産総研と清水建設、低コスト・高性能な水素吸蔵合金タンクを共同開発
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センターの遠藤成輝 主任研究員、奥村真彦 主任研究員、鈴木泰政 特定技術担当主査は、清水建設株式会社と共同で、高性能かつ低コストな水素吸蔵合金タンクを開発した。
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水素はクリーンで持続可能なエネルギーとして期待されている。水素吸蔵合金を使った水素の貯蔵は安全性が高いため、都市部においても大量導入が期待されており、その際に必要な水素吸蔵合金タンクの高性能化と低コスト化が求められている。
今回、水素吸蔵合金への水素の吸蔵・放出に必要な熱管理のために、熱媒流路制御技術により汎用熱交換器を高性能化し、さらに、タンク内に面的に水素を導入する水素拡散板を用いて水素吸蔵性能を向上させることで、コストを抑えた高速水素吸蔵合金タンクの開発に成功した。
この技術により、水素の熱利用を含めて今後一層都市部における水素利活用の推進が期待されるという。
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なお、この技術の詳細は、2025年3月1日に「International Journal of Hydrogen Energy」に掲載された。
開発の社会的背景
水素はエネルギーを得る際にCO2を排出しないため、太陽光や風力などの再生可能エネルギーとの組み合わせによる持続可能なエネルギーシステムの構築が期待されている。その推進に向けた課題の一つが、水素の製造と貯蔵にかかるコストの低減だ。
貯蔵についてはいくつかの手法が提案され技術開発が進められているが、水素吸蔵合金タンクを使う手法は安全性が高く、長期間安定して水素を貯蔵できるため、都市部においても水素吸蔵合金タンクを設置することで大量の水素を貯蔵できる。ただ、高圧ガス保安法による規制により、製造した水素を概ね1時間程度で急速に水素吸蔵合金タンクへ充填することが求められる。
水素吸蔵合金タンクへ急速に水素を充填・放出させるには高度な熱管理が必要だ。水素を合金に吸蔵させる時には大量の熱が発生するが、その熱により合金の温度が上昇すると充填の効率が下がる。
逆に水素を合金から放出させる時には合金の温度低下が放出の効率を下げる要因になる。そのため、高度な熱管理を実現するための専用の熱交換部品が必要となり、水素吸蔵合金タンクの製造コストを押し上げる要因となっている。
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研究の経緯
産総研と清水建設はこれまで、非レアアース水素吸蔵合金を核とした建物付帯型水素エネルギー利用システムHydro Q-BiCの開発に取り組んできた(2018年10月1日 産総研お知らせ)。郡山市総合地方卸売市場での実証運用を経て、2021年の清水建設北陸支店を手始めに、最近ではテナントビルや工場、都心のイノベーションセンター(清水建設「温故創新の森NOVARE」)などに導入され社会実装が進んでいるが、都市部でのさらなる導入のためには、低コストかつ急速な水素吸蔵を可能とする高性能化が必要だった。
今回、汎用熱交換器を水素吸蔵合金タンクに転用し、併せて、熱媒流路などを制御することで高い性能を発現することを見出した。加えて、タンク内に水素を面的に導入する水素拡散板を採用することでさらなる高性能化を図り、低コストな水素吸蔵合金タンクの開発に至った。
研究の内容
今回の技術は空調機器などで使用される汎用熱交換器を水素吸蔵合金タンクに転用し、熱媒シミュレーションを駆使して熱媒流路を制御するものだ。これにより、汎用熱交換器製品の一般使用上のスペックの設計下限値よりも著しく遅い流速でも、水素吸蔵合金タンクに求められる性能を満たすことを見出した。併せて、タンク内の合金充填層に面的に効率よく水素を導入できる水素拡散板を採用することで、高水素流量での吸蔵・放出の運用が可能な低コスト水素吸蔵合金タンクの開発に至った。
従来の水素吸蔵合金タンクへ水素を導入する方法は、専用の小さな孔が多数あるフィルター管を数本、合金充填層へ内挿する形式が多く、これも製造コストを下げられない要因となっていた。そこで今回の研究では、“管”ではなく、“面”で水素を導入する量産が容易な水素拡散板を採用した。
今回開発した水素吸蔵合金タンクは、従来よりもコストを抑えたタンク設計が可能となり(ポイント概要図の中央写真)、水素吸蔵合金タンクのさらなる導入拡大に貢献する。
今後の予定
開発した水素吸蔵合金タンクは、産総研、清水建設、東京都港湾局、および他3者と共同で進めている「水素を活用した臨海副都心の脱炭素化に資する共同研究」において(2023年4月28日 産総研お知らせ)、地下熱供給プラントに導入されている。この取り組みを基に次年度から本格的に、水素混焼ボイラーによる地域熱供給の社会実装プロジェクトを進めていく。