txt:田口厚 構成:編集部
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いきなりEHang(億航/イーハン)の技術と環境の素晴らしさを目の当たりにした深圳訪問。もちろん、深圳の先進的なドローン企業はまだまだあります。2回目の今回は、農業や産業用に特化した2つの企業を引き続き大前創希氏と対談形式でお伝えいたします。
農業に完全特化して突き抜けたXAG
日本でも農薬散布ドローンの自動航行がようやくスタートを切ろうとしていますが、XAGで見たものはSIM搭載ドローン×携帯端末×クラウドというもっと先を行く未来の農業の姿でした。
筆者:XAIRCRAFTという名称でスタートした自動農薬散布ドローンを開発している会社で日本法人もあるのですが、深圳の本体は社名がXAGに変わりました(日本はXAIRCRAFT)。
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大前氏:この社名変更には農業全体のサービスやソリューションを展開するというメッセージも込めて「AIRCRAFT」ではなく農業=AGRIの「AG」を入れた…ということですね。
筆者:まさにそのとおりの会社でしたね。いい意味で農業のことしか考えていなくて、そして突き抜けていた。
大前氏:機体もほぼ1機種しかないのですが、その代わり徹底的にブラッシュアップして高度なビジネスモデルを築き上げていた。
筆者:RTK(リアルタイムキネマティクス)によって数センチ範囲での誤差内での自動飛行ができる(事前に圃場のドローン測量が必要だがもちろんそれも自動)機体なのですが、コントロールもスマホ型のアンドロイド端末でできる。
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ドローン運用携帯端末を操作するオペレーター
大前氏:機体のデザインもかっこよかった。ヤンマーの最新トラクターってかっこいいんだけど、それに似ていましたよね。アレが動いているとそそられるものがありますね。
筆者:かっこいいだけでなく、利便性も高そうでした。タンクもカートリッジ式になっていて簡単に取り出せる。農薬残量をチェックできるユニットや、設定した量の農薬を入れるユニットなどもありました。とてもユーザーライクですよね。
大前氏:何よりすごかったのは、飛行データやマッピングデータがリアルタイムにクラウドに集約されていたところ。今中国でXAGの機体を使って農薬散布しているところが全てライブで見ることができて、機体・飛行状況・操縦者・地形データなどの情報をサポートにも役立てている。
SIM搭載ドローンによってフライトデータがリアルタイムにクラウドにアップロードされる
筆者:農家さんでも運用できそうなシンプルさでしたね。
大前氏:実際は農家さんではなくてサービスを提供する方が周辺にいるという構造らしいのですが、XAGの機体を運用するためのライセンス制度もあって、ホルダーが数万人いて数千機が稼働している。農薬散布機を販売するというよりは、農薬散布に関する総合的なサービスを提供しているという仕組みができていました。
筆者:個人的にはDJIのMavicとINSPIREをミックスしたような測量用機体が気になりました。カッコいい(笑)。カッコいいだけでなく、この機体で農薬散布前に数センチ範囲の誤差の中で測量し、それをAIが解析することで障害物を抽出、そのデータをもとに農薬散布機が安全に飛行するというとても良くできた仕組みです。
大前氏:すごく良くできた仕組みだよね。農地の中に飛び地みたいな森があっても高さも含めて正確に測量しているのでその森を避けるようにフライトできるし、樹木の形もデータ化しているので、果樹園でも木の周囲を周回しながら農薬散布するということもできる。
果樹の場所がAIによって自動で認識される
筆者:散布ノズルの形状も工夫がありましたね。一般に言うスプレーではなく円盤状の拡散機構がありました。
特異な形状をした散布ノズル付近の形状
大前氏:アトマイザー方式というタイプで、円盤の回転速度によって液滴の直径を100μm以下に保つことができる。これが通常のスプレータイプにある噴霧圧によって液滴の直径が変わってしまうというデメリットを解消しています。
筆者:ほんとうによく考えられていますよね。そして、何より近未来感を感じたのは、その機体にSIMカードが搭載されていてリアルタイムにデータ共有ができているということ。先程ご紹介したマッピング等のデータがXAGにはリアルタイムに集まって蓄積されたビッグデータになっているということです。
サービスを使ってもらえれえば使ってもらえるほどデータが蓄積し、他社にはない情報やノウハウになる。日本ではまだSIMカード搭載機体の運用は実証実験の段階ですが、その先にある近未来の姿を見ることができました。
深圳の産業用ドローン企業の雄 MMCに訪問
DJI創業メンバーの一人がスピンオフして2008年に立ち上げたMMC(MicroMultiCopter Aero Technology)社。産業用ドローンの設計・加工、各種パーツの開発生産、操縦用のシステム開発まで全てワンストップで提供でき、6月には日本のエアロネクストとも戦略的提携を結んでいます。この日本でも注目のMMCにも訪問してきました。
筆者:深圳も支援をしている産業用ドローンの企業MMCにも訪問してきました。実は私たちは3年前にも一度訪問しているので、今回とても楽しみしていた企業のひとつでした。
大前氏:3年前に訪問したときは軍事色の強い企業というイメージがあったのですが、今回の訪問では産業用途に向けて発展して軍事はその中のごく一部という印象になっていましたね。
筆者:MMCでいちばん有名なのは水素燃料ドローン。今回デモしていただいた機体は水素ボンベが機体の上に搭載されて、機体下部にある発電機につながっていましたね。
産業用途の水素燃料搭載ドローン。機体上部のボンベに水素が入っている
大前氏:正確には「水素発電」かな。この機体は産業用だとフライト時間は3時間、軍事用だと4時間以上。ただ、機体に発電設備を搭載するのでペイロードはそれほど大きくない。産業用が1.5kgで軍事用が3kg。ポイントは、3時間フライトできるというメリットをどう活かすのか…ということですね。
軍事用途の水素燃料搭載ドローン。4時間以上のフライトができる
筆者:「監視」などに向いているのでしょうか。
大前氏:イベント監視みたいなものは想定のひとつでしょうね。または施設の監視で固定カメラを設置しにくいところ。そいういったところは循環監視をするために活用できます。つまり、一般的
に言うと繰り返し着陸したくないというところにニーズがあるんじゃないかな。
飛行時間が長い=長距離の物流というように考えてしまいがちですが、ペイロードを考えると、実はそこには向いていないかもしれませんね。
筆者:もうひとつ、MMCでおもしろかったのはオープンソース&オープンマインド。フライトコントローラー部分もソフトウェアはオープンソースの「Ardu Pilot(オリュデュ・パイロット)」を使っています。
つまりはユーザー側が使っているものがオープンソースであれば、MMCの提供するものをかんたんにカスタマイズ、組み込むことができる仕様になっているということですね。
大前氏:SDK等の一部開放領域があるとは言え、DJIがブラックボックス的なイメージが強い中でMMCは完全にオープン。オープンソースを多用して、オープンな関係性・環境の中で自由に機体も組み上げて一緒に開発するというのが特徴ですね。
筆者:デモで見せていただいた機体のジンバル取り付けユニットが印象的でした。ファミコンのカセットのようにスライド装着するだけで40倍光学ズームカメラから赤外線カメラにサクッと切り替え、そのユニットは多くのものに応用可能とか。ポテンシャルが高そうです。
大前氏:ほかに気になる点としては、日本市場をとても重要視していて、数ヶ月以内に日本進出を考えていると言っていましたね。
筆者:技適を取るとも言っていました。
大前氏:産業用のプロポに相当するものに対して技適を取るということを言っていまして。雑な言い方をすると、中国の企業って少し荒っぽい印象があったのですが、MMCに関してはまったくそのような印象はありませんでした。むしろ丁寧で、日本市場のことを学習していろいろと一緒にやっていきたいと言っていたのが印象的でしたね。MMCが日本市場に入ってくるというのは非常に楽しみなトピックです。
XAGとMMCの訪問を終えて…
農業に特化したXAGと、産業用にオールラウンド&カスタマイズ可能な機体を提供するMMC。共通して感じたことは、ともにそれぞれのユーザーに対してとてもフレンドリーな関係性を持っていることと、メーカーでありながらサービスとしてビジネスを展開しているところでした。
XAGはかんたんに扱える携帯型端末で運用する自動航行機体がSIMでリアルタイムにクラウドにデータを共有しながら農薬散布を行います。このデータの蓄積は、どこよりも早く多くのユーザーにサービスを提供することで膨大に集まり、そのデータをもとに安全管理やユーザー分析、新たな技術やサービスの開発にも役立てているのでしょう。
数万人のライセンスホルダーが数千機を運用しているXAGの最大の強みはココかもしれません。
MMCは、自社ワンストップで産業用ドローンをカスタマイズ・提供できるものの、オープンソースのソフトウェアや規格でさまざまな企業と協力できる仕組みとマインドがありました。そのことにより、技術に優れたMMC製産業ドローンが普及するだけでなく、MMC製品を組み込んだ他社製の機体がさまざまな形で市場に投入されていくことでしょう。
XAGとMMCの視察は、これからの日本のドローンを取り巻くビジネスのヒントが多く詰まった視察となりました。XAGは旧名称XAIRCRAFTとしてすでに日本市場に参入しており、MMCも記事中のとおり近々日本市場に参入してくるかもしれません。この2社のビジネス展開に日本国内も目が離せません。