選挙イヤーで深まる米中対立
2020年は新型コロナウイルスのパンデミックという、歴史に残る出来事があった年になったが、世界にとってもうひとつ大きなイベントが控えている。それは米国の大統領選挙だ。もちろんそれは私たちにとって、外国の指導者を選ぶ選挙に過ぎないが、米国という超大国にどのようなトップが君臨するかは、日本人の生活やビジネスにも大きく影響してくる。
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さらに大統領選を控えた時期になると、米国の政治は大きな動きを見せることが多い。当選を狙う候補者が、有権者にアピールするために大胆な行動に出るためだ。特に現職の大統領が再選を狙う場合、米国内の有権者に「ウケる」内向きの政策が取られる傾向がある。貿易摩擦が発生している国に対して、「国内の雇用を守る」などの名目で、一方的な制裁を発動するといった具合だ。
いま発生している米国と中国の対立も、根本的な原因はさまざまなところにあるものの、それが過熱している要因は米国が選挙イヤーであることが大きいと言われている。現職のトランプ大統領は熱狂的な支持者を抱えているものの、その反面で不人気の割合も高く、選挙に向けてアピールできる成果を欲している。そこで「パンデミックの原因をつくり、経済においても不正な競争をしている」(これはあくまで米国の主張であり、その正しさをめぐる論争には立ち入らないでおきたい)中国を叩くことで、手っ取り早く国民の支持を得ようというわけだ。
China has caused great damage to the United States and the rest of the World!
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— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 6, 2020
7月6日、トランプ米大統領は「中国は米国と世界中の国々に大きなダメージを与えている!」とツイート
その一環として、トランプ大統領はさまざまな中国製製品の締め出しを図っている。ICT関連製品や衣類、さらには若者に人気のアプリまでと、その対象は幅広いが、その中にはドローンも含まれている。
すでに米軍が中国製ドローン(この場合は軍用の大型UAVではなく、小型UAV)を購入することを禁止する措置が取られており、今年8月には、その代替となる製品の認定が行われている。また3月には、軍だけでなく米連邦政府内の各組織が外国製ドローンを購入・使用することを禁止する大統領令が準備されていると報じられた。
そのような大統領令はまだ発令されていないが、すでに米内務省はDJI製ドローンの利用を取りやめ、中国製部品を使用しているドローンの購入計画も白紙に戻している。このような状況下で、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、米中対立が意外なところに影響を及ぼす可能性が懸念されている。それは山火事被害の拡大だ。
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内務省の決定が山火事被害を拡大した可能性
近年、米国では大きな山火事が発生するようになっている。その背景には地球温暖化があると指摘されているが、原因はともあれ、その被害は拡大する一方だ。特に被害の大きいカリフォルニア州では、すでに現時点で、昨年の約20倍もの規模の山火事が発生していると報じられている。その合計は200万エーカー(約8100平方キロメートル)に達しており、これは実に、東京23区の面積(約628平方キロメートル)のおよそ13倍に相当する。
カリフォルニア史上最悪の山火事が発生していることを伝えるニュース
こうした山火事に対し、ドローンが山火事の監視や、被害状況の確認に利用されるケースが増えている。たとえばロサンゼルス消防局(LAFD)は、DJIと契約し、いち早く消防活動におけるドローン活用を模索してきた。2019年の時点ですでに11機のドローンが配備され、そのパイロットも自ら育成しており、今後もドローンの配備を大幅に拡大していく計画であることが報じられている。
しかし前述のような「政府内から中国製ドローンを排除する」という方針が強化されれば、州政府や、市区町村の自治体レベルでもその使用に支障が出かねないと懸念されている。米軍のように、その代替となる製品の導入がスムーズに進めばまだ良いだろう。しかし潤沢な資金を有している組織ばかりではなく、またDJIのように高度なテクノロジーを有しているドローンメーカーの数は限られている。そのために、中国製ドローンの排除が進めば、山火事の対応にも影響が出るのではないかというわけだ。
実は前述の米内務省自らが作成したメモが流出し、注目を集めている。それによると、内務省が予定されていたドローンの購入を取りやめたことで、ドローンを活用した野焼き(山火事の発生を制御したりする目的で、計画的に森林等を焼き払うこと)が計画の約4分の1しか実施できなかった(本連載のVol.3でも野焼きにおけるドローン活用について扱っている)。それと山火事被害の拡大が直接的に結び付けられているわけではないが、野焼きによって防火帯を設置できていれば、それだけ被害が食い止められていた可能性は高い。
米国、特にトランプ大統領は、中国製品の排除を他国にも強く求めている。いまのところ、ドローンはその対象に入っていないが、ICT製品ではすでに具体的な要求が行われており、それに従っている外国政府も多い。もちろん安全保障上の懸念を無視することはできないが、ドローン活用によって生まれる直接的な利益を軽視することのないよう、日本に住む私たちも注意しなければならないだろう。