材や監視・警戒システムなどが出品された。
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最新のドローンも展示された。ドローンは災害時に被災した建物や道路を空撮し状況を確認したり、ダメージを受けたインフラの点検を行ったりするなどして活用できる。また、孤立地帯への医薬品や生活物資輸送も期待されている。
危機管理産業展2025では、特に火災発生時に消火に使用する放水ドローンや、自動離着陸・自動充電に対応するドローンポートが目を引いた。これらに関する展示を紹介する。
三菱重工業
三菱重工業は東京消防庁と共同で開発する「消火活動用ドローン」を初披露した。消防車やはしご車は、住宅が密集し道路が狭いといった理由で進入が困難なケースがある。消火活動用ドローンはそういった場所へ持ち込むことを想定している。そのため機体サイズが極力小さくなるように開発され、幅と奥行は1.4m四方、高さは1.1m程度となり、ワンボックスカーにも詰め込める大きさとなった。
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ローターの周囲はガードでガッチリと囲われている。住宅地で使用すると樹木などに接触することが想定されるので、ガードがあると安全性が高められるだろう。また、ガードには耐熱処理が施されている。これにより火災によって発生する放射からモーターやローターを保護する効果が期待されている。なお、安全性能として障害物回避機能、衝突防止機能を備えている。
機体下部には「放水モジュール」が装備されており、地上のポンプから給水する仕組み。放水性能としては「水平距離12m以上の飛距離で消火に資する継続的放水」(展示パネル)を持つ。飛行時間が気になるところだが、地上から給電することで、この課題を解決する考えだ。放水モジュールは消火薬剤などを投下する「投てきモジュール」に交換することも可能だ。火災の状況に応じて適切なモジュールを選択する。
中国ではこの機体と同様に放水用ノズルを取り付けて、消火作業を行う空飛ぶクルマや大型ドローンがしばしば登場する。それらの多くはタワーマンションの高層階などで使用されているようだ。だが、消火活動用ドローンについてはやや運用の考え方が異なると、担当者は説明する。
日本では高層マンションの消火設備が充実していることが多く、建物の周囲も開けており消火活動に取り組みやすくなっています。一方、6階程度の中層マンションの場合はそうではないケースがあるようです。そこで、消火活動用ドローンについては、はしご車の侵入が困難な地域において、20m以上の建物の消火作業に投入すると考えています
消火活動用ドローンは順次、基本的な放水や投てき、飛行性能に関する試験を始める。2027年度の社会実装を目指す。
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SkyLink
防災グッズを専門に扱う船山のブースの一角に、見慣れない大きなドローンが展示されていた。DJI Fly Cart 30と同じ大きさかやや大きく、機体下部には長めのスキッド(脚部)が取り付けられ、放水用ノズルを備える。トルコのドローンメーカー・Baibarsの機体「baibars cesur-Ⅲ(消火用ドローン)」だ。消防車が接近できない狭い場所や、スプリンクラーなどがない建物の消火活動に活用できる。
SkyLinkの担当者が出展の経緯を説明する。
船山さんとはお付き合いがあり、なにか防災グッズを出展してはというお話で、この機体をもってきました。SkyLinkはドローンの販売やアフターメンテナンスなどの事業を行ってきましたが、2024年から自動車部品メーカーのエクセディグループにジョインしました。エクセディは自動車電動化の流れを受け新規事業を考える中で、ドローン事業部を立ち上げ、2023年にBaibarsに出資。同社が開発するbaibars cesur-ⅢをSkyLinkで販売するため、輸入しました
輸入してすぐに販売……とはならず、トルコのメーカーの規格で作られていることから、日本の消防関係機関などの声を聞きながら、国内使用にモディファイし、メイドインジャパンとして販売することを考えているという。
機体重量は60kg程度、最大離陸重量は110kg程度というbaibars cesur-III。ペイロードとして放水ノズルを装備し、地上の給水ポンプからホースを通して水が送られてくる。ドローンの飛行高度によっては水圧によって機体のふらつきなどが生じるため、今後の検証課題になっている。ケースによっては消火剤などを撒くことも検討している。
この機体は消防活動の補助に投入することを考えています。ビル火災の場合、火の手はどんどん上階へと回っていきます。消防隊員には消火活動をしていただき、ドローンでは火元より上階に水などをかけて延焼を防ぐといった役回りを考えています
放水機能は消火以外にも使用できる。海外ではビルや観覧車の洗浄を行っており、国内でも応用できないか検討している。また、雪国の住宅では屋根の雪下ろしの作業が必須。baibars cesur-Ⅲからお湯を放水し、雪を切って下ろす「雪切り」にも取り組みたいという。今後は検証を進め、2027年ごろに市場投入を予定する。


