新年あけましておめでとうございます。
2026年という新たな1年の幕開けを、私は日本で迎えました。静かな正月を過ごしながら、手元のパソコンで昨年末に香港で撮影したデータを整理していると、改めて「ドローンという道具の力」を象徴する2つの風景に目が止まりました。
10年に一度の「視点」が与えるインパクト
まず1枚目は、12月に香港で行われた10年に一度という稀有な道教祭礼「酬恩建醮(ちょうおんけんしょう)」を捉えたものです。
[02 酬恩建醮の建屋内部写真]

地上から見上げる竹組みの建屋も圧倒的な迫力ですが、空からのたった1枚の写真は、その驚くべき規模感と、田舎町に浮かび上がる祝祭の熱量を一瞬で伝えてくれます。
この写真を見た友人たちからは、「これは生で見たかった」「来年この時期に香港に行くから案内してくれ」と多くの反響がありました。しかし残念ながら、彼らが来年香港に来てもこの景色を見ることはできません。次にこの祭礼が行われるのは、10年後の2035年なのです。
日常では決して見ることのできない「視点」は、時に言葉以上の説得力を持って人にインパクトを与えます。そしてそれは、二度と戻らない時間を止める「記録」としての価値を帯び始めます。
2年前の「原風景」に迫る再開発の足音
もう1枚は、私が本連載で何度も取り上げてきた、香港と中国・深センの境界線に位置する「馬草壟(Ma Tso Lung)」での1枚です。
[03:馬草壟から深センを望む夕景写真]

2023年9月の本コラム(第33回)で、私はこの場所を「逆転の風景」と紹介しました。目の前に広がるのは、摩天楼が林立する近未来都市・深センと、手前に広がるのどかな香港側の養殖池。
世間一般が抱く「大都会・香港」と「田舎の深セン」というイメージが、川一つ隔てて鮮やかに逆転している不思議な光景です。
Vol.33 ありふれた日常も実は貴重な記録 [田路昌也の中国・香港ドローン便り]
馬草壟には小高い丘があり、地上からもその対比を望むことができます。
しかし、ドローンを高度100メートルほどへと上昇させることで、地上からは周囲の山々に遮られて見ることができない「深センの街へと沈みゆく夕日」と「国境の風景」を、ひとつのフレームに収めることができました。どんなに高価なカメラを持っていても、空からでなければ撮れない1枚が、ドローンのおかげで手元に残りました。
[04:馬草壟から深センを望む雄大なパノラマ写真]

しかし、2026年を迎えた今、この風景は大きな転換点を迎えています。2025年の施政報告において、香港政府が「北部都会区」開発を加速させるための専用法の制定や、直轄の発展委員会の設置を打ち出したことで、計画は一気に具体化しました。 これにより、この長年守られてきた静かな湿地帯が、巨大なITハブへと変貌することがもはや決定事項となったのです。
かつて「いつかは変わるのだろうか」とファインダー越しに思いを馳せた景色は、今や「失われゆく記録」へとその意味を変えました。
DJI Mini 5 Proが描き出す「高精細な記憶」
今回のフライトを支えてくれたのは、DJIのお膝元・深圳で入手したばかりの最新機「DJI Mini 5 Pro」です。
[05:DJI Mini 5 PRO]

2年前の撮影に使った DJI Mini 3 Pro と比較して、特に夕刻の逆光という過酷な条件下での描写力が飛躍的に向上しています。手前の池の複雑な質感から、奥にそびえる深センのビル群のディテールまでを鮮明に描き出すその性能は、そのままデジタルアーカイブの精度向上に直結します。
国境付近の複雑な電波環境下でも、この最新の相棒は揺るぎない安定感を見せてくれました。
2035年の空に想いを馳せて
次に「酬恩建醮」が開催される2035年、この馬草壟の風景はどうなっているでしょうか。再開発が進み、新しいビルが林立するその場所で、今と同じようにドローンを自由に飛ばすことは、安全上の規制によって難しくなっているかもしれません。
しかし、たとえ空を飛べなくなっても、私は決して落胆はしないでしょう。その時には、この地に新しく建った香港側で一番高いビルの展望台に登り、そこから広がる新しい景色を眺めればいいのです。
私の手元には、2023年に見た「逆転の風景」があり、そして2025年末にMini 5 Proで捉えた「深センの街に沈む夕日」があります。ドローンによって残された多層的な記録――デジタルアーカイブさえあれば、新しい街の輝きの下に、かつて豊かな水面が広がっていた記憶をいつでも呼び起こすことができます。
2026年、物理的な景色がかつてないスピードで書き換えられる1年が始まります。私はこれからも「旅するドローン愛好家」として、そして変わりゆく時代を「記録する者」として、空からの便りを届け続けていこうと思います。