近年、月に水資源がある可能性が示されている。将来的に月面で採取した水から水素と酸素を生成すれば、水素はロケットなどの燃料として、酸素は人が月面で生活するために利用できるという。
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高砂熱学工業は、建物で利用するエネルギーとして水素に着目し、約20年前より水素製造技術の開発を始めた。地上用の水電解装置を開発し、空調設備事業で培ったエンジニアリング力で、再生可能エネルギー由来電力を用いたグリーン水素利用システムの社会実装に取り組んでいる。
新たな領域での研究を進めるべく、2019年12月には、民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のコーポレートパートナー契約を締結し、ispaceとの協業を開始した。2024年冬に打ち上げが予定されているミッション2のランダー(月着陸船)に、当社が開発する月面用水電解装置を搭載し、月面に着陸した後、世界初の月面での水素・酸素生成に挑戦するという。
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月面用水電解装置は、2024年1月に開発が完了し、ispaceへの引き渡しが完了した。今後、ランダーへ積み込まれ、ランダー側との通信確認など、打ち上げに向けた最終調整を進めていくとしている。
月面用水電解装置の概要
構成
以下で構成されている。
①水を電気分解して水素と酸素を生成する電解セル
②電気分解に必要な水と生成した酸素をためるタンク
③生成した水素をためるタンク
④装置全体を制御する電気ユニット
⑤これらを強固に支えるパーツ 等
概形は、縦300mm×横450mm×高さ200mm。
特徴
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低重力下でも作動する流体制御 | 地球と比較して約1/6の重力でも流体の安定的な流れを確保 |
耐震性 | ロケット打ち上げ時や月面着陸時の振動・衝撃への機械的強度を確保 |
小型・軽量化 | 輸送用ランダーへ搭載するための条件をクリア |
熱制御 | 真空下でも装置温度を所定の範囲に保持 |
宇宙用の装置は、ロケットによる打ち上げや、宇宙環境での使用が前提となることから、地上用の装置と比べて晒される環境が非常に過酷で、打ち上げ後に装置を直接メンテナンスすることは物理的に不可能だ。
これらの課題を克服すべく、地上での水電解技術を応用し、部材の選定から始まり、各種試験(振動試験・熱真空試験・通信試験等)を行うなど、地上用とは異なる開発過程を経て装置を完成させた。
月面での水素・酸素生成ミッション概要
月面に到着後、水電解装置はランダー上部に搭載された状態でミッションを行う。電気分解に必要な水は地上から持参する。ランダーから供給される電力(太陽光発電)によりその水を電気分解し、水素と酸素を生成する。
水電解装置の運転操作や状態監視は、ランダーの通信設備を介して、東京日本橋にあるispaceのミッションコントロールセンター(管制室)から行うという。
今回のミッションは、“月面において水素と酸素を安定的に「つくる」技術を実証すること”であり、具体的には以下3つの実証を行う予定だ。
①水素・酸素をつくる | 世界初となる月面での水素と酸素を「つくる」を目指す。 |
②水素・酸素を圧縮する | 実用に際し、つくった水素と酸素をコンパクトに「ためる」ためには、圧縮する必要がある。圧縮レベルは地上用装置と同等を目指す。 |
③運転-停止を繰り返し行う | 実用に際し、水素と酸素の需要に合わせた運転・停止が必要だ。運転開始から停止までの一連の機能を繰返し安定的に発揮できることを目指す。 |
電源のオンオフや、水素の密度を変えるなど、複数の操作に取り組むとしている。