WeeFeeS
総務省 消防庁のブースでは企業などが行う消防や防災に関する研究成果が公開された。このなかで、WeeFeeSは消火放水ドローンに関する研究を発表した。
給水ポンプと接続されたドローンが空中で放水する場合、その反動で機体が後退してしまう。これを放水反力といい、打ち消すにはドローンが前進する力で押し返すしかなく、挙動が不安定になってしまう。そこでWeeFeeSではペイロードとして搭載できる「横向きプロペラ」を開発。放水反力を横向きプロペラの押し返す力で打ち消し、安定した飛行をしながら放水できる仕組みを作った。
横向きプロペラはノズル部分と2枚のプロペラがフレームで繋がれた構成。プロペラを動かすバッテリーも独自に用意しており、ドローン本体から給電する必要はない。プロペラのオン・オフはプロポ(送信機)に電源スイッチを割り当てて対応し、任意のタイミングでスイッチングできる。
取り外しが容易で、ペイロードが搭載可能なドローンであれば取り付けられる。ブースではWeeFeeSが製造したドローンに取り付けられていたが、実証実験の様子を紹介する映像では他社の機体に取り付けて飛行させた姿も確認できた。
同社では日本のほか、アメリカや中国でも特許を取得しており、放水ドローンに取り組む事業者に活用を提案していきたいという。


システムファイブ
危機管理産業展2025の入口を通ってすぐに展開されていたのが、危機管理ドローン・ロボットがテーマのブース。システムファイブは「DJI Matrice 400」をはじめとした最新のDJI製ドローンを各種展示し、来場したばかりの人々の関心を集めていた。
「危機管理」がテーマの展示会ということで、特に関心を寄せられた製品が「DJI Dock 3」だった。担当者は来場者の傾向を以下のように説明する。
防災や減災に活用できる機材を探しに来られている皆さんが興味を持っています。災害現場に行けないというのが防災担当者のなかで課題です。ドローンのスタッフを現地に連れて行こうにも、渋滞などで身動きがとれないということもあり、ドローンポートを活用できないかと考えられています
ドローンポートは設置する場所が重要だ。発災時に土砂崩れなどが起きそうな場所などに設置できればいいが、台数がかさむ。そこで注目を集めているのが、消防署や役所の建物の屋上だという。消防では日々の業務でドローンの活用に慣れておきたいという考えがある。また、火事で出動する場合、事前に消防署敷地内でドローンを上げておき、現場を高所から確認するといった使い方も期待できるという。
役所の屋上も同様で、発災と同時にポートからドローンが離陸し、周囲の様子を監視するといった使い方ができる。高所から様子を伺う「火の見櫓」は古くから防災面で重要視されているが、ドローンにその任を負わせるのが現代的な考え方になりそうだ。沿岸部に近く津波の心配がある地域であれば、なおさら配備を進め、海側のチェックに活用できるだろう。

manisonias
海難事故などの溺者を捜索・救助に特化したドローン「SAKURA」を開発する。2025年夏にはのべ10日間にわたり、神奈川県の材木座海岸で海岸警備の実証に投入された。
実際に救助に活用した事例も発生した。陸地側にはテトラポットが設置されているような環境で、海水浴を楽しむ人が溺れてしまった。テトラポット付近は海水を取り込むような構造になっており危険だ。そこでSAKURAに取り付けられたスピーカーから近づかないように呼びかけを続けた。さらに地上のライフセーバーとも要救助者の位置情報を共有。ライフセーバーが駆けつけて救助する様子を空中から確認し、手が回らない彼らに代わり陸上のスタッフに状況を連絡するといった運用がされた。

Tohasen Robotics
固定翼を備えるVTOL機「UniVTOL V2200」が目立った。100分程度飛行可能で、広域マッピングや海岸調査などに活用されている。カメラなど装備一式を揃えても500万円程度から導入ができるという。今後は国家資格「無人航空機操縦者技能証明」の飛行機の練習機としてもドローンスクールなどに提案していく予定だ。



危機管理産業展2025ではノズルを搭載し、放水するドローンの展示が印象的だった。消火だけでなく洗浄などの作業にも使えることから、防災・減災だけでなく、産業としての用途も広がっていくと考えられる。ある担当者も「DJIが本気を出せばすぐ作れそうですけどね」とコメント。点検や物資輸送、ショーと活動の幅を広げてきたドローン。次の注目分野は放水といえそうだ。