成長を続けるドローン産業は、関連する技術領域が幅広く、産業がレイヤー構造になっているため基軸となるドローン企業や技術が分かりづらい。そのドローン産業を先導するトップランナー企業に、ドローンビジネスの今と、今後の展望をインタビューするシリーズだ。
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第2回は、ドローンショービジネスを先導しているドローンショー・ジャパン代表の山本雄貴氏にインタビューした。
ドローンショーは、10分間という限られた時間で魅せる作品
—:まずはドローンショー・ジャパンの事業内容について教えていただけますか。
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ドローンショー・ジャパンは2020年に設立しました。会社名の通り、ドローンショー事業1本でやらせていただいております。ドローンショーの中でも、皆様がイメージするアウトドアドローンショーと、最近では室内空間で自動制御するインドアのドローンショーの2本軸になります。
—:2022年にドローンショーは何回実施されたのですか。
2022年は合計40回です。延べ件数では、100回以上はやらせていただいています。2022年前半はまだCOVID-19の影響でイベントができませんでしたが、今年はたくさんできると思っています。
—:ドローンショー・ジャパンが手掛けたドローンショーの事例動画を見ながら、解説いただけますか。
これは円谷プロダクションさんと神戸市さんと日本イルミネーション協会さんが主催となり、神戸市でやらせていただいた事例です。ウルトラセブンの誕生55周年記念イベントで実施しました。
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このときは500台のドローンを飛ばして、これまでと全く異なり10分間という限られた時間の中で、どれだけストーリー性を持たせて一つの作品として作り上げることにかなりの時間をかけました。当然プロのクリエイティブディレクターの方にもご協力いただいて、音楽もしっかりと作り込んで、本当の意味での作品を作り上げたと思っています。
—:これは本番の何カ月ぐらい前から準備を始めたのでしょうか。
ドローンショー・ジャパンにご相談が来たのは、半年前ぐらいになります。お話が来てからいろいろ企画を詰めていましたが、なかなか企画自体が前に進まない。クライアントさんもドローンで何ができるかも分からない状態からのスタートでしたので、企画を進めていくのが難しかったというのはあります。
そのため、最終的に企画が固まって制作に着手したのは、もう本番1カ月前ぐらいからでした。
—:1カ月でクリエイティブを作り込むのは、大変だったのではないでしょうか。
時間がなかったので、とても大変でした。逆に言えば1カ月で、なんとか今までの経験を活用して作り上げることができたということです。やはり内容が固まって、あとはもう作り込むだけということであれば、1カ月で何とかなるという実感を得ました。
—:今回、本番前に別の場所でデモストレーションされたということですが、それは本番の何日ぐらい前でしょうか。
実際に作り込んで最終的なテストフライトを実施したのは、本番の前週です。1週間前で、ようやくフライトでした。私たちの会社は石川県にあるので、石川県内の公営の野球場をお借りしてテストフライトをいつもやっているんですが、やはりテストフライトは1回ではうまくいかないんですよね。
円谷プロさんのクオリティーコントロールもあり、ちょっとした色味の違いを大急ぎで修正しながら進めました。作り込みのために、直前まで粘ってブラッシュアップを進めていきます。
これからキャラクターものや版権IPものはどんどん出てくると思いますし、私たちも積極的に組ませていただきたいというのはあります。しかし、これまで以上にしっかりと作り込んで世界観を壊さないように、企画と演出をつくっていかなければいけないと感じています。
—:今回のドローンショーは海の上で実施されたのでしょうか。
会場は神戸のメリケンパークの敷地でしたが、ドローンが飛び上がって少し海の方にせり出して演出するという感じでやりました。
今回は1台もドローンが落ちませんでした。1日2公演、2日間で合計4公演だったのですが、1回だけ不調のドローンが直前になって発覚して一度だけ飛ばさなかったというのはあるのですけれど、ドローンの落下はないです。
