ターボポンプは燃焼器に燃料と酸化剤を送る"心臓部"に当たり、ロケットエンジンの中でも最も開発が難しい要素の一つと言われている。同試験ではターボポンプが目標の回転数で良好に動作していることを確認し、ZERO初号機打上げに向けて大きな開発マイルストーンを達成したという。
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ZEROエンジン用ターボポンプ
ZEROエンジン用ターボポンプは、燃料ポンプと酸化剤ポンプを一体化させた「一軸式」を採用。燃料と酸化剤それぞれでポンプを分ける場合と比べて技術的な難度が高い一方、エンジンシステム全体の小型・軽量化や部品点数の削減による低コスト化につながるという。ターボポンプの材質には耐熱性に優れたニッケル合金(一部にチタン合金およびアルミ合金)を使用している。今回は60kN級エンジン用のサブスケールモデル(長さ42cm、直径19cm)での試験となり、1分間に4万回転と目標としていた回転数を達成。同試験は4月まで継続し、引き続き作動条件を変えた時の性能などを取得してい区としている。
ZEROエンジン用ターボポンプ冷走試験概要
試験名称 | ZEROエンジン用ターボポンプ冷走試験 |
試験目的 | ターボポンプ単体での性能を確認すること |
期間 | 2023年10月から2024年4月まで(計9回予定) |
場所 | IHIエアロスペース相生試験場(兵庫県相生市) |
試験結果 | 目標回転数を達成し、性能評価に必要な圧力および温度データを良好に取得した |
開発
ZEROエンジン用ターボポンプの設計は2019年から、日本の基幹ロケット用エンジンの開発に関する豊富な経験と実績を有している国立大学法人室蘭工業大学(北海道室蘭市)との共同研究として開始した。2021年9月にはポンプ製造国内最大手の株式会社荏原製作所が加わり、3者による共同研究開発に取り組んできた。
試験は、ロケットエンジンやターボポンプの試験実績が豊富な株式会社IHIエアロスペースの協力のもと、IHIエアロスペース相生試験場にて実施した。
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開発難度の高いターボポンプは設計・製造・試験いずれの過程も国内の知見を取り入れてきており、今後はこれらの過程で得られた知見を最大限に活用し、実機モデルとなる130kN級エンジンの開発を進める。
ガスジェネレータサイクルと再生冷却方式
ZEROは推進剤として燃料に液化バイオメタン、酸化剤に液体酸素を使用する液体ロケットだ。ZEROのエンジンは「ガスジェネレータ」で発生させたガスの力で「ターボポンプ」を駆動し、タービンを高速回転させることで燃焼器に推進剤を高圧で送り込む「ガスジェネレータサイクル」をインターステラテクノロジズとしては初めて採用した。燃料を燃焼器を冷やすことにも活用する「再生冷却方式」も取り入れている。
これまでにガスジェネレータ、燃焼器、ターボポンプそれぞれの単体試験を行っており、今後はそれらを組み合わせたエンジン統合試験へと進む予定だという。
強み
ZEROは、近年の市場拡大を牽引している小型サイズの衛星をターゲットにした小型ロケット。民間単独では国内初となる宇宙到達実績のある観測ロケット「MOMO」で得られた知見を土台に、初号機打上げを目指して開発を進めている。ZEROが提供する宇宙輸送サービスは、一気通貫の開発・製造体制で実現する1機あたり打上げ費用8億円以下(量産時)の「競争力のある価格」と、多様化する衛星のビジネスモデルに合わせて専用に打ち上げる「柔軟性」を強みとしている。
国内やアジア・オセアニア諸国の衛星事業者に対しては発射場が近く、打上げまでの手間やコストがかからない「利便性」も提供価値として付与していくとしている。
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最大衛星重量はLEOに800kg
ZEROがターゲットとする小型衛星の重量は、100~200kg級がボリュームゾーンとなっている。ZEROは昨今のトレンドを見据え、国内をはじめ海外の旺盛な需要も取り込んでいくため、搭載可能な衛星重量を地球低軌道(LEO)に最大800kgを打ち上げられるロケットに能力増強を図ったという。これにより国内の自立的な宇宙輸送サービス構築に貢献するとともに、アジア・オセアニアや欧州市場におけるポジションを確立していく方針だ。
ロケットZEROの仕様
全長 | 32m |
直径 | 2.3m |
全備重量 | 71t |
エンジン基数 | 一段目 9基、二段目 1基 |
推進剤 | 燃料 液化メタン(液化バイオメタン)、酸化剤 液体酸素 |
打上げ能力 | LEO 800kg/SSO 250kg ※将来最大能力 |