世界初の電気運搬船は、2025年の完成を目指しており、2026年より国内外で実証実験を予定している。また、電気運搬船を活用した海上送電事業を推進するための新会社「海上パワーグリッド株式会社」を2023年の第3四半期中に設立する。この会社は、電気運搬船の所有、国内外への電気運搬船の販売および海上送電のオペレーションを担当し、国内外の事業パートナーを募集している。
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さらに、海上送電という新しい概念やカーボンニュートラルポートの実現に向けて、九州電力株式会社と横浜市港湾局と連携し、再生可能エネルギーを電気運搬船を用いて送電する実証実験について共同で検討するため、それぞれ覚書と連携協定書を締結した。
2026年から国内外の実証実験を行う予定のPower Ark 100の初号船「X(船名)」は、船長140メートルの電気推進船。船に搭載される96個のコンテナ型船舶用電池は、合計で241MWhになる。
船に搭載する蓄電池は、同社独自設計のモジュールで、安全性に優れたリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池セルを使用し、6,000サイクル以上の長寿命を実現。また、バッテリーシステムは非常にスケーラブルな設計となっており、ミッションに応じて搭載する電池を増やすことにより、Power Ark 1000やそれ以上に大きなサイズの電気運搬船をつくることも可能。
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さらに、専用のガス排出機能・消火装置を備え、バッテリーシステムや充電コントローラー、電力変換システムなどをリアルタイムにモニタリングすることで、安全性を担保しているという。すべての蓄電池は、DNVやClass NKなどの様々な国際船級認証や適用規格に準拠し、最も厳しいテスト条件を満たした製品として、岡山県内で自社生産し、2024年中に出荷する予定。
日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げ、再生可能エネルギーの導入に取り組んでいる。しかし、太陽光や風力発電などの出力が変動する再生可能エネルギーの大規模導入に伴い、余剰電力の発生や電力供給の安定性の確保が課題となっている。例えば、北海道には、約930ギガワット(GW)という、膨大な再生可能エネルギーのポテンシャルがあるものの、北海道自体の電力需要が少なく、北海道から本州への送電能力が不足しているため、余剰の電力を活用方法が課題となっている。
2021年時点の北海道で利用されている再生可能エネルギーは4.8ギガワットだが、2050年には61.7ギガワットにまで増えると予測されている。しかし、その頃には北海道から本州への送電能力が7.2ギガワットまでしか増えない予定だという。このままでは、再生可能エネルギーの増加に対して送電能力が追いつかなくなると予想されている。
これらに対処する方法として、余剰電力を電気運搬船の電池に貯めておき、港周辺の停止・廃炉予定の火力発電所などの系統設備から放電し、陸上送電網を経由して、電力需要家へ送電することで、再生可能エネルギーのさらなる有効利用が可能となるとしている。
また、再生可能エネルギーのポテンシャルの高い地域と都市部などの電力需要地が離れていることが多いため、送電手段の強化も重要な課題となっている。現行のリチウムイオン電池のエネルギー密度において、電気運搬船は陸から陸への短距離の海上電力輸送に最適であり、両地域をつなぐ地域間連系線を補完する役割を果たせるとしている。
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例えば、再生可能エネルギーのポテンシャルが高い地域である、九州や北海道から需要の高い本州への送電や、離島間の送電などへの活用が考えられる。電気運搬船は、海を越えて新たな送電ネットワークを構築し、再生可能エネルギーの貯蔵・供給・利用を推進する。
将来的には、電池のエネルギー密度がさらに上昇し、コストが低減することで、洋上風力発電所から陸地へのより長距離の海上送電が可能となる見込み。特に、地震が多く深い海底に囲まれた日本では、電気運搬船は有効な選択肢だという。海底ケーブルの故障や修理までの長いダウンタイム、超高圧接続・変電のコスト等の問題が解消される。
これにより、今まで海底送電ケーブルの敷設が困難だった地域でも、風力発電所の設置が可能になるという。電気運搬船による海上送電の活用は、洋上風力にまつわるさまざまな課題を解決する。この技術は、日本だけでなく世界中の再生可能エネルギーの普及に貢献するとしている。