世界最大級の国際テックトレンドイベント「CES(シーイーエス)」が、1月9日から12日にかけて米国ラスベガスで開催された。制約無しでの開催は実に4年ぶりで、会場には150か国以上の国や地域から13万5千人以上が訪れ、パンデミック前に戻ったような盛況ぶりを見せていた。
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CESを主催するCTAは、以前から対象とするジャンルを年々増やしており、今やその数は50に近づいている。今年の展示数は4300以上と最大規模となった2020年の4400に近づくほどであったが、出展傾向はだいぶ変化しており、ドローン関連の展示数は以前に比べて減少傾向にある。
だが、出展の密度としては以前より上がっており、トイドローンや新しい機体が並ぶ代わりに、物流やマッピング、監視などビジネス用途で専用のシステムや機能と共にカスタマイズされたドローンがあちこちで見られた。
驚いたのはエアモビリティ市場に向けた日本でいうところの"空飛ぶクルマ"があちこちで展示されていたことだ。エアタクシーのサービスが各都市で始まり、パリ・オリンピックでのお披露目も予定されるなど、成長が期待される市場に向けて各社が参入を進める動きがはっきりと感じられた。
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クリーンで安全な都市の移動を実現する
CESでの発表に最も力を入れていたのがSupernal社だ。ヒュンダイモーターグループは新しく立ち上げたアドバンスド・エアモビリティのブランドのために単独で大型ブースを設営し、展示会初日に招待客やメディアに向けて発表会を行った。ビジネスとしては機体の開発をはじめ、エアモビリティの運用から管制官システム、専用ポートの設置、さらには保険まで統合されたプラットフォームを提供する。
ブース内では初公開された最新eVTOL「S-A2」の実機モデルが話題になっていた。エヴァ初号機を彷彿とさせる独自カラーをした機体は、8つのチルト式ローターで早くて静かな上に安全でクリーンな移動を実現する。
定員はパイロットを含めた5人乗りで、快適性を高めるため機内を広くし、荷物も持ち込めるが、モジュールを入れ替えて貨物専用にすることもできる。2027年からテストを始め、2028年にサービス開始予定しているが、2月に再度シンポールで発表会を行い、7月にさらに大きな発表を予定しているという。
続いて注目を集めていたのがXPENG AEROHT社のブースだ。メルセデス・ベンツなどモビリティ分野の出展が集まるウェストホール内に展示された「eVTOL Flying Car」は、折りたたみ可能な4つのローターを搭載した飛行システムを備えるスーパーカーとしてデザインされ、陸と空のデュアルモードコックピットによってコントロールできるようになっている。
昨年のCESではASKA社が同様のデザインをした空飛ぶクルマを発表していたが、実装可能性という点ではXPENG AEROHT社の方が説得力はありそうだ。
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同じウェストホールにある三菱電機US社のブースには、ドローンベースの物流・運航管理プラットフォーム「AnyMile」で使用する、Speeder Systems社の最新機「S30」のモデルも展示されていた。
2020年に設立されたイギリスとオランダのスタートアップが開発する機体は、鳥のように気流に乗って飛行するというユニークな構造によりゼロエミッションを実現する。現時点では人を乗せず、17kgの荷物を150kmの距離まで運べる物流用でしかも海上専用での運用を目的としており、今年3月にいよいよ試験飛行が行われる。
1人乗りタイプが続々登場
スタートアップが集まるEureka Parkで目を引いたのがフランスのDTA社の2人乗りeVTOL機だ。小型ヘリコプターのような見た目からわかるように電動化以外はあえて特徴的な機体にはせず、クリーンで安定した飛行性能を実現することに特化している。
すでに累計で30万時間以上の飛行を行っており、2026年の販売に向けて100ユーロでプレオーダーを開始している。
CES会場での展示はなかったが、会期中にメディア招待イベントとしてPepcomが開催するDigital Experience! では、Pivotal社の新型eVTOL機「Helix」のモデルがプレオーダーを受付開始にあわせて披露された。
8つのプロペラを備えたチルトウィングの機体は、シリコンバレーで10年以上かけて開発された。ジョイスティックで操作する1人乗りのパーソナル機で、飛行範囲は約20マイル(約32km)と発表されている。ヘリやセスナのような飛行免許は不要だが、事前にシミュレーターと飛行セッションによる訓練が必須となり、6月の販売を予定している。
パーソナルな移動ができるエアモビリティはドイツのシェフラーグループのブースにも展示されていた。オーストラリアのFlyNow Aviation社が開発する1人乗りのeVTOL機「FlyNow」は、時速130kmで50kmの距離を約30分飛行できるエアタクシーとして使用できるほか、物流でも応用できる。
現地では詳細についてあまり話を聞くことはできなかったが、先日取材したSXSW SydneyでもオーストラリアがeVTOL機の開発に力を入れていることが紹介されており、世界に向けて販売の動きを強めていることが伺えた。
その他にもエアモビリティ関連はコンセプトのみのものも含めて10近く展示されており、すでに一つのカテゴリになりつつあるといえる。今年から来年にかけて各都市でサービスがはじまれば、来年のCESではさらに多くのエアモビリティが展示されることが期待できる。
いずれにしても、ドローンという枠組みは大きく変わり、展示エリアや内容もかなりばらつきがあることから、全体像を把握するのはなかなか難しくはなっている。だが、個々の展示内容はレベルが高く、話題のAIを用いた航行システムなど、かなり実用的なものになっている。
今後必要なのは自動車の自動運転と同様に、社会の受け入れ体制づくりであることから、今後のCESでもプレゼンスを発揮する存在になってくれることが期待できそうだ。