独eVTOLメーカーのVolocopter社は、大阪府による「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」に参画し、2025年4月に大阪の夢洲(ゆめしま)で開催される大阪・関西万博にあわせて商用飛行を進めており、使用を予定する2人乗りeVTOL機「VoloCity」は、国土交通省からエアタクシーの型式証明申請が3月21日に受理されることが予定されている。
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それに先駆けて大阪で開催される、VoloCityの実物大モデルを日本で初公開する「ヴォロコプター・アーバン・モビリティ・ショーケース」にあわせて来日したCCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)のクリスチャン・バウアー氏と広報を担当する糸賀晶子氏に、Volocopter社におけるUAM市場に向けた取り組みや、大阪を含む各地域での展開について話を聞いた。
—:Volocopter社の概要を教えてください。
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バウアー氏:当社は2011年に航空史上では初となる有人の電動離着陸飛行を成功させ、ギネスにも登録されたUAMのパイオニア企業として成長を続けています。ドイツのブルッフサールに本社があり、600名以上の正社員と45ヶ国以上から集まる優秀なスタッフによるチームを構成しています。ドローン技術を活かしたエアタクシーやカーゴドローンを自社開発し、世界の大都市を中心にUAMサービスの展開を進めているところです。
—:現在開発している機体はどのようなものがありますか?
バウアー氏:大きく3タイプあります。1つは今回大阪で運営を予定している「VoloCity」で、主に都市圏での短距離から中、長距離の移動に適した2人乗りの完全自律飛行によるマルチローター機です。人が乗るタイプではもう一つ、郊外や都市間の長距離飛行に適した、4人乗りのリフト&クルーズ式の「VoloRegion」を現在開発中で、先日試験飛行に成功しました。残る一つは物流に使用するマルチローター型のカーゴドローン「VoloDrone」で、200kgのペイロードを持つパワフルさが特徴です。
3つの機体のベースとなる技術は同じものを使用しており、「VoloDrone」は「VoloCity」を物流向けにデザインしたものでローターの数も同じ18個使われています。「VoloRegion」は巡航速度と飛行距離を伸ばすために、6つのローターと2つのプロペラファンを使用したシャープなデザインとなっています。
機体の開発以外にUAMを展開するエコシステムを構築しており、オペレーティングシステムの「VoloIQ」はクラウドと地上インフラを統合し、自律飛行の実現も目指しています。物理的なインフラとしては、機体を離発着させる「VoloPort」の提供も行っています。
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—:バウアー氏と糸賀氏はそれぞれどのような仕事を担当しているのでしょうか。
バウアー氏:私の仕事は、チームを率いてのファン獲得や会社の管理、グローバルなパートナーシップの拡大と協業に向けた活動がメインで、大阪のプロジェクトも担当しています。モビリティ分野で15年以上の経験があり、ルノーと日産などの合併事業をはじめ、ベンチャーの資金調達やIPOプロジェクトに参加したこともあります。Volocopter社に入社する前はMercedes-Benzに在籍したこともあります。
糸賀氏:私は2021年10月から入社し、本社をベースに世界に向けた広報の仕事を担当しています。大阪での運用があるので日本語が話せる条件で採用されましたが、帰国子女で海外生活も長いですし、以前にホンダで広報担当だった時は、F1チームと一緒に世界を飛び回っていました。
—:UAMの分野に入ろうと思ったきっかけを教えてください。
バウアー氏:新しいモビリティのモードとして、電子的なアーバンモビリティが生まれる現場のワクワクする感覚を体験したいというのが理由です。移動というキーワードが大きく見直されようとしているタイミングで、実際にそのデザインにまで関われるということでVolocopter社を選びました。
糸賀氏:私もバウアーと同じで自動車業界から見て、Volocopter社のビジネスにとても魅力を感じました。当社にはいろんな分野のスペシャリストがいますが、自動車業界からが比較的多く、技術や将来を考える上での親和性が高いのが理由ではないかと考えています。
—:2024年に計画されているパリやシンガポールでの商用飛行について詳細は決まっているのでしょうか。
バウアー氏:大都市でのUAM商用飛行は世界でも事例が無いため、運用ルール、法規制、料金設定など決めなければならないことがたくさんあります。パリでの運用はマクロン大統領が積極的なので決定事項だと考えていますが、実現には航空法に基づく最高難度とも言える安全性をクリアしなければならず、1機ごとに承認が必要ですので、開発チームは性能を高めることも含めてぎりぎりまで調整を進めています。
そういう事情もあって今回の展示は実物大のモックを使用していますが、実際に見てVoloCityが大阪の空を飛ぶのを実感していただくことも、商用化に向けた大事な一歩だと考えています。
糸賀氏:大阪での運用に関してはまだルートも何も決定していませんが、現段階ではチケットを販売して乗っていただく方向で考えています。それも観光ツアーになるのか、移動が目的になるのかは決まっておらず、そういう意味では市場のニーズをこれから見極める必要があり、ビジネスとしてもVoloCityを販売するのはまだ先だと考えています。ただ将来的に大阪で運用を継続するのであれば、輸送や開発コストやを下げるためにも地元で開発する可能性はあるかもしれませんし、最初に大阪府へ当社が下見に来た時からそうした話が出ていたとは聞いています。
—:VoloCityには日本の会社や製造技術などは使われているのでしょうか。
バウアー氏:本体に使用されているカーボン素材は東レのものですし、先日提携を発表した積水化学工業も材料開発で協力する予定です。まず先に商用飛行を定着させることが需要ですので、万博はそういう意味でも重要な機会といえるでしょう。
糸賀氏:当社は万博をデモンストレーションの場ではなくサービスインの場と考えており、大阪府の「空の移動革命社会実装大阪ラウンドテーブル」に早くから参画したのもそのためです。先日は「東京ベイeSGプロジェクト 先行プロジェクト」にも採択され、日本は重要なパートナーになっています。
—:万博では他にも空飛ぶクルマが参画することを表明していますが、他社との違いはどこにあるでしょうか。
糸賀氏:最も大きな特徴は安全で安定した快適な飛行性能です。他社で計画されている機体は基本的に一人乗りで、当社はサービスとして搭乗できるのは1人ですが機体は2人乗りで、移動時間を快適に過ごせるようデザインされています。機内の居心地も良く、大きな窓から景色を楽しむことができます。高度も観光ヘリより低いですし、音も静かなので、今までにない飛行体験を味わえるでしょう。
バウアー氏:当社は商用運用の実用化に4年の歳月をかけて取り組んできましたが、いよいよ実現に近づいており、大阪でもみなさんに素晴らしいサービスを提供できる日をとても楽しみにしています。
2025年の大阪・関西万博でサービスインを目指しているとのことで、はやく日本での試乗を期待したい。また日本での機体生産の可能性もあり、もし実現したら日本でのeVTOL機の普及に大きく貢献するだろう。