降雨の中で開催された「DRONE EXPO 2022 in Aichi」。全天候型ドローンが勢揃いとなり、すぐ近くまで来ている"ドローン前提社会"をひと足はやく見るには最高のコンディションの中でのデモフライトとなった。今回は、デモフライトを行ったPRODRONE産業機やその取り組みを紹介していく。
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「DRONE EXPO 2022 in Aichi」で披露されたデモンストレーションの詳細
効率的な機体運用でミッション遂行! | 豊田市消防本部
サイレンとともに「FIRE DRONE」とラベリングされたハイエースが到着。荷台から赤いPRODRONE PD4-AW2が取り出され、即座に離陸体制に入った。登山者が遭難し、その要救助者を捜索するとともにホイッスルをドローンから投下し、要救助者に吹いてもらうことでその場所も知らせてもらう訓練だ。
ハイエースの座席2列目にはモニターが設置され、ドローンからの光学FPV映像や赤外線カメラの映像が映し出される。光学映像と赤外線映像が同時に表示されるのでどこに要救助者がいるのか、それともいないのか、判断がしやすい。また、モニターは社内に常時固定されているため設置の手間もなく、現場到着後すぐに利用可能だ。
豊田市消防本部でドローンが本格運用されるようになったのは令和元年から。隊員は12名で、すでに30〜40件の稼働があるという。もちろん訓練も怠りはなく、週に1〜2回はドローンの飛行訓練をしており、大きな消防訓練がある場合はセットでドローンも出動しながら訓練に参加、飛行訓練と災害想定訓練と分けて行っているとのことだ。
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レーザースキャナで夜間でも災害状況把握が可能! | 快適空間FC
PRODRONE PD6Bにレーザースキャナを搭載して、測量事業を展開しているのは快適空間FCだ。秒間75万発のレーザーを発射でき、樹木の葉の隙間にレーザーを通すことで山間部などの地形も測量できる。ダム建設前の測量では、通常数ヶ月かけて行ってきた30haの測量が、ドローンによるレーザー測量を行うことでほぼ1日で完了したという。
また、レーザーは夜間であってもその機能に問題がないため、災害時に土砂崩れした場合でも夜間にレーザー測量することで最短で地形を把握、捜索チームがいち早く計画を建てることができる。災害時には72時間が生存のラインと言われるくらい迅速な動きが重要となる。その中で、全天候型のPD6Bがレーザースキャナを搭載してすぐに現況調査できる体制は大きな意味を持つことになる。
実際の患者に薬を届ける実証事業も!クオールホールディングス
「デジタル田園都市国家構想」の実現に向けて、山間部・離島など地方において医療リソースが届かない「不便」「不利」「不安」の解消を行う目的で実証事業を行っている。
広島県江田島市では、官公庁の補助金事業ではなく企業主導型の医薬品配送実験を実施。強風下においてLevel 3(山間部や離島における補助者なしの目視外飛行)で実患者に、処方箋に基づいた実際の薬を患者宅まで届けることに成功している。
また、今治市来島において国家戦略特区地域における実証事業としてLevel 2のドローン配送を実施。コンテナのトレーサビリティを強化し、通常医療従事者が受け取らなくてはならない医薬品を非医療従事者が受け取るという例外を作った。
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将来的には、薬局が患者宅までドローンで薬を届けられれば…と近未来像を描いている。
社会実装早期実現に向けたPRODRONE開発、機能紹介
PRODRONE開発部長 伊藤聖人氏による開発中の機能説明があった。
DO 178CのDesign Assurance Levelで「故障すると即墜落となるRiskA」、「全く影響を与えないRiskE」等の5段階で規定されていることに基づき、PRODRONEではリスクレベルを下げるための機能を開発していることを説明した。
高精度ドローンには、複数のマイクロコンピュータユニットが搭載されており、普段は別々のタスクをこなしている。メインのマイクロコンピュータユニットが異常を起こした際、他の機能モジュールの異常を察知しモジュールの代わりを担う振る舞いをすることで、フェイルセーフが実現し冗長性をもたせている。現在、開発中だが、年内から実装していくと発表した。
120分の長時間飛行ヘリコプター!PRODRONE PDH-GS120
ガソリンエンジンを動力とし、120分の長時間飛行と強力な台風性能を持ち、100km以上の連続飛行が可能なシングルローター型ドローン。洋上風力発電設備や送電線・パイプライン、海上・陸上の広域監視などに利用されている。現在、三菱重工と自動離着艦やAI検知を備えた監視システムも開発中だという。
また、ラストワンマイルでは足りない長距離輸送(数十km)などにも利用でき、石垣島〜西表島間35kmの配送も実証実験済みだ。5kg程度の重量であれば50km以上フライトすることができる。
今回のデモンストレーションでは、監視用機と物流用機の2機同時飛行するという大きな機体でアクロバティックなフライトを見せてくれた。
着水・離陸可能!PRODRONE PD4-AW-AQ(AQUA)
フロートをモーター下に装着し、着水離陸可能なドローンAQUA。IP55レベルの防塵防水機能(高圧洗浄機で水をかけても問題ないレベル)を持ち、機体下部のカメラで水中撮影も可能となっている。ダム点検や海上での運用において水没せず、バランスを保ったまま水面に浮くことができるほか、防水機能の高さから雨天飛行も可能で365日の警備監視にも最適だという。
デモンストレーションでも会場に設置されたプールに着水してみせたAQUAだが、通常の飛行も最高速度80km/h、耐風性能10m/sとかなりスピーディ&パワフルな飛行だった。
線路・架線も自動で点検を目指す!名古屋鉄道
航空業界への出資、航空系子会社による航空機の運用など実は航空業界への関係性が深い名鉄。ソニー製モジュールの光学20倍カメラを搭載したPRODRONE PD4-XA1を運用し、災害時の架線・線路点検の社会実装を検証している。
通常、災害時の架線・線路の点検はカートのようなものを走らせて行っているが、倒木等が線路上などにあればそれ以上進めなくなってしまうこともある。その点、ドローンは飛行して点検を行うので倒木を越えて点検することができる。
また、点検映像は現場だけでなく、遠隔で鉄道本部と映像を共有できたことが大きな成果だという。今後は、ドローンの運用を災害時だけでなく常時のトンネルや橋梁の点検に広げたり、将来的には本部からスイッチひとつでドローンが発進・点検するような仕組みをつくりたいとのことだ。
イベントを終えて…
「DRONE EXPO 2022 in Aichi」を終えて、PRODRONEの戸谷氏と菅木氏に改めて話をうかがった。
PRODRONE代表取締役社長 戸谷俊介氏:我々がやりたかったことは、まず目の前で最前線で活躍するドローンを飛ばしてみるということ。展示会もあるが、実際に飛ばすことができない。「ドローン前提社会」と言うが、では「ドローン前提社会」とはどんな社会なのか。ドローンが飛び交う近未来とはどのようなものなのか…言葉だけでなく、それを実際に見せたいということで本イベントを企画した。
PRODRONE取締役副社長/CTO 菅木紀代一氏:見てほしかったのは非常に高い実用可能性。例えば、捜索活動をする際に、雨や雪が降っているからドローンが出せない…ということではドローンが本当に必要な緊急時に使うことができない。本日デモフライトを行った機体は全天候型で実質稼働率が高い機体ばかり。その必要性と現状の技術レベルの高さが伝わればよいと思う。
リアルな「ドローン前提社会」を目の前で見せる。天候の悪化がさらにそのことをリアルに来場者に伝える演出にもなったのではないだろうか。雨の中、特にトラブルもなくいつもどおりのフライトを見せる機体やオペレーションチームの動きはドローン前提社会をひと足はやく見たという実感を得るには十分なものだ。
ただ、戸谷氏はドローン前提社会に向けたドローンメーカーならではの課題について、苦慮している様子もにじませる。
Level 4を前提とした飛行認可、特に機体認証についてはとてもハードルが高い。耐空証明的なものが必要なので航空機製造免許がないと難しいくらいのレベル感。そうなると我々ベンチャーの開発レベルではなくなってしまう。
また、現状は航空機にある事故調査委員会がないので今後はそういった仕組みも必要。事故、墜落時には国交省に報告し国交省事故調最委員会を通じて調査をする。こういった仕組みがあることで事故率の改善につながり、ひいてはドローンの社会受容性向上や社会実装につながっていく。
基調講演を行ったDRON FUND共同創業者・代表パートナー 大前創希氏も、ドローンの社会実装に向けて乗り越えなくてはいけない4つの課題として以下を掲げていた。
- 要素技術の革新(長時間飛行可能な動力源や機体の安全、セキュリティ対応など)
- 実証実験から事業化・収益化へ(収益性・省力、省人化など)
- 法・規制の整備
- 社会受容性の向上
課題も多くあるものの、確実に近づいていることが実感できる「ドローン前提社会」。今回のイベントはその可能性と課題をリアリティをもって提示するとても貴重な機会になったはずだ。