—:今回のドローンショーの課題は何かありましたか。
課題は、現場のオペレーションをもっと洗練させなければならないことでした。やはりどうしても属人的な部分も多くて、飛行させるドローンの台数が多ければ多いほど現場の人数が多くなりました。オペレーションのクオリティを担保していかないと、事故につながるかなという危機感はあります。
今回、地元関西のボランティアの方と一緒にやらせていただいたのですけれども、やり方をしっかりと伝えるマニュアルが必要だと感じました。
—:今回のドローンショーの現場は、どのような体制だったのでしょうか。
ドローンショー・ジャパンからは6人のスタッフ、ボランティアが4名、合計10名体制でした。今回、私たちも500台で実施するのは初めてだったので、ちょっと念には念をいれて、多人数のスタッフで開催しました。
—:今回ぐらいの規模のドローンショーをする場合、10名現場スタッフがいれば直前で何かトラブルがあっても対応できそうでしょうか。
500台規模であれば、いけると思います。
日常的に全国で、ドローンショーが見られる世界にしたい
—:ドローンショー・ジャパンは、パートナー企業と提携しながら、全国で事業展開されています。そこを詳しく説明いただけますか。
現在はドローンショー・ジャパンの直接営業だけではなくて、株式会社エイチ・アイ・エスをはじめ、全国のいろいろパートナーさんと私たちのドローンサービスを販売するパートナーシップを結ばせていただいております。
これは私の思いなのですけれども、ビジネスとしてドローンショーをやっていくというのはもちろん、イメージしているのは、中国や中東のように日常的に全国いろいろなところで、ドローンショーが見られるという世の中にしていきたいと思っています。それを加速させるためには、やはり自社だけではなく、いろんな方々にご協力いただいて一緒にやった方が早いと思っています。
—:パートナーさんの代理店さんの状況はいかがでしょうか。
契約締結までいっているのは、各地域で1社ずつ現在5社ぐらいです。あまり増やしすぎてもパートナーさんのメリットがなくなりますので、各エリア2、3社が理想的なのではないかなと思っています。
—:今まで様々な困難にぶつかってきたと思いますが、そういったエピソードを教えていただけますか。
会社設立時から、自分たちでドローンを作ろうとは思っていませんでした。私自身もドローン業界に元々いたわけでもないので、なんとなく自動操縦のソフトウェアだけ用意して、中国のOEMので初めはやっていました。
それで100台ぐらい作って飛ばしてみたのですが、まあよく落ちるんですよ。何回も飛ばしてみて、全然うまくいかないなみたいなことで、すごく時間を使ったんです。結局、ほぼハードウェア起因のバグなんです。
もう本当に初期不良で、単純なはんだ付けが外れているとか、バッテリーのケーブルに不備があるなどのレベルでした。そこでハードウェアの知識も、やっぱり自分達で積み重ねていかないと安全を担保することはできないと思いました。そこで自社開発に舵を切ったというのが背景です。
—:その流れで自社開発のドローンショー用ドローンになったのですね。
ようやく初号機を「unika」という名前で出しています。統合を表すUNIVERSEとかUNITEとかそういった"uni"と、私が金沢で生まれたので、金沢の"ka"を使って「unika」としました。
—:このドローン「unika」は日本製でしょうか。
日本国内で組み立ては行っています。ただパーツは、海外製のものはたくさん使っています。モーターとかプロペラとかは、国産で作りたいのですが、まだまだそれはこれからの課題ではあります。
—:ドローンショーのイベント時の困難に直面したエピソードも教えていただけますか。
会社設立から困難の種類がどんどん変わってきています。初期の頃は時間通りに決められた台数をしっかり飛ばせるか、という部分でした。まず決められた台数が飛ばないことや、不具合は可能な限り無くそう、という部分から始めました。
次の課題として、イベントでは音楽にきちんとリンクして飛ばす必要があるのですが、それがなかなかうまく行きませんでした。
最近は、その2つの課題は何となくクリアしたので、ここからは演出面です。限られたドローンショーの10分間の中で、どれだけ盛り上がる箇所をつくってお客さんに感動を与えるか、そういう作り込みの課題が出てきました。
—:演出面を課題として改善を進めているのですね。
