このシステムでは、AIが受粉可能な花の識別を行い、ロボット飛行制御技術と連携したドローンがハチのような役割を担う。平栗教授は同システムの実験を実際の圃場であるトマト温室で行い、その実用可能性と、従来方法に比べて着果率が改善することを実証した。
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背景
果実栽培における花の受粉作業はハチによる媒介、あるいは人の手(人工授粉)による方法が主流となっている。しかし近年、温暖化や農薬などの影響により昆虫(ミツバチ)の管理が難しくなっており、特に活動が低下する夏場には人工授粉に頼らざるを得ない状況なのだという。
一方、農業従事者の減少や高齢化によって技術継承が難しくなるとともに、作業者確保に大きなコストが生じることも問題となっている。
受粉システム研究
平栗教授はこうした問題を解決するため、ドローンによる受粉システムを考案した。研究期間は2020年4月~2023年3月の3年間。今年1月にトマト栽培の温室ハウスにおいて実験を行い、実用化に繋がる研究成果を得たばかりでなく、従来方法より着果率が約10%改善することを実証した。
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システム構築に要求される技術
- 複数のドローンが効率的にハウス内を巡回するための自律飛行制御
- 受粉可能な花弁形状を画像から自動判定するAI判定アルゴリズム
- ドローンに実装する小型で、花に接触すると自動で動作する受粉用振動機
- 障害物が多いハウス内でドローンを安定飛行させる通信技術
実験のシステム構成
(A)モーションキャプチャ(赤外線)カメラ=ドローンの位置情報(座標)を把握する目的で、ハウス上部に複数台配置
(B)ドローン=花を探して花弁の状態を撮影する機能、専用振動機による受粉機能を併せて実装
(C)ドローン飛行制御用PC
(D)花弁状態判定用PC
※A~DはWifiを介して相互に通信し、情報共有を行い、指示を伝える。
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実験のプロセス
- モーションキャプチャカメラ(A)が、飛行中の複数のドローン(B)をリアルタイムで捉え、その座標を随時PC(C)に送信
- PC(C)が設定した巡回プログラムに従って、ドローン(B)に飛行経路を指示
- ドローン(B)が花を探してカメラで撮影し、画像データをPC(D)に送信
- PC(D)搭載のAIが画像から花弁状態を分析して受粉可能な花を判別。その座標をリスト化しPC(C)に送信
- PC(C)からドローン(B)に指示を出し、座標上を順番に受粉作業※を実施
※トマトは「自家受粉」植物のため、花を振動させるだけで受粉が完了する。
実験の結果、ハチや人手による従来の方法と比較して着果率が約10%の改善となり、同本システムが栽培現場において実用性があることを実証した。
同研究は、農林水産省生研支援センターの「イノベーション創出強化研究推進事業」に採択され、実施された。研究成果は、ICTやロボット技術を活用して作業効率化や品質向上を目指す「スマート農業」関連研究として、学会などで高く評価されているという。
現在、平栗教授はこの技術を応用、発展させ、ナシ栽培における実験に取り組んでいる。