今、クリエイティブディレクターで東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の閉会式をやられた方と一緒に作り込むことが何度かありました。そういう演出のプロの目線からドローンショーを、ある意味料理していただいて、海外にも負けない演出でドローンショーを作り込むことを取り組んでいきたいと思っています。
ドローンというデバイスを使った照明技術
—:ドローンショーの実績を積み重ねてきましたが、ドローンショーに適任の人材は見えてきましたか。
ドローンショー自体がエンタメというわけではないのです。最近思うのはドローンというデバイスを使った照明技術なんです。
ライブやコンサートの照明はしっかりと音楽とシンクロしています。そういうセンスをわかっている人が、クリエイターだけではなくて、現場のオペレーターにもすごく向いているのではないかと思います。
ドローンショーの狙えるマーケットは1,000億円を超える
—:全国でドローンショーの実施が増えてきていますが、市場規模はどのくらいとみていますか。
一般の資料ではまだその数字を見たことはないのですが、私たちもベンチャーキャピタルから資金調達する過程で自ら調べてみたところ、花火やプロジェクションマッピングが国内だけでも600〜700億円ぐらいあると思います。
ドローンショーも先ほどライティング技術とお伝えしたのですが、イベントだけではなく、広告とかPRとかでも活躍できるとは思っております。広告PRのマーケットも加えると少なく見積もってもおそらく1,000億円は超えてくると思っています。
—:広告PRの分野で、今後ドローンショーが拡がっていく可能性はすごく感じます。
広告PRは仕込んでいますが、実際行ってはいません。やはり広告PR目的だと、どうしても東京都内など人口が多いところで実施する方が絶対いいのです。そういうところほどドローンを飛ばせる場所がないので、そこでなかなか企画が進まないというのもあります。
あとはやはりルール。広告目的だとドローンのルールだけではなくて、東京都内だと屋外広告物条例ですね。そういったものも気を配らないといけないので、これから勉強していろいろな方に助けを乞う必要はあるかなと思っています。
—:ドローンショー・ジャパンの今後の展望を伺っていきたいのですが、今はスタッフ何名ぐらいなのでしょうか。
2023年4月時点で総勢14人になりました。
—:今後、ドローンショー・ジャパンの規模をどこまで大きくしていく見込みでしょうか。
計画上は、2027年にIPOをまず行うことが大きなグランドプランではありますが、そこまでは少数精鋭でいきたいとは思っています。会社としては30人〜40人くらいの規模で、あとは外部のパートナーさんと組みながら全国展開するというのがイメージです。
—:ドローンショー・ジャパンのマイルストーンを教えていただけますか。
私自身は、元々ドローンショーを普及させたくて、ドローン業界に入った人間なんです。このドローンの現状を開発も含めて見ていると、やはりエンタメとしてのドローンショーだけで終わらせるのは、すごくもったいないと思っています。
僕たちの群制御技術、つまり複数のドローンの自動操縦を1台のパソコンで制御するものは、エンタメから飛び出して、今後いろいろなところで活躍できると思っているのです。
そのためにしっかりした企業体質を作っていかなければいけなく、そのためにはやはりIPOは必須だと思っています。
—:ドローン業界人と話していて、ドローンの認知度はほぼ100%あるけれど、イメージや社会的許容度がまだまだ足りていないと感じます。今後ドローン産業が発展するためには、どうお考えですか?
全く同意見です。今は呼び名がないから一括りにドローンって言っていますが、自動操縦とコントローラーで操縦するドローンとは別物だと思います。大きさも我々の開発したドローンをお見せすると、こんなに小さいドローンなんだとおっしゃいます。皆さんがイメージしているのが物流ドローンなど大きいドローンですので、何か恐ろしいイメージになっていると思います。それはもうちょっと細分化していく必要があるなと思います。
例えでよく使うのですが、料理するための包丁も使い方を間違えれば凶器にもなります。刃物と言うと、何となく怖い、危ないみたいな。でも、それぞれ用途に応じて名称が決まっているわけなんですよね。ドローンの業界もそういう風にしていく必要はあるかなと思